助けてルビアズ!
『ルキフェル』本部事務所内の気温が、物理的な数値を無視して絶対零度まで低下したかのような錯覚に陥る。
呼吸をするたびに、肺腑が凍りつくような緊迫感。
それは比喩ではなく、『高位存在』の相手をせねばならないと言う絶望感と、ゼノヴィアという強大な『上位存在』級『エグジスト』が放つ、純度百パーセントの殺意と闘争本能が空間を浸食しているからだ。
レフィーマはただ困惑し、思考が白く塗りつぶされていた。冷や汗が頬を伝う。鳥肌が立つ。
あまりに濃密な死の気配は、逆に現実感を奪う。
「み、みほよちゃん……」
クルクスが震える声で呼びかけるが、その声は届かない。
みほよは、愛用の高機能チェアの上で項垂れ、「終わった……」と、この世の終わりのような絶望を噛み締めていた。彼女の脳内では、すでに最悪のシミュレーション────事務所の壊滅、ルビアズの激怒、自身の過労死────が完了しているのだろう。
静寂を破ったのは、水の流れる音だった。
ゼノヴィアが、ウォーターサーバーから『オルデン・ウォーター』をグラスになみなみと注ぎ、それを一息に煽ったのだ。喉を鳴らして飲み干すと、彼女はグラスをテーブルに叩きつけた。
「じゃあ、行ってくる。テロ組織もろとも、その『高位存在』野郎をぶっ殺してくる」
それは、コンビニへ買い物に行くような気軽さで吐かれた、自殺志願の言葉。
「あっ、ちょっと! 待ってよゼノヴィアちゃん!」
「ゼ、ゼノさん! ダメですってっ! 正気に戻ってください!」
クルクスとみほよの悲痛な叫びを無視し、ゼノヴィアは即座に壁面の転移ポータルへと突っ込もうとする。
だがその瞬間、虚空から何かが噴出した。
音もなく、それは纏わりつき、ゼノヴィアの動きが強制的に停止させられる。
「……おい」
ゼノヴィアの喉から、地獄の釜の底から響くような低い唸り声が漏れた。
彼女の体を拘束していたのは、クルクスの能力により実体化した、強固な土の塊だった。それは大蛇のように彼女の身体に巻き付き、物理的な移動を封じている。
「『ガーデン・オブ・ラブ』。……ゼノヴィアちゃん、昔っからそういうところあるよね。自分より強いやつ、あるいは同格の強者を目にすると、周りが見えなくなって突っ走る。そういうの、なんて言うか知ってる? 『狂戦士』って言うんだよ」
クルクスが、普段の陽気な口調ではなく、真剣な眼差しで諭す。
彼女は続けて、ふっと溜息をついた。
「感情で周りが見えなくなるの、なんかレフィーマちゃんと似てるよねぇ」
そう言って、同意を求めるようにレフィーマの方を向く。
「……この人と一緒にしないでください。心外です」
レフィーマは、引きつった顔で、しかし明確な拒絶の意を示した。こんな人の心などない戦闘狂の『エグジスト』等と一緒にされてはたまらない。
ゼノヴィアは土の塊に拘束されたまま、ピクリとも動かない。ただ、首だけをゆっくりと回転させ、背後のクルクスを睨みつけた。
「クルクス。離して」
「ダメだよ。今回ばかりは譲れない。ゼノヴィアちゃんがいなかったら、私たちだけで『高位存在』級なんてとても対処できないからっ。とりあえず今は待機してくれない? お願いだから」
クルクスの懇願に対し、ゼノヴィアが露骨な不快感を表情に浮かべた。
眉間に深い皺が刻まれ、黄色く濁った白目と、真紅の瞳に向かい黒い線が集中線のように走った、幾何学的な異型眼球が侮蔑の色に染まる。
「おい。誰に向かって口を利いてるんだ? あたしより何百年も無駄に長く生きてる癖に、才能もなく、未だに『上位存在』級の『中級』程度の実力で止まってる雑魚が」
その言葉は鋭利なナイフのように、クルクスの最も痛い部分を抉った。
力こそが全て。強さこそが正義。
その思想は、どこかこの組織の頂点であるルビアズのそれを彷彿とさせる。
「ま、まぁそれは事実だけど……でもさ、一応ここは組織だから! チームワークとか、指揮系統とか、勝手な行動は謹んで────」
パン。
乾いた破裂音が響いたような気がした。
相殺術により、音はしない。
途端に、ゼノヴィアを雁字搦めにしていたはずの硬化土壌が、まるで砂上の楼閣のように音もなく崩壊し、音もなくさらさらと崩れ去った。
ゼノヴィアが行った動作は、ただ軽く両腕を広げただけ。
それだけで、クルクスが全力で展開した拘束は、意味を成さずに霧散したのだ。
圧倒的な実力差。
『上位存在』の中にも、明確な階級差が存在するという残酷な現実。
