プロローグ
青い海、輝く太陽、ほどほどにある白い雲。そんな大海原の中で私は戦闘準備を始めていた。
「発動機始動!電探・音探共に異常なし!」
戦艦大和の格納庫内で私は『戦機』と呼ばれる新兵器を装着して、次々と出撃用意を済ませていく。この戦機という兵器は人体装着型の機動兵器・・・と言っても訳分からないだろう、簡単に言ったら『大型兵器を歩兵サイズに凝縮して、大砲や重機関銃を人一人で運用出来るようにする』兵器だ。その容姿からして『兵器の擬人化』とも言われる。
「和泉少尉、戦果を期待しますよ!」
「了解!さっさと蹴散らしてくるよ!」
戦機の起動を手伝ってくれた整備兵に分かれの挨拶をして、51cm50口径戦機用砲兵装を持って格納庫出口にへと向かう。この51cm砲は今乗っている戦艦大和の主砲より一回り大きく、威力・射程も46cm砲を上回る代物だ。
「戦機状態良好、整備兵達に感謝だね。和泉雪風少尉、発艦準備完了です!」
「了解。射出用意、戦果期待してますよ」
格納庫からクレーンで甲板に上げられた私は射出機に乗せられ、射出要員達が射出準備を行う。そして。
「航空戦艦型戦機『紀伊』最終起動」
私のかけ声と共に装着している戦機が唸りを挙げて展開しだす。まるで鋼鉄のドレスのように綺麗だが重厚な装甲を展開し終えたのを確認し、私は踏ん張りを利かせて姿勢を低くする。
「和泉少尉、射出!」
「射出!」
ドンッ!という火薬が爆発する音と共に前へと勢いよく押され、戦艦大和から射出される。一気に時速200km程で放り出される衝撃は並大抵の物じゃないけど、この瞬間が一番好きだ。そのまま海にへと投げ出された私は着水せずに、1m海上から浮いた状態で背中から鋼鉄の飛行翼を展開して戦地へと急行した。
☆
「距離1000、標準よし、三式対空弾撃て!」
けたたましい爆音と共に私の51cm砲が火を吹き、目標の航空機隊の目前で砲弾が炸裂して破片によって次々と飛行機が落ちてゆく。大和から出撃して直ぐに私は空母『赤城』と駆逐艦4隻の艦隊に合流していた。そして私が到着して早々に敵機による空襲が始まり、私と飛龍と第十六駆逐隊で対空射撃を開始していた。
「くそっ!敵機が多すぎる、でも空母をやらせる訳には・・・」
まだやって来る敵編隊を睨んでもう一度51cm砲の照準を合わせる。そして引き金を引き絞って再び3式対空弾をお見舞いしてやる。また敵機が黒煙を吐いて墜落してゆくが、それでも敵編隊はこっちに突っ込んで来る。
「これ以上は主砲じゃ無理か、近接戦闘に入ります!」
そう言って51cm砲を右肩のラックに掛けて、反対のラックからドイツから取り寄せたMG42機関銃を取り出して再び対空砲火を行う。本来なら歩兵相手に使うこの機関銃だが、実際の所は対空火器としても使えるスグレモノだ。
しかし対空砲火をかいくぐって来たドーントレス爆撃機が私と赤城に狙いを定めて急降下してくる。そりゃそうか、空母と戦機と駆逐艦なら空母と戦機を真っ先に狙うはず。
「中れ!中れ!」
直ぐに射線を赤城に急降下するドーントレスに向けるが、撃墜出来たのは1機だけで爆弾が赤城に降り注いだ。続く爆音、飛び散る破片。やられた、数発の爆弾が赤城に命中して大爆発を起こす。が、敵はそれだけに飽き足らず今度は私に向かってやってくる。
「ヤ、ヤバい!きゃぁぁぁぁぁ!!」
放たれた爆弾が私の周りに着弾して爆発する。直撃こそ無かったけど衝撃は私を飲み込んで、私を乱暴に振り回す。戦機を着用している人は装着中は戦機が無事な限り特殊装甲に守られて死ぬ事は無いが、何割かに軽減されて感じる痛みともみくちゃにされる感覚で私は藻掻いていた。そして直ぐに敵機からの機銃掃射、さらに爆撃と赤城以上の猛攻が私を襲う。
「うわぁぁぁぁぁぁ!!」
これは悪夢だろうか?死ねない痛みに悶えながら無茶苦茶にされる私。このまま何も出来ずに戦機の限界が来て死ぬのだろうか?嫌だ。死ぬのは覚悟している、でも犬死にはしたくない!
そう思った瞬間。奇跡でも起こったか、私が向く方向の水平線に艦隊の陰が見えた。方向からして味方じゃない、とすると・・・。考えるより早く私の右手は動き、51cm砲を水平線近くの艦隊を捉える。
「くたばれぇっ!」
ズドン!と51cm砲が火を吹いて砲弾が艦隊に向けて飛翔してゆく。砲弾は直進していき、中心の空母に命中。船体ごと真っ二つにへし折って空母は沈没してゆく。そして空母撃沈と共にさらに激化してゆく空襲。大量の爆風と激痛の中で私は意識を手放した。