高位存在《オメガ》
事務所内の空気が、物理的な温度低下を伴って凍りついた。
あの呉内みほよが、青ざめている。
普段、数万件のデータ処理を瞬き一つせずこなし、ゼノヴィアの殺気すら涼風の如く受け流す彼女が、だ。その事実は、言葉以上の雄弁さで事態の異常性を物語っていた。
真っ先に反応したのはゼノヴィアだった。
彼女は掴んでいたポップコーンの箱を放り投げると、弾かれたように身を乗り出した。その幾何学的な瞳の奥で、真紅の光が危険な明滅を繰り返す。それは恐怖ではない。純粋培養された闘争本能と、或る種の焦燥に突き動かされた獣の反応だった。
クルクスの表情も一変する。飲みかけのコーラをテーブルに置く動作は、いつもの軽薄さを完全に排除した、重苦しいものだった。彼女の纏う空気が、陽気な隣人から、数百年を生きる古参の『エグジスト』のそれへと変貌する。
レフィーマは、ただ戦慄するしかなかった。あの鉄壁の理性を誇るみほよが、唇を震わせているのだ。
「……まじかぁ」
重苦しい静寂を切り裂いたのは、クルクスの乾いた呟きだった。
「間違いとかじゃない? 誤報って線は?」
一縷の望みを託して問うが、みほよは首を横に振った。
「残念ながら、解析結果は黒です。『永劫動力社』から『光の心臓』を強奪した個体、そのエネルギー波形は間違いなく『高位存在』級のスペクトルを示しています」
みほよの声は、努めて冷静を装っていたが、隠しきれない震えが混じっていた。
「あたしが行く」
ガタッ、と椅子を蹴倒し、ゼノヴィアが宣言した。
その全身から噴き上がるのは、皮膚がヒリつくほどの濃密な闘気と、歪な殺意。
「ちょ、ちょいちょい! やめてよゼノヴィアちゃん! 座りなさいって!」
クルクスが慌てて割って入り、彼女の腕を掴む。
「自分から『高位存在』に喧嘩売るとか正気!? 今はやめて! 君が暴れたら、余波だけで『ルキフェル』が半壊しかねないよ!?」
「そうですよ、ゼノさん。相手は『高位存在』です。いくらあなたでも、無策で突っ込めば私みたいな人間のように、一瞬で襤褸切れの肉塊に変えられても知りませんよ。それに、『高位存在』級とやり合いたいなら、プライベートでやってください。そして、勝手に死んでください」
みほよも冷静に、必死に諫める。
だが、ゼノヴィアは聞く耳を持たない。みほよの『エグジスト』のような物言いさえも、彼女の神経を逆撫でしなかった。
「五月蝿いな。ブチ殺してやるよ、そいつ」
彼女の言葉には、どこか悲痛なまでの必死さが滲んでいた。まるで、自らの存在証明を懸けた強迫観念に駆られているかのように。
レフィーマがその異様な光景に困惑していると、空中に展開されていたニュースウィンドウが強制的に切り替わった。
警告色の赤が画面を埋め尽くす。
映像からは、ニューヨークの摩天楼に響き渡る不気味なサイレンの音が流れていた。
続いて、感情の一切を排した機械的な合成音声が、死刑宣告のように響く。
『────緊急速報です。ニューヨーク市マンハッタン区にて、『高位存在』級『エグジスト』の現出が確認されました。繰り返します。『高位存在』級『エグジスト』の現出が確認されました』
無機質な声は、淡々と、しかし残酷な現実を告げる。
『市民の皆様は、直ちに最寄りのシェルター、または地下深層部や異次元空間へ避難してください。政府及び軍による救助活動は、状況が沈静化するまで行われません。各自、自身の身を自身で守り、また外出等は全て自己責任で行ってください。繰り返します。全ての行動は自己責任となります────』
同時に、レフィーマの『デバイズ』がけたたましい音を立てた。
「緊急エグジスト速報」。その文字列が網膜に焼き付く。