拘束を解いたゼノヴィアは、埃を払う仕草すら見せず、眼前の『エグジスト』に対し、見下しの瞳を翳す。
「あのさ。あたしが従ってるのは、あたしより圧倒的に強いボスになんだよね。君じゃないの。勘違いしないで」
再び、ゼノヴィアからどす黒い殺気が放たれる。
先程までとは質が違う。明確な敵意を含んだ、同僚に向けるべきではない波動だ。
レフィーマは再び身震いした。本能が警鐘を乱打している。もう一秒たりともこの空間にいたくない。
「ゼ、ゼノヴィアちゃ────」
クルクスの額から冷や汗が流れる。彼女もまた、本能的に理解してしまった。目の前の女は、今、本気で自分を排除しようとしていると。
「邪魔するなら、まずお前から殺してやろうか。『中級』の雑魚が。調子に乗ってイキがってるんじゃ────」
「~~~~っ!」
クルクスの『エグジスト』としての第六感が、死の接近を告げた。
思考より先に防衛本能が作動する。
クルクスは瞬時に能力を全開にし、虚空から無数の土の刃────完全なるウルツァイト窒化ホウ素や、ナノ双晶型立方晶窒化ホウ素より硬い岩石のスパイク────を扇状に展開し、身構えた。
同時に、レフィーマも限界だった。
理性が吹き飛び、生存本能が身体を支配する。
無意識のうちに、彼女の『超能力者』としての能力が発動していた。
空間が歪み、彼女の背後に黒い靄と共に人型の実体が現出する。
『プティ・プランス』。
豪奢な王族の装飾が施された黄金の宝冠を戴き、包帯で両目を固く閉ざした、女帝を思わせる威厳ある人型。
レフィーマの十指からは、ピアノ線のように鋭利な漆黒の糸が伸び、周囲の空間を切り裂くように展開される。
事務所内は一触即発、内戦勃発の危機に瀕していた。
「はい! そこまでです! ゼノさんやめてください! 落ち着きましょうっ!」
パンッ!
と、小気味よい音が空気を震わせた。
みほよが、両手で思い切り柏手を打った音だ。
全員の視線が、デスクの彼女に集まる。
そこには、先程までの絶望顔はどこへやら、完全に「仕事モード」に切り替わった鉄の女がいた。顔色はすっかり戻り、眼鏡の奥の瞳は冷徹に光っている。
「………あ?」
ゼノヴィアが、ゆっくりとみほよを見る。
クルクスですら震え上がるほどの殺気を向けられても、みほよは眉一つ動かさない。
「組織内での構成員同士の殺害行為は御法度、一発で除名処分……と言うかその場で殺処分ものの、超々重罪ですよ? あなたがその無意味な殺し合いをやめないなら、今すぐこの場の映像をルビさんの『デバイズ』へ生中継で送信します。なんなら『緊急SOS』コード付きで。いいですか?」
みほよは至極冷静に、事務的な口調で言い放った。彼女の網膜投影された『デバイズ』は視認映像録画モードに設定され、左手はすでに空中キーボードのエンターキーの上に置かれている。
その脅しは、物理的な攻撃よりも遥かに効果的だった。
ゼノヴィアの動きがピタリと止まる。
あの絶対的なボス、ルビアズに知られる。それは彼女にとって、死よりも恐ろしいペナルティを意味していた。
「あっ、ご、ごめん、みほよ。ちがう、今のは……ちょっとしたアメリカン・ジョークで……」
ゼノヴィアが瞬時に殺気を霧散させ、慌てふためく。
「今の、冗談じゃないですよね。目が本気でした。完全に殺す気でしたよね」
みほよは真顔のまま、追い打ちをかける。
「そんな野蛮なことばかりしてると、ゼノさんのこと嫌いになっちゃいますよ?」
ズキュゥン、という効果音が聞こえそうなほどの衝撃がゼノヴィアを貫いた。
先程までの最強の捕食者のオーラは雲散霧消し、そこにはただの、友人に絶交を言い渡された少女のような姿があった。
「だ、ダメっ。お願い、それだけはっ! 嫌いにならないでっ」
表情こそ無表情のままだが、声色が明らかに動揺し、両手を合わせて拝むように擦り合わせている。
ゼノヴィアはなんだかんだで、この人間のことを気に入っているのだ。
彼女の中での格付けにおいて、みほよはつい先程、羽虫からトンボ(ただしギンヤンマ級)へと昇格したばかり。それは彼女なりの、最大限の敬意と友好の証である。
なにより、自分が認めた唯一の「個人」の人間であるみほよから、一方的に関係を切られることは、『エグジスト』としての、そして強者としてのプライドが許さなかった。
プライドを守るためにプライドを捨てるという自己矛盾とも取れる奇妙な論理で、ゼノヴィアは人間に許しを乞うた。
