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ゴールデンフラワーの一着

作者:乾為天女
 春の終わり、東京・神楽坂の路地裏。古民家を改装した小さなオートクチュール工房「ゴールデンフラワー」に、新人の仕立て屋・茉子が入る。針で布を読み、体温まで想像して縫いたい茉子に対し、帳簿と電卓を抱えた遼は「まず在庫を数えよう」「糸一本の単価から」と現実を突きつける。舞台女優の採寸でメジャーを落とし、芽吹が無言で拾って渡す。高級糸を巡って言い合い、博宣が安くて質の良い店を教える。笑ってしまうほど不器用な毎日が、工房に少しずつ馴染んでいく。
 審査会へ出す一着の制作が始まると、茉子は亡き妻のドレス修復で学んだ線を、許可を取る前に資料へ混ぜてしまう。遼は「嘘をつくなら最後まで守るか、いま言うか」と針先みたいに鋭い言葉を置き、茉子は管理人へ頭を下げに行く。条件は「完成したら、星の見える場所で見せてほしい」。締切の紙が机に貼られ、遼が区切り表を作り、芽吹が「これ助かる」と笑う。見積りが膨らむ客仕事では、二人で優先順位を聞き直し、泣きながら「それでいい」と頷く客の肩を、茉子の指先がそっと支える。
 やがて遼の帳簿に“空白の一年”があると分かり、優歌の思惑もほどける。最後の布が届かず、二人は早朝の市場へ走り「また共犯者だ」と笑い合う。裁断前に震える茉子の手に遼が添え「ここまで来た。切ろう」と背中を押す。遼が節約にこだわる理由も語られる。昔、家計が崩れ、好きな人の夢を支えられなかった悔しさ。茉子は「今は支えられています」と言い、遼は目をそらして笑う。
 管理人は妻の宝石ゴールデンクォーツをボタン飾りとして貸し、遼は「責任は二人で持つ」と言う。本番当日、モデルの靴が消えて遼が膝を埃まみれにして探し回り、芽吹のリボンで急場をしのぐ。光の中で一着が揺れ、茉子は嘘を清算し、遼は大きなメゾンを去った過去を語る。星の散る屋上庭園で約束が結ばれ、翌朝、二人はまた神楽坂で“世界に一着”を縫い始める。
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