他の三人も同様に通知を受け取ったようだ。クルクスは「まじじゃん……最悪だ」とフェイスパームの仕草をし顔を覆い、みほよは蒼白な顔で「頼むからうちにオーダー入れないで……絶対に対応できないから……」と呪詛のように呟いている。ゼノヴィアはさらに気概を持ち、今にも飛び出しそうな勢いだ。
世界の終わりが訪れたかのような絶望感。
だが、レフィーマの中で一つの疑問が膨れ上がった。
「……あの」
恐る恐る声を上げる。
「ん? なぁに、レフィーマちゃん」
顔を上げたクルクスが、努めて平静な声で応じた。
「『エグジスト』の危険性は十分理解しているつもりです。彼等の危険度等級も、マニュアルで一通りは把握していますが……その、『高位存在』級というのは、それほどまでに絶大な存在なのですか?」
レフィーマの問いに、クルクスは「あぁ、そうか」と得心したように頷いた。
「レフィーマちゃんは初めてかもしれないね。『高位存在』が引き起こす災害を目の当たりにするのは。多分、『ルキフェル』に入ってから遭遇したのは、精々『上位存在』クラスまでだっけ?」
「ま、まぁ、そうですね」
「よし、じゃあちょっと復習しようか。現状把握は大事だしね。みほよちゃんはゼノヴィアちゃんの相手してて。暴走しないように見張っててよ」
クルクスが顎でしゃくると、みほよはコクンと頷き、今にも窓を突き破って飛び出しそうなゼノヴィアの腰に抱きつき、必死に宥め始めた。
クルクスは背後の巨大な本棚から、一冊の本を取り出した。
革張りの装丁はボロボロに擦り切れ、何百年もの時を経た重厚感を漂わせている。彼女はレフィーマの隣にぽすん、と柔らかに座ると、埃っぽい匂いのするページをテーブルの上に広げた。
そこには、古めかしい挿絵と共に、『エグジスト』の分類図解が記されていた。
「まず、ピラミッドの底辺。『基本存在』級。所謂、平均的個体だね」
クルクスが指差したのは、無数に描かれた人型の影だ。
「人間で言うところの、特に格闘技の心得も戦闘経験もない、一般市民みたいなポジション。ここら辺にうようよいる有象無象だよ」
「……そこら中にいますよね」
レフィーマは頷く。
「まぁ要するに雑魚だね。……と言っても、あくまで私たちから見ればの話だけど。『基本存在』一人が出来ることなんて、精々が都市一つを壊滅させるとか、時間をかけて国を滅ぼすくらい。大したことないよ」
そう言って、クルクスは笑った。
レフィーマは乾いた笑い声を漏らすしかなかった。
都市や国一つを壊滅させる存在が「雑魚」扱い。この組織の、いや『エグジスト』という種族の基準がいかに狂っているかの証左である。
「人類の最新兵器や『異能者』の部隊でも、犠牲を払えば十分に対処可能なのが『基本存在』。君も、相棒のポンちゃんと一緒に何体も倒したことあるでしょ?」
「まぁ……そうですね。毎回、死ぬ気でやってますけど」
これは事実である。『超能力者』であるレフィーマも、『魔女』である友人、ポンウィパと連携すれば、『基本存在』クラスの『エグジスト』一体程度なら、命懸けの死闘の末に撃破することは可能だ。
「で、その上が私やゼノヴィアちゃんみたいな『上位存在』級。これが一番、人口比率で言うと層が厚いんだ」
クルクスがページをめくる。そこには、より強大なオーラを纏った少数の影が描かれていた。
「『上位存在』級。これはね、ある程度の素質を持った『エグジスト』なら、血の滲むような努力と時間の蓄積でたどり着ける領域なんだよ」
クルクスは分かりやすい例え話を始めた。
「例えば、人間の男性の握力。トレーニング中の停滞期はあるにせよ、百七十六ポンド(約八十キロ)程度までなら、男性なら死ぬ気で努力すれば、誰でもたどり着くことができるでしょ? 生物としての限界値の手前まではね」