「なら、私より二人に謝ってください。クルクスさんもですが、レフィーマさんには特に。見てください、彼女、怯えて能力出しちゃってるじゃないですか」
「……っ」
名前を呼ばれ、レフィーマはビクッと肩を震わせた。
心臓は依然として鼓動の亢進が増している。背後の『プティ・プランス』も、主の動揺に合わせてゆらゆらと揺らめいている。
「あー……。とりあえずごめんね、クルクス」
死んだ魚のような目をクルクスに向け、心の一片もこもっていない棒読みの謝罪を口にするゼノヴィア。
「う、うん。わかってくれれば、大丈夫だよ」
クルクスは深く安堵の息を吐き、能力を解除した。彼女の周りの土の刃が、幻影のように溶けて消えていく。
ゼノヴィアは次に、レフィーマの方へ顔を向けた。口。開く。
「……レフィーマも。ごめんね」
無表情のまま、短く告げる。
「………」
レフィーマは答えられない。ただ硬直したまま、コクコクと小さく頷くこともできない。
その様子を見て、ゼノヴィアの悪い癖が出る。
「あれ、死んだ? それとも人間らしく死んだふり? 恐怖で身も心も虫けらになったのかな?」
「ゼノさん」
みほよの声が、再び絶対零度まで下がった。
「ごめん」
ゼノヴィアは脊髄反射で謝った。
「全く。本当に世話が焼ける人ですね、あなたは」
「ごめんってば……ほら、水あげるから」
この事務所内で唯一異能を持たない、生物として最も脆弱なはずのみほよが、何故か食物連鎖の頂点に君臨していた。
ゼノヴィアはそそくさとウォーターサーバーへ向かい、新しいグラスに水を注ぐと、それをみほよに献上して機嫌を取り始めた。
嵐は去った。
硬直が解け、へなへなと座り込みそうになったレフィーマだったが。
「うわぁ~ん! レフィーマちゃぁぁん! 怖かったよぉ~っ!」
「わっ!?」
ガバッ、と視界が塞がれた。
涙目になったクルクスが、突進する勢いでレフィーマに抱きついてきたのだ。
身長差と勢いにより、レフィーマの顔面はクルクスの豊満な胸の谷間に埋もれることになった。
甘い香りと、窒息しそうなほどの柔らかさ。
レフィーマにそちらの趣味は一切ないが、不覚にもその圧倒的な母性と体温に包まれたことで、張り詰めていた緊張の糸がプツリと切れた。
背後に浮かんでいた『プティ・プランス』と指先から伸びた黒糸が、霧のように薄れ、自然消滅していく。
事務所内を見渡せば、片隅では今の事務所内で最強の『エグジスト』が人間に水を注いで媚びを売り、もう片方では年長者の『エグジスト』が『超能力者』を抱きしめて「ふえぇん」と泣きじゃくっている。
まさにカオス。
みほよは、やれやれと言わんばかりに眼鏡の位置を直し、
「はぁ~……」
と、本日一番の深いため息を吐き出した。
「ク、クルクスさん……。く、苦しいです……」
豊満なる肉の暴力、あるいは慈愛の圧力に顔面を埋没させられたレフィーマが、窒息寸前の掠れ声で訴えた。
「あっ、ごめんねっ。大丈夫?」
クルクスが慌てて身を離す。その拍子に、彼女の右斜めに歪んだ黄金色の『超越瞳孔』が、心配げにレフィーマを見据えた。
人外の証であるその瞳だが、クルクスに悪い印象のないレフィーマには恐怖の対象には映らない。
「……大丈夫です。その、なんか……少し落ち着きました」
「え? なんて?」
「いえ、なんでもないです」
誤魔化すように、レフィーマは顔を背けた。
かつて、まだ彼女が中学生だった頃。故郷であるケンタッキー州バトラー郡は、政府が主導した「瘴気浄化作戦」という欺瞞に満ちた名目のもと投下された『熱核水蒸気爆弾』によって市民ごと全て地図から抹消された。
故郷と共に家族を喪い、孤独の身となったレフィーマにとって、「安心できる体温」など記憶の彼方に置き去りにされた感覚だった。
目の前のクルクス・ノイベルグは、外見こそ二十歳前後の快活な女性にしか見えない。しかし、その実は数百年、あるいはそれ以上の悠久の時を生きる『エグジスト』である。普段はお調子者で軽薄な言動が目立つが、有事の際に垣間見せる威厳は、彼女が積み重ねてきた歳月の重みを雄弁に物語る。
そんな彼女の、包み込むような抱擁。
それは一瞬だけ、レフィーマに幼き日の母の面影という、甘美で残酷な錯覚を抱かせたのだった。
一方、デスクではみほよが、ゼノヴィアから献上された『オルデン・ウォーター』を一息に飲み干していた。超軟水特有の、絹のように滑らかで甘い喉越しが、乾いた喉を潤していく。
