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ひかりのつぼみと、風をわたる剣

作者: 大慈真一
掲載日:2026/04/18

むかしむかし――といっても、そんなに昔でもないころ。


海のそばの小さな町に、ふたりの姉妹が暮らしていました。


姉の名前はリオ。十五歳。

妹の名前はヒメ。七歳。


ヒメは、よく笑う子でした。

そして、リオは――ちょっとだけ、かっこつけでした。


「ねえ、お姉ちゃん」


ある日の朝、ヒメは手のひらをひらいて見せました。


そこには、豆粒みたいに小さな光が、ちょこんと乗っていました。


「これ、しゃべるの」


「……え?」


ぴか、と光がまたたいて、


「おはようございます!」


と、小さな声がした。


「しゃべった!!?」


リオは思わず飛びのきました。


「ね? かわいいでしょ」


ヒメはにこにこしています。


「かわいいけど……なんなのそれ」


「わかんない!」


「わかんないのかよ!」


ぴかぴか光るその小さな存在は、自分のことを


「つぼみの精」


だと言いました。


「ぼくは、ひかりのつぼみです。大事なものを探しています」


「大事なもの?」


「はい。なくしてしまったんです。“こころの油”を」


「こころの油?」


リオは首をかしげます。


すると、つぼみの精はしょんぼりと光を弱めました。


「それがないと……ぼくは、ちゃんと咲けません」


ヒメはすぐに言いました。


「じゃあ、探しにいこう!」


「軽いな!?」


リオがつっこみます。


でも、ヒメはもう決めた顔をしていました。


「だって、かわいそうだもん」


そのひとことに、リオは少しだけ黙りました。


……しょうがないな。


「わかったよ。行こう」


こうして、ふたりの小さな冒険がはじまりました。



町を出て、森へ入ると、すぐに変なやつに出会いました。


ぴょこん、と道の真ん中に、カエルが座っていたのです。


しかも、なぜか腕を組んでいます。


「待て」


「うわ、しゃべった!」


「ここを通るなら、なぞなぞに答えろ」


「めんどくさ!」


リオが即答しました。


カエルはむっとします。


「む、ではこれはどうだ。“跳ばずに空を渡るものはなんだ?”」


ヒメが首をかしげます。


「……つばめ?」


カエルは一瞬、ぽかんとして、


「……正解」


と言いました。


「やったー!」


ヒメがぴょんぴょん跳ねます。


カエルはこほんと咳払いして、


「礼として、これをやろう」


そう言って、小さな羽を渡しました。


それは、つばめの羽でした。


「風を知る羽だ。空を渡る道を教えてくれる」


「ありがとう、カエルさん!」


ヒメが笑うと、カエルはちょっと照れたように、


「……ふん」


とだけ言いました。



さらに奥へ進むと、古びた神殿にたどり着きました。


中はひんやりとして、少しだけ怖い雰囲気。


「ここにあるのかな、“こころの油”」


リオが言うと、つぼみの精が光を強くしました。


「感じます……近いです」


そのとき。


ごごご……と音がして、奥から巨大な影が現れました。


石のドラゴンです。


「うわ、でた!」


「守る……油……」


ドラゴンがのっそりと動きます。


「戦うしかないか……!」


リオは、腰の剣を抜こうとして――


「あれ、ない!?」


「お姉ちゃん、こっち!」


ヒメが指さした先に、一本の剣がありました。


壁に立てかけられた、古いけれど不思議な光を持つ剣。


その柄には、こう刻まれていました。


――ユリシーズ


リオは思わず、それを手に取りました。


すると剣は、ふっと軽くなり、風のように手になじみました。


「これ……いける気がする!」


ドラゴンが迫ります。


リオは一歩踏み出し、思いきり剣を振りました。


ひゅん――


風の音とともに、光が走ります。


ドラゴンの体に当たった瞬間、


石は、さらさらと砂のようにほどけていきました。


「すご……」


リオは目を見開きます。


剣は、まるで“やさしく切る”ように、敵をほどいていたのです。


やがてドラゴンは消え、その奥に小さなびんが残りました。


中には、やわらかな光をたたえた油が入っています。



「これが……」


つぼみの精がふるえます。


「“やさしの灯油とうゆ”……」


ヒメがびんを手に取りました。


「なんか、あったかいね」


リオもうなずきます。


「うん。なんか……守りたくなる感じ」


つぼみの精は、そっと油に触れました。


すると、ぱあっと光が広がり、


小さなつぼみが、ゆっくりと花になりました。


「ありがとう……」


その声は、少し大きく、やさしくなっていました。



帰り道。


空にはつばめが飛んでいました。


カエルは相変わらず道に座っていて、


「……帰ったか」


とだけ言いました。


「うん!」


ヒメが元気に答えます。


リオは、ユリシーズを背中に背負いながら、ふっと笑いました。


「悪くなかったな、今回の冒険」


「でしょ?」


ヒメは胸を張ります。


小さな花の精は、ふたりのあいだで、静かに光っていました。


それは、まだ小さいけれど、


確かに“咲いたもの”の光でした。



その町では、ときどき、


夜になると、小さな光がふわりと浮かぶと言われています。


それはきっと、


誰かの中にある“やさしさの灯り”が、


そっと外にこぼれたものなのかもしれません。


そして、もしそれを見つけたら――


少しだけ、やさしくなれるのです。



おわり

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