親愛なる隣人とピザ
硝煙と血飛沫、そしてオゾン臭が支配するニューヨークの蒼穹を、二つの影が悠然と滑空していた。
一人は、自らの魔力で重力を斥ける魔女、ポンウィパ・ヴィータ。
もう一人は、空中に顕現した異形の女帝────人型実体『星の王子様』の指先から繰り出された強靭な糸に吊り下げられ、まるで壊れたマリオネットのように運搬される超能力者、レフィーマ・ライズである。
現在の空域死亡率は三十パーセント。
一般市民にとっては即死確定の地獄絵図であろうが、彼女たちにとっては散歩道に毛が生えた程度の障害に過ぎない。
この空域には、現在『エグジスト』や中級悪魔、あるいはAクラス指定の危険生物の反応は皆無。
時折、飢えた『怪鳥』や、ぬめるような皮膚を持つ空飛ぶ捕食生物、あるいは火事場泥棒を企む荒くれ者が搭乗した、継ぎ接ぎだらけの安っぽい機動兵器が襲いかかってくるものの、それらはポンウィパの障壁に弾かれるか、レフィーマの実体が振るう糸の斬撃によって、文字通り「一蹴」されていた。
「レフィーマさぁ」
ポンウィパが、前方から迫るハーピーの群れを水の刃で千切り捨てながら、気だるげに声をかけた。
「ん? 何よ」
レフィーマは、先程の激戦の中で死守した『ブラックデビル・ゴールドスペシャル』の箱を、空間収納デバイスである『圧縮宝珠』へと丁寧に格納し、それを愛おしそうに自身のポケットへと滑り込ませたところだった。
「さっき、国連軍の無人機ドローンに向かって、『非異能者』って言ってたけどさ」
ポンウィパの指摘に、レフィーマはきょとんとした表情で首を傾げた。
「え、私そんなこと言ってた?」
「言ってたよ。はっきりとね」
ポンウィパは、友人の顔を真っ直ぐに見据えた。
「それ、あんたが毛嫌いしてる『エグジスト』が、私たち人間を見下す時の態度と何ら変わりないからね?」
「ほんと?」
「まじ」
「ほんとに?」
「まじ」
二人の間で、小学生のような問答が繰り返される。やがて、レフィーマはバツが悪そうに視線を泳がせた。
「……あー、そうなんだ……。多分、無意識だったのかも。悪魔どもに車を壊されて頭に血が上ってたのと、あの国軍の連中の偉そうな態度にイラッときて、つい……」
言い訳がましく口を尖らせるレフィーマ。
『非異能者』。それはこの世界において、異能を持たぬ者たちへの明確な蔑称である。
「無意識ってのが一番タチ悪いんだよ。レフィーマ、あんたそういう所あるよね。感情任せになると、自分の立ち位置を忘れちゃうこと。自称『常識人』を名乗るなら、そういう選民思想みたいなのはやめなって。それじゃあんたも、あんたの苦手なルビアズさんや、嫌いなゼノヴィアさんと同じ穴の狢だよ」
ポンウィパはジト目で彼女を見る。
本気で叱責しているわけではない。あくまで軽口、友人としての忠告だ。もっとも、レフィーマが常識人というのは、あくまでこの混沌渦巻く狂った世界での相対評価に過ぎない。倫理観の欠如した『エグジスト』や快楽殺人鬼、テロリストといったイカれた人外たちと比較すれば、彼女はまだ話が通じる部類というだけのことだ。
「う、ご、ごめん……」
レフィーマはしおらしく肩を落とした。
「ま、まぁまぁ。私も政府連中に腹が立つのは分かるしね。この前の『マンハッタン・ダスト・ストーム事件』の時だって、あいつら『ルキフェル』に解決を依頼しておきながら、最後は事故に見せかけて、衛星軌道上の『空光爆』で構成員ごと私たちを始末しようとしたんだし」
『マンハッタン・ダスト・ストーム事件』。二ヶ月ほど前、マンハッタンに自然発生した────魔素を含んだ毒ガスによる大量殺戮が起こった事件である。政府はその解決を『ルキフェル』にぶん投げ、問題があらかた解決後、市民や街もろとも、辺り一面を「消毒」と称し、全て焼き払おうとした。幸い、現地構成員に『反射』の『エグジスト』がいて、射出された光線を全て反射。『空光爆』は完全破壊された。かと言って文句をいい『ルキフェル』へ報復をする訳にもいかず、結局政府は大赤字を食らうだけでなく、国民からの元からなかった信用を────さらにガタ落ちさせてしまった件である。
「だよね! 私が向かっ腹立てたのは、あくまであの腐った政府連中だしっ!」
途端に勢いを取り戻す友人に、ポンウィパは苦笑した。
「調子のいいやつ」
眼下には、依然として地獄が広がっている。
低級悪魔の群れや、瘴気に当てられてゾンビ化した『食屍鬼』たちが徘徊し、それらを『連邦超常現象対策局』の重装機動部隊が火炎放射器で焼き払ったり、MK8(新モデルのアサルトライフル)やレーザー・ガンで殲滅する、阿鼻叫喚の光景。
だが、上空の二人はそんな惨劇をBGM代わりに、破壊されたポンウィパの大学復旧見込みや、最近の『ルキフェル』内で起きた冷蔵庫の巨大プリン山脈消失事件の犯人捜しについて、他愛のない世間話に花を咲かせていた。
♥
「あ、見えてきたよ!」
レフィーマが指差す先、瓦礫の山と化したブロックの中に、奇跡的に無傷で鎮座する一軒の店舗があった。