「くっだらね。なんでクルクスは人間なんかと馴れ合ってるんだろ」
その光景を横目で見ていたゼノヴィアが、不愉快そうに吐き捨てた。
「なら、私ともその馴れ合いをやめてくれませんか? 水汲み係さん」
みほよが即座に軽口で刺し返す。
「……みほよは特別なの。君のその異常な知性には、あたしも一応の敬意を払ってるから。……悔しいけどね」
「はいはい、どうも。……とりあえず、まずはルビさんに頼るしかないかぁ……あの人、出るかなぁ……いや出ないだろうなぁ……」
みほよはゼノヴィアのツンデレじみた言い訳を適当にあしらいつつ、網膜に投影された社用の『デバイズ』を起動した。
数秒の操作。そして、深い溜息。
「ダメですね。着信拒否設定になってます。あの人、休暇中はビジネスの連絡は断固として出ませんから。精々、金払いの良い石油王とか大富豪からの『極太案件』メールくらいしか通知を通してないんじゃないですか?」
みほよは諦念と呆れが入り混じった表情で天井を仰いだ。
「あの人、とても組織のトップとは思えない社会不適合者ですよね。まぁ、生物として絶望的に強いから誰も文句言えないんですけど。これで弱くて、私がもし上位の『エグジスト』だったら寝首かいてブチ殺したくなるところですよ。ルビさん、『エグジスト』のくせに寝るの大好きですから」
さらに饒舌になるみほよだが、ホログラム・モニターを見てため息を零した。
「うわー……。『アイオン・ダイナミクス社』副社長から『今日中に取り返せ』とかいうふざけた追伸が来てますよ、これ。相手は『高位存在』ですよ? 『上位存在』同士の戦闘だって、泥沼化すれば三日三晩世界中を回って戦闘場所を変え続けることだってあるのに」
みほよの声色は憂鬱そのものだった。福利厚生は異常な程充実しているが、日常的に死人が出まくるのに平常運転など、労働基準法など存在しない裏社会。とはいえ、これはあまりに過酷なデスマーチだ。
「ニューヨークの『ルキフェル』が最後に『高位存在』を相手にしたのって、いつだっけ?」
ゼノヴィアが記憶を手繰るように尋ねる。
「三年前ですね。あの時はルビさんが現地に赴いて、文字通り秒殺してましたけど」
「よし、とりあえずルビアズを呼ぼう! 私に任せときなよ」
鬱屈した空気を払拭するように、クルクスが自信満々に胸を叩いた。
その動作に合わせて、彼女は大きく背を反らす。必然的に、その重力を無視したかのような豊満な胸部が強調され、服の生地が悲鳴を上げた。
「………」
みほよの視線が、無意識にそこに吸い寄せられ、焼き付く。
みほよの身長は、四フィート九インチ(約一四五センチ)。十九歳という年齢を考えればあまりに小柄だ。胸が無いわけではないが、慎ましいサイズであることは否めない。本人は口にこそ出さないが、その発育不全じみた体型を深く気に病んでいる。
まさに「天は二物を与えず」の言葉通り、彼女はその神懸かり的な頭脳と引き換えに、肉体的な成長のリソースを全て奪われたかのようだった。
「どしたの?」
横でキョトンとしているゼノヴィア。その純白の長髪がサラリと揺れる。
みほよはジトリとした目で彼女を観察した。
まず、常に無愛想ではあるが、神が彫刻したかのように整い、どこか婀娜めいた美貌。身長は五フィート十インチ(約百七十七センチ)というモデル並みの長身。いつも適当なジャケットやパーカーを着崩しているため目立たないが、その下には凶悪なまでに完成されたプロポーションと豊満な双丘が隠されていることを、みほよは知っている。
続いて、みほよの視線はレフィーマへと向く。
艶やかな黒髪を肩まで切り揃え、黒曜石のように深く神秘的な瞳を持つ美女。その整った顔立ちは東洋的な神秘性を帯びている。特筆すべきは、あの底なしの食欲を持ちながら維持されている痩身────そして、所謂「隠れ巨乳」という属性だ。身長は五フィート五インチ(約百六十四センチ)程であるが、それでもみほよよりはずっと高く、女性らしい曲線美を備えている。
そしてクルクスに至っては、五フィート十インチ(約百七十九センチ)という高身長かつ圧倒的な巨乳に加え、薄紅色の可愛らしいショートヘア、人懐っこい笑顔を振りまく愛嬌たっぷりの美貌。母性と幼さを同居させた、ある意味で反則的な存在だ。
(……この職場には、スタイルの良い美女しか採用枠がないんですか?)