レフィーマは頷く。
「でも、そこから上────二百二十ポンド(約百キロ)を超える領域になると、もう努力だけじゃどうにもならない。「才能」の壁が立ちはだかるわけ。骨格、筋繊維の質、健の強さ、腕の長さ……生まれ持ったギフトが必要になる。それが『上位存在』と『高位存在』の境界線だね」
クルクスの説明は続く。
「まぁ、『上位存在』級ともなれば、単独で世界地図を書き換えることも容易だし、都市や文明を滅ぼすのも朝飯前。でもね、この『上位存在』っていう括りは広すぎるんだ。実力はピンからキリまで、まさに千差万別」
「要するに、我々人類じゃ「お手上げ」ってヤツらですよね。現代の化学兵器を持ってしても、『上位存在』級を傷付けることは出来ても、殺すことは低級でもほぼほぼ不可分だと言うのは分かっています」
レフィーマが首を縦に振り、唸る。
「レフィーマさん、流石の理解力です! まさに玉石混淆ってやつですよっ」
ゼノヴィアを押さえつけていたみほよが、横から口を挟んだ。眼鏡の奥の瞳が、冷静に分析を加える。
「クルクスさんみたいに、長い年月を生きて経験値は高いけど、実力自体は『中の上』くらいで止まっている『上位存在』もいれば……今唸ってるゼノさんみたいに、才能の塊で僅か百年程度で、『上位存在』の中でも『最上級』に位置する化け物もいますからねー」
「およ? みほよちゃん、今サラッと私をバカにしなかった?」
クルクスがジト目で見るが、みほよは「事実を述べたまでで、褒めてますよ」と涼しい顔で返した。
「ふーん、わかってるじゃん、みほよ。前言撤回だ。人間の中でも羽虫扱いは取り消してやるよ。トンボに格上げしてあげる」
ゼノヴィアはまとわりつくみほよから神速で逃れ、椅子の背もたれに体重を預け、みほよのデスクへと移動させた後、どこか面白そうに唇を歪めた。
みほよの、人間離れした分析能力と度胸を認めた証左である。
対するみほよは、キーボードを叩く手を止めずに軽妙に応じる。
「あ、どうも。それなら『オニヤンマ』でお願いします。日本最大最強のトンボにちなんで」
「生意気。お前ごとき、せいぜい『ギンヤンマ』がお似合いだっ」
ゼノヴィアはハスキーな声で吐き捨てるが、そこには先程までの鋭利な殺意は含まれていない。
彼女はテーブルに置かれたクリスタルのグラスを手に取り、『オルデン・ウォーター』のウォーターサーバーから乱暴に注ぐと、一気に煽った。みほよもまた、自身のグラスを傾ける。
無表情のままでこそあるが、ゼノヴィアから発せられていた重圧は雲散霧消し、奇妙な融和が訪れていた。捕食者と被食者が同じテーブルで水を飲む、サバンナの水場のような光景だ。
その様子を安堵の眼差しで見守りながら、クルクスが口を開いた。
「……まぁ、今のはみほよちゃんの言う通りだよ。『上位存在』級のうち一体でも、本腰を入れてその気になれば、この現界はおろか、冥界や異界、魔界すら物理的に崩壊させかねない。そんな連中が掃いて捨てるほどうようよいるんだから、恐ろしい世界だよねぇ。ほんと、『衝撃相殺術』を編み出した先人の『エグジスト』様には頭が上がらないよー」
クルクスが言及した『衝撃相殺術』。
それは、この世界が崩壊せずに存続している最大の理由であり、安全装置とも言える概念だ。
起源は数百万年前まで遡る。
二千年代の、『エグジスト』や『異能』が世界中に露見した、『技術的特異点』が起こる以前より、彼らは存在していた。
人類がまだ火の使い方を覚え始めたかどうかという原始の時代すらも、遥か過去の彼方であった悠久の大昔。
とある『武闘家』の『エグジスト』が、一つの境地に達した末に生み出した秘技である。