みほよは内心で毒づき、深い憂鬱の底に沈んだ。彼女にだって悩みはあるのだ。もちろん、みほよ自身の顔立ちも十分に愛らしい部類に入るが、この「歩くフェロモン爆弾」のような三人に囲まれれば、ちんちくりんの子供扱いされるのがオチである。
「……いえ、なんでもありません」
みほよは頭を振り、邪念を強制排除して仕事モードへと意識を切り替えた。
まずは、対象となる『エグジスト』とテロ組織の詳細なプロファイリング、および戦力分析から始めるしかない。
その横で、クルクスが自身の『デバイズ』を操作した。個人的に通話をかける算段である。
普段は本人にしか視認できないインターフェースを、可視化モードに切り替えて空中に巨大なホログラム画面を展開する。
「出てくれ~……ルビアズぅ~……」
クルクスは祈るようにコール音を聞く。
しばらくの呼び出し音の後。
ブツリ、と回線が繋がった。
『なんだよクルクス。今は休暇中だと言ったはずだぞ』
スピーカーから響いてきたのは、明らかに不機嫌さを隠そうともしない、気だるげな低音だった。
空中に投影された映像には、ニューヨークの喧騒とはかけ離れた、南国の楽園が映し出されていた。
場所は例のブライトンビーチの別荘。
彼女はその後、『ルキフェル』各支部の優秀な『魔法使い』を総動員し生成した『隔絶空間』内部に格納したらしい。
まさに、ボスという権力の乱用である。
本来横暴にも程があるが、「まーたルビアズさんが新しい別荘用意してきたよ」と嬉々として協力し、彼らは職人魂を披露。
結果、ルビアズの望みを超え、この世のものとは思えない美しい亜空次元世界が完成した。
そこには、常識的な地理学を無視した絶景が広がっていた。エメラルドグリーンの海、白砂のビーチ、そして現実にはあり得ないほど巨大で美しい二つの月が浮かぶ空。
そのビーチチェアに寝そべっているのが、組織のボス、ルビアズ・ジャスパーだった。
サングラスをかけ、深紅のマイクロビキニに身を包んだ彼女は、太い葉巻を燻らせながら、サイドテーブルに置かれた異界の果実酒のような液体を優雅に揺らしている。
その肢体は、まさに「絶世」という言葉を具現化したかのようだった。
六フィート六インチ(約百九十八センチ)という女性離れした長身。長い手足はしなやかな筋肉に覆われ、白磁のような肌は月光を反射して輝いている。
そして何より、その圧倒的なバスト。
クルクスに匹敵、あるいは凌駕しそうなほどの質量が、布面積の少ないビキニによって強調され、深い谷間が形成され、重力に抗って存在感を主張していた。
みほよは画面越しにそれを見て、思わず息を呑んだ。
(改めて見ると……ウチのボスのスタイル、神がかりすぎというか、バグでしょ……中身は終わってるのに)
だが、そんな彼女のプロポーションに見惚れている時間はない。この後の彼女の一言に、事務所の、そして『ルキフェル』の命運がかかっているのだ。
クルクスが必死に声を張り上げた。
「ルビアズっ! 大変なんだよ! 実はまた『高位存在』が現出したのっ!」
『はぁ』
興味なさそうな吐息。
「ニュース見てないのっ!?」
『知るか』
一言の返事。早く通話を切れ、という無言の圧力が凄まじい。
「それで、……まぁ端的に言うと、今そいつがいるテロ組織を壊滅させて、奪われた宝石を取り戻せって緊急依頼が来てるんだよね」
『おう』
「……いや、だから! 『高位存在』の討伐依頼が来てて、私たちじゃ手に負えないからっ!」
『で?』
ルビアズの声が、ドスを利かせて低くなった。
『だからなんだと言うんだ? そんな案件、お前らで何とかすればいいじゃないか』
「………」
クルクスも、みほよも、レフィーマも絶句した。
これこそが『ルキフェル』のボス、ルビアズ・ジャスパーという生物の本質である。力は絶対的だが、責任感という概念が完全に欠落している。
『等級は?』
ルビアズが葉巻の灰を落としながら尋ねる。
「あ~……細かいスペクトルまでは分からないですよ。直接解析したわけじゃないですし」
みほよが横から口を挟む。
『んだよそれ。使えないな。……まぁ、『高位存在』つってもピンキリだ。種種様様だろう。『中級』の雑魚────私にとってはだが────ならともかく、『低級』より更に下位のクソ雑魚ならお前らでも対処できるんじゃないか? そっちには腐っても『上位存在』級『最上級』のゼノヴィアがいるだろ』
ポリポリと、無造作に豊かな真紅の髪を掻きながら言う巨女。
一つの階級内にも、細かい実力差や格付けは存在する。だが、腐っても『高位存在』だ。指先ひとつで惑星を消滅させ、星々を揺るがす化け物を「雑魚」と言い切るその口ぶり。
神の視点とでも言うべきか、彼女にとっては『高位存在』の『上級』以下の有象無象など、路傍の石ころと大差ないのだ。
「まぁ……『低級』よりもっと低い、成り上がりたての最低級なら、ゼノヴィアちゃんだけでも行けるだろうし……。『中級』でもゼノヴィアちゃんと協力して奇跡が起きればいけるかもしれないけどさ……。でも、万が一ってこともあるし、また本部の人員が欠けちゃうよ?」
『だから知るか。二度言わせるな』
ルビアズはサングラスをずらし、燃えるような赤い白目と、漆黒の異型ハートの瞳で画面を睨んだ。
『クルクス、お前が何百年もダラダラ生きてないで、ちゃんと鍛錬してれば、ちんけな『上位存在』止まりになってなくて、今頃私に頼らずとも対処出来ただろうに。全部お前の怠慢だっ』
「私は平和主義者なんですぅー! 戦闘狂のあなたと一緒にしないでくださいー!」
クルクスが口を尖らせて反論する。
みほよとゼノヴィアは、画面の向こうの暴君に呆れ果てつつも、その理不尽な物言いに慣れた様子で軽口を叩き合っている。
だが、レフィーマの身震いは止まらなかった。
あのみほよですら絶望し、マニュアルには宇宙災害規模と記された『高位存在』。
それを、個体差があるとはいえ「雑魚」と切り捨て、部下に丸投げする組織のボス。
改めて、ルビアズ・ジャスパーという存在が、どれほどの化け物であるかを、骨の髄まで理解させられた瞬間だった。
「で、結局のところ来てくれるの? こっちは人類存亡の危機……とまでは言わないけど、ニューヨーク支部の存続がかかってるんだけど」
クルクスが縋るように問う。
だが、画面の向こうの暴君は、サングラスの奥で嘲笑を浮かべた。
『やだ』
慈悲も温情もない、バッサリとした拒絶の一言。
「そこをなんとかっ! お願いだからっ! 一生のお願いっ!」
クルクスが両手を合わせ、拝むように懇願する。数百年生きる『上位存在』が、プライドをかなぐり捨てて頼み込む姿は涙ぐましい。
その必死さがようやく通じたのか、あるいは単に駄々をこねられるのが鬱陶しくなったのか、ルビアズは露骨に面倒そうな顔でため息をついた。
『一生のお願いってお前何百回目だよ……あ~、もう……仕方ねぇな。チッ。わかったよ』
「本当!?」
『阿呆。私が直接行くわけねぇだろ。ニューヨークの別支部……ダウンタウンの出張所あたりで暇してる連中を、助っ人としてそっちに回してやる。それで何とかしやがれ』
めちゃくちゃダルそうに言い捨てると、ルビアズは再び葉巻を吸い、異界の果実酒を煽った。
「……来てくれる訳じゃないんですね」
みほよが冷静に突っ込む。
『当たり前だろ。私はボスだぞ? 組織の頂点だぞ? ボスをこき使う部下が世界の何処にいるんだ』
ルビアズはさも当然の摂理であるかのように宣うが、
「いや、普通こういう緊急事態にはボスが率先して何とかするもんでしょ……責任者なんだから……」
と、クルクスが正論で突っ込む。だが、この組織において正論など無力だ。
「この茶番、何時まで続くの?」
ゼノヴィアはもう飽き飽きした様子で言い放つと、本棚から漫画をゴソゴソと漁り出し、ソファに寝転んでページを捲り始めた。
『と言うかだな』
組織のボスがふと思い出したように口を開く。
『今、『ルキフェル』ニューヨーク支部に所属してる『高位存在』級は、何人いるんだっけ?』
あっけらかんとした問いだった。
「え、知らないんですか?」
思わず、レフィーマが口を挟んでしまった。
いつもなら、ルビアズのあまりに横暴かつ無責任な物言いに憤りを感じるところだが、『エグジスト』たちの会話のスケールが次元を超越しすぎていて、怒りよりも呆れと困惑が勝っていたのだ。
「四十年前に全滅したよ。『神格存在』級との戦闘でっ」
クルクスが即答する。
『あー、そうだっけ? 忘れたわ、んなの』
ルビアズが鼻を鳴らす。
組織の長でありながら、部下の生死はおろか、組織の壊滅的な過去すら記憶の彼方に追いやっているのだ。
だが、レフィーマの思惟思考は、その会話に含まれたある単語に凍りついた。
『神格存在』級『エグジスト』。
知識として、その名称は知っている。『高位存在』級のさらに上位に位置する、畏怖される階級。