その本質は、物理法則の局所的な改竄と制御にある。
本来、強大なエネルギーを行使すれば、その余波はソニックブームや衝撃波となり、周囲を無差別に破壊する。だが、『衝撃相殺術』はそれを許さない。
発生した運動エネルギー、熱量、超音波の波動といった全ての出力を、対象となる「敵」や「物質」の一点のみに強制的に収束させ、外部への漏出をゼロにする技術だ。
これにより、都市を一撃で粉砕する威力の拳を振るっても、術者が意図しない限り、風ひとつ起きず、すぐ隣にある花瓶一つ割れることはない。
当然、これは『エグジスト』のみが習得可能な高次元の技術であり、練度には鍛錬が、才能には個体差が存在するが、ある程度の等級以上の者にとっては必須教養となっている。
「しかもこれ、物理衝撃だけじゃないんだよね」
クルクスは指を振りながら解説を続ける。
「熱、冷気、放射線、果ては概念的な毒に至るまで、あらゆるエネルギーに適応されるの。例えば、五十年前に『ルキフェル』オランダ支部が遭遇した敵対的な『上位存在』級なんて、本来なら発動した瞬間に半径数百キロの有機生命体が全滅する猛毒の使い手だったけど……見事に相殺術で制御して、対象とした構成員だけをピンポイントで腐らせてたからね。周りのチューリップ畑は無傷だったよ」
「……そう考えると、どっちかというと下手な『基本存在』や、そもそも術を使えない上級呪霊、上級悪魔とかの方が、一般市民にとっては危険ですよね」
レフィーマは納得したように頷いた。
「『平均的存在』の多くは相殺術もろくに使えませんし、制御できない力で暴れ回る分、被害範囲が無駄に広がりますから」
「そうそう、そういうこと! 制御できない力なんて、ただの災害だからね」
クルクスが同意し、過去の忌まわしい記憶を掘り起こすように顔を顰めた。
「二百五十年くらい前かな。追い詰められてヤケになって、意図的に相殺術の使用をやめた『上位存在』を相手にした時は、本当に最悪だったよ。……マンハッタンのミッドタウンが一瞬で消し飛んで、更地になったんだ。連日大ニュースになって、私たちも対応に追われて死ぬかと思った。いくら死に際だからって、関係ない人様に迷惑かけちゃいけないよねー」
クルクスの口調は軽いものの、その瞳には当時の惨状が色濃く焼き付いているようだった。
それを聞いていたゼノヴィアが、
「結局、弱者共がする断末魔の遠吠えだろ。ダサいね」
と吐き捨てると、みほよが「そうですよ、ゼノさん。あなたもキレて周りが見えなくならないようにしてくださいね」とチクリと刺す。ダウンタウンの一件をまだ気にしているのだ。
「五月蝿い、ギンヤンマっ」
ゼノヴィアは不機嫌そうに、みほよの頭をペシッと叩いた。
人間であれば即座に首が消し飛ぶ剛腕の持ち主だが、その手加減は絶妙であり、みほよは「あたっ」と声を上げるものの、痛みを感じている様子はない。
力を完全に制御できてこそ、真の強者。
つまり、上位の『エグジスト』同士の戦闘とは、一見すると派手な破壊を伴わない地味な攻防に見えることもあるが、その内実は、一撃必殺の威力が圧縮された、糸で針の穴を通すような技術のぶつかり合いなのである。
受け身を失敗すれば、分子レベルで消滅する。その緊張感は、地雷原を疾風の如く駆け回ったり、核弾頭の上でタップダンスを踊るに等しい。
「で、本題。『高位存在』級『エグジスト』についてだよ」
クルクスは苦笑しつつ、ページをさらにめくった。
そのページ。黒く塗りつぶされている。ただ一つ。禍々しいシンボルだけが描かれていた。
「『上位存在』級より上が……君がさっき聞いた『高位存在』級」
クルクスの声色が、一段深く沈んだ。真剣味が帯びる。