実物を見たことはない。だが、『ルキフェル』に入ったばかりの頃、友人のポンウィパが震えながら教えてくれた言葉を覚えている。
────『高位存在』が宇宙災害なら、『神格存在』は宇宙終焉だよ。『高位存在』ですら、何百人がかりだろうと彼らにかかればデコピン一つで消滅する────。
あまりにスケールが乖離しすぎていて、脳が理解を拒んでいた概念だ。指。震える。
事実、レフィーマが生まれてから二十数年、アメリカ本土で『神格存在』級が大規模な事案を起こしたという公式記録はない。いや、単に情報統制によって「無かったこと」にされているだけなのかもしれないが。
ふとみほよを見ると、彼女もまたその単語に反応し、タイピングの手を止めて身震いしていた。彼女の膨大なデータベースの中にも、『神格存在』に関する記述は「接触禁止」「即時逃亡」の文字で埋め尽くされているのだろう。
『チッ……『神格存在』か。惑星どころか銀河系すら遊び感覚で手にかける連中だ、そんなのが出てきたら流石に私も休日出勤をやむを得ないが……んなモンがポンポン出てたまるか。今回は精々が『高位存在』だろ?』
ルビアズは吐き捨てるように言った。その声には、徐々に苛立ちが混じり始めている。あまりにも彼女の優雅な休暇を阻害しすぎたからだ。
『よし。方針決定だ。とりあえずクルクス、お前が今回の作戦の全指揮権を握れ』
「えっ」
『一部の管理者権限をお前に譲渡する。アメリカ支部の空いてるメンバー、および提携しているフリーランス組織を片っ端から叩き起こして対応させろ。手持ち無沙汰で優秀そうなのがいれば、私が何人か本部へ空間転送で送り込んでやる』
「……はーい」
ルビアズの鶴の一声。結局、彼女本人は指一本動かす気はないらしい。
クルクスは腐っても超一流のITスペシャリストであり、『ルキフェル』古参の『エグジスト』だ。その彼女に現場指揮を一任するのは、ルビアズなりの信頼の証左とも取れるが、単なる丸投げとも取れる。
『あと、みほよは絶対に死なせるなよ』
ルビアズの声が、一瞬だけ真剣味を帯びた。
『こいつは替えが効かない。人類史における特異点だ。こいつを失ったら、今後数百年は同レベルの解析役が現れないだろうからな。みほよが死んだらクルクス、お前は半殺しだ』
ルビアズからしても、呉内みほよという存在は唯一無二の資産なのだ。彼女を失う損失は、戦闘員を失うより遥かに痛い。さらにクルクスに対し理不尽に半殺し宣言。なんとも横暴である。
「私が!? なんでぇ!?」
『なんでもだ』
「うぅ……酷いよぉルビアズぅ……」
しかし、クルクスはまだ諦めていなかった。ボスもとい、旧友の出馬こそが、最も確実な解決策なのだ。
「わ、わかった、みほよちゃんは守るよ。でもルビアズぅ、せめて少しくらいは顔を出して────」
『あっ! 悪いっ、か、かかか、回線がっ! やべえ、電波が悪くなってきたっ!』
あまりに白々しい演技。
ブツン、という音と共に、一方的に接続が切断された。
「あれ!? ルビアズ!? おーい!?」
ルビアズの回線落ち────否、故意による強制切断。
クルクスが再三コールをかけるが、見事に着信拒否設定がなされていた。
「………だってさ」
クルクスが『デバイズ』を消し、力なく言った。
「ボスの命令なら仕方ないな。従うよ」
ソファで、投げ捨てたポップコーンのうち汚れて無かったものだけを拾ったゼノヴィア。それを咀嚼しながら、気だるげに言った。彼女にとっては、強者であるボスの命令は絶対であり、そこに疑問を挟む余地はないのだ。
「わかりました。……とりあえず私は、敵の素性と行動パターンの解析を急ぎますね」
みほよが再びデスクに向かい、ホログラムを含む複数のスクリーンを展開した。
彼女の指が、目にも止まらぬ速度でキーボードを叩く。
空間に浮かぶ無数のウィンドウには、複雑怪奇なソースコードや、衛星からの監視映像、暗号化された通信ログが滝のように流れている。
それは単なるハッキングではない。電脳空間という海に潜り、情報の潮流を読み解き、真実という砂金を選り分ける、呉内みほよにしか不可能な神業だ。
彼女の瞳は、ディスプレイの光を反射して冷徹に輝いている。そこには、先程までの怯えはなく、ただ解くべき難問に挑む天才の顔があった。
「あ、あの。私は……」
レフィーマが恐る恐る尋ねる。
戦闘員であるクルクスとゼノヴィアは出撃し、解析役のみほよは情報戦に挑む。では、自分は?
クルクスが、申し訳なさそうに微笑んだ。
「ごめんね、レフィーマちゃんは待機……もとい、ここでみほよちゃんの警護をお願い」
「………」
みほよの警護。聞こえはいいが、それは事実上の戦力外通告だ。
そもそも、相手は『高位存在』級を含むテロ組織。彼らが本気で攻めてくれば、隔絶転移術式により亜空間の座標に隠蔽されたこの『ルキフェル』本部にすら、到達される可能性がある。
その時、レフィーマの力で何ができるというのか。
つまりは「足手まといだから連れて行けない」ということだ。
「わかり、ました」
出向けば、確実に死ぬ。それは理解できる。
クルクスの判断は、自分を案じてこその温情であることも痛いほど分かる。
だが、それでも。
その烙印を押されてしまう現実は、どうしようもない種族間の力量差を突きつけられたようで、胸が締め付けられた。
レフィーマは、自身の無力さを嘆くしかなかった。
そんな彼女の心中を察したのか、クルクスが歩み寄り、優しく言った。
「これはね、誰にでもできることじゃない、大切な君の役割なんだよ。『エグジスト』の私たちは外の戦場に行って暴れる。だから、人間の────『超能力者』のレフィーマちゃんが、最後の砦としてここで同じ人間のみほよちゃんを守る。これはとても重要な使命なんだ」
「……はい」
どこまでも穏やかで、肯定的な口調。
この殺伐とした空間において、彼女の存在だけが唯一の救いだ。
もしクルクスが男性であったなら、きっと惚れていたに違いない。いや、女性であっても、この包容力には抗いがたい魅力がある。
「クルクスさん」
レフィーマが上目遣いにクルクスを見上げ、尋ねた。
「なぁに? レフィーマちゃん」
慈愛に満ちた表情で応える。
「……その、もう一度、ハグしてもらえますか」
「え? なんで?」
キョトンとするが、レフィーマは真剣だった。滲み出る不安と、自身の無力感、それらを埋めるぬくもりが欲しかった。
「お願いします」
「はぁ……。よく分からないけど、いいよ。お安い御用だっ」
彼女は苦笑しつつも両手を広げ、優しくレフィーマを抱きしめた。
レフィーマは、彼女のその豊満な胸に顔を埋める。
柔らかな感触と、生命の鼓動が彼女を包み込む。異種族であるはずの彼女から感じる、根源的な安らぎ。
「またやってるわ。レズビアンかよ」
と、ゼノヴィアからの心無い野次が飛ぶが、今は気にならない。
クルクスが、よしよし、と優しくレフィーマの頭を撫でた。淚が流れる。溢れる。止まらない。
黒髪の少女は、亡くした母の面影を彼女に重ね、その抱擁に束の間の身を委ねた。
しばしの後、ハグを終えたクルクスが、パンと手を叩いて提案した。
「よし。出撃前に、とりあえず一服しよっか?」
「えっ」
その言葉に、デスクのみほよが手を止め、露骨に顔を顰めた。
クルクスは『デバイズ』を操作し、虚空から『圧縮宝珠』を取り出した。
物質を亜空間圧縮して携帯する、この時代のスタンダードな技術の結晶だ。彼女がそれを放り投げると、ボン、という軽快な破裂音と煙。それと共に、愛用のタバコの箱が実体化して掌に収まる。
銘柄は『セブンスター・ボールドブラック』。日本産、高タール、高ニコチンの重い煙草だ。
「いいですね、そうしましょう。頭をスッキリさせたいところでした」
レフィーマもまた、淚を拭って自身の『デバイズ』のフォルダーから『圧縮宝珠』を呼び出し、放り投げる。
現れたのは、甘い香りを漂わせる黒いパッケージ。『ブラックデビル・カカオ』。
「ゼノヴィアちゃんも吸うでしょ?」
クルクスが問いかける。
「当然。シラフでやってられるか」
ソファから起き上がった彼女も、手慣れた様子で同じようにタバコを取り出す。
彼女の銘柄は、金色のフィルターが特徴的な高級紙巻きたばこ、『ソブラニー・ブラックロシアン』。
「ちょ、ちょっとっ! ここ禁煙じゃないんですけど、待ってくださいっ!!」
嫌煙家という訳ではないが、ヤニ臭さが苦手なみほよが慌てて声を上げる。
だが、三人の美女は聞く耳を持たない。
シュボッ、カチン、ジャリッ。
三者三様の愛用するジッポライターが火花を散らし、それぞれのタバコの先端に赤い光が灯る。
彼女を尻目に、三人は深く紫煙を吸い込み、天井に向けて長く吐き出した。
途端に、事務所内に重厚なタバコの煙と、カカオの甘ったるい香り、そして独特の洋モクの香りが充満し始める。
「うわっ、くっさ! もう、最悪っ!」
みほよは淚目で叫ぶと、慌ててルビアズのデスクの脇にある『空気浄化機』を起動した。
室内の空気は循環し、強力な脱臭効果と同時に、部屋の香りが鎮静効果のあるラベンダーのアロマ臭へと置換される。
タバコを旨そうに燻らせる二人の『エグジスト』と一人の『超能力者』。
そして、煙から逃れるように身を縮める天才少女。
「早く行ってよぉ……」
この空間において最強の捕食者であった────最強の知性を持つはずのみほよも、ニコチンに支配された三人の喫煙者の前では、ただの無力な被食者でしかなかった。