無論、レフィーマも知識としては知っている。マニュアルには、『高位存在』級は宇宙災害級の脅威であると記されていた。
だが、前述の『衝撃相殺術』の恩恵により、彼らが現出しても、一般市民の目に見える形での被害は、相殺術を解かない限り抑制されているため、その真の強大さを実感として捉えることは難しい。
「もうね、『上位存在』級の比じゃないよ。桁が違うとか、次元が違うとか、そんな陳腐な言葉じゃ足りない。並の『上位存在』が数百体束になっても、ハエ叩きで叩き落とすかのように葬り去る。……まぁ、うちのボスのルビアズもそうだけど、あいつらは生物としての『格』が別格なんだ」
「そういえばあの人……ルビアズさんも『高位存在』級『エグジスト』でしたね。普段がアレなんで、すっかり忘れてました」
レフィーマは、別荘で優雅に休暇を楽しんでいるであろう、あの奔放なボスの顔を思い浮かべた。そう、『ルキフェル』のボス、ルビアズ・J・ジャスパーも、また『高位存在』級の『エグジスト』なのである。
「まぁ……一言で言えば、この地球なんてその気になれば指先一つで塵にできる連中だよ。以前、軽く相殺術を解いて腕を振り上げただけの『高位存在』がいたけど、それだけでキノコ雲が成層圏を突き破り上がって、大陸プレートがズレて地形が変わったなんて記録もあるし。衝撃波は地球を八周したんだよねー、丁度、ルビアズと一緒にPSD(PSPの新機種)でオンゲしてた時だったからびっくりしたよ」
クルクスが遠い目をしながら語る内容は、あまりに荒唐無稽で、しかし笑えない現実味を帯びていた。
「地球どころか、衛星軌道上のデブリとか、周辺の惑星すら簡単に木っ端微塵に出来る、宇宙規模の災害指定生命体。まぁ、連中も自分たちの住処が無くなるのは困るから、幸い地球は今まで物理的には無事だけどね」
ケタケタと笑うクルクスだが、レフィーマの背筋には冷たいものが走った。
『高位存在』現出の警報サイレンは、この街では決して珍しいものではない。幼少期から、避難訓練のように何度も聴いてきた音だ。
地球を塵にできる連中が、ケンタッキーやマクドナルドに行くような感覚で顔を出す世界。
なぜ今まで人類が、そして世界が滅んでいないのか、それが不思議でならない。薄氷の上どころか、何もない虚空の上を歩いているような危うさだ。
そんな話をしている最中だった。
ゼノヴィアと雑談していたみほよが、唐突に動きを止めた。
まるで時が止まったかのように凝固し、それから、錆びついた機械のようにギギギ、とぎこちない動作でこちらを振り向いた。
その顔面からは血の気が失せ、額には大粒の脂汗が浮かんでいる。
「あのー……クルクスさん」
「……なぁに、みほよちゃん」
クルクスは反射的に身構えた。嫌な予感が、背中を駆け上がる。それは、レフィーマも同様だ。
みほよが、震える唇で告げた。
「なんか……『アイオン・ダイナミクス社』の副社長より、うちに『新規依頼』が来てます」
「ははは、これまた冗談が上手いなぁみほよちゃんは」
「いえ、まじです。……私も幻覚を疑いたいですが、来てしまってます」
「……内容は?」
「『対象となる『エグジスト』のテロ組織を殲滅し、奪われた『光の心臓』を即時奪還せよ』……と」
その瞬間。
ゼノヴィアが、恍惚とした表情で口角を吊り上げた。
「へぇ……面白そうじゃん」
彼女から立ち昇る闘気が、再び、いや先程とは比較にならない密度で膨れ上がる。
対照的に、クルクスとレフィーマは石像のように固まった。
相手は『高位存在』級を含むテロリスト集団。それはすなわち、死刑宣告にも等しい依頼だった。
事務所内の空気が、絶対零度まで凍りついた。