『トニー&エイリアンズ』。
古き良きアメリカン・ダイナーの風情を残す外観。
二人は店の前に降り立った。
入り口のドアには、目に見えぬ高密度のエネルギーフィールド────『光粒子網』が展開されている。
これは未来技術の結晶であり、害意や邪な心を持つ者が通過しようとすれば、瞬時にその肉体を焼き切り、灰へと変える防犯システムだ。ただし、人外が闊歩し、物理法則すらねじ曲がるこの魔都においては、気休め程度の効果しか発揮しないことも多いのだが。
レフィーマは躊躇なく、その不可視の断頭台をくぐり抜けた。邪心がないという証明か、あるいは彼女の食欲が邪念を上回っているのか。ポンウィパもその後に続く。
「ハロー!」
レフィーマの元気な挨拶が、店内に響き渡る。
ポンウィパが辺りを見回すが、店内は閑散としていた。赤と白のチェック柄のテーブルクロス、レトロなジュークボックス。普段ならば、ピザを求める客でごった返しているはずだが、今日は空席が目立つ。
「お、嬢ちゃん。また来たのかい」
厨房の奥から、地底のマグマが煮えたぎるような、低く、しかし温かみのある悪魔のような声が返ってきた。ぬっと姿を現したのは、コックコートに身を包んだ巨漢。
六フィート六インチはある長身。昆虫の硬質な外骨格と、爬虫類の強靭な鱗を併せ持ち、四本の腕を器用に動かす異形の怪物。
『異形人』の二人組店主のひとり、ゲリージャ・グエラドリッグである。
彼もまた、分類上は『エグジスト』に属する存在だ。だが、その複眼には人間を蔑むような冷酷な光はなく、ただ常連客を迎える料理人としての柔和な笑みが浮かんでいた。
「ええ、また来ました! それにしても、今日はずいぶん空いていますね?」
「あぁ。外のクソッタレ悪魔どものせいで、客がさっぱりだ。貧弱なやつらだよ、最近のニューヨーカーは。百年くらい前は、もっと腕の立つ連中がうようよいて、銃弾飛び交う中でもピザを食いに来たもんだがな」
ケラケラと笑う異形人。
彼の言うことは誇張ではない。この店は、一世紀以上前からこの場所で営業を続けている、生きた伝説なのだ。
レフィーマとゲリージャが親しげに言葉を交わす様子を見て、ポンウィパは思わず独り言を漏らした。
「……『エグジスト』の割に、人を虫けら扱いしないんだなー……」
小声でボソリと呟いたつもりだった。
だが、元の虫由来か、『エグジスト』の五感の強さか、怪物の聴覚は鋭敏だった。
「ブハハハ! そこのお連れのお嬢さん、しねぇよんなこたぁ! 客を見下す料理人がどこにいる? それに、虫なのはどっちかと言うと俺の方だろうが!」
ゲリージャは腹を抱えて大笑いした。四本の腕のうち二本で自身の外骨格を叩き、豪快に笑い飛ばす。『エグジスト』の思考回路が人間と異なるとはいえ、それは主に生存競争や極限状態における論理の話だ。日常生活において、彼らは必ずしも話の通じぬ怪物ではない。
日々、闘争本能剥き出しの狂人やテロリスト、破滅願望しかもちえない『崩壊者』や人間を侮蔑し、殺戮本能に身を委ねる『エグジスト』らを相手にしている『ルキフェル』の構成員は、その辺りの感覚が麻痺しがちである。
「ちょっと、ポンウィパ! 彼に失礼でしょ。謝りなよ」
レフィーマが振り返り、ポンウィパを睨む。
「あ、その、すいませんっす」
ポンウィパは素直に頭を下げた。さっきまでレフィーマに説教していたのに、立場が逆転してしまった。
「いいってことよ。俺らからしたら、大人しい人間なんかより、頻繁に押し入ってくる武装した荒くれ者どもの方がよっぽど害獣で厄介さ」
ゲリージャは笑いながら、手にした布巾でカウンターを拭いた。
「おっ、レフィーマか。いらっしゃい」
さらに奥から、低い男の声が響く。
同じくコックコート姿の黒人男性、トニー・クーニックが現れた。短く刈り込んだ髪、引き締まった体躯。一見すると人間に見えるが、その眼は白目の部分が紺色に濁り、まるで眼球全体にタトゥーを施したかのような『エグジスト』特有の相貌をしている。
「トニーさん、ご無沙汰してます!」
レフィーマが尻尾を振る犬のように身を乗り出す。ポンウィパが、呆れたように彼女の肩に手を置いた。
「目的、忘れてない?」
ハッとした顔をするレフィーマ。
そうだ。今はプライベートで遊びに来たわけではない。仕事の依頼で来ているのだ。
慌てて『デバイズ』を操作し、空間に電子チケットのホログラムを展開した。通常、思念端末の映像は網膜投影により本人にしか視認できないが、共有設定を解除すれば、このように誰でも見ることができる。
『銀河チーズ火山』のチケット、十枚分が光り輝く。
「『銀河チーズ火山』、テイクアウトでチケット枚数分くださいっ!」
目を輝かせ、鼻息荒く注文するレフィーマ。
「お、すごいな。『銀河』を十枚も。……よし、ゲリージャ。こいつら、この高死亡率の中わざわざ来てくれたんだ。予約分とは別に、新しく出来たてを作ってやろう」
トニーがチケットを確認し、共有された『デバイズ』で受け取ると、ニヤリと笑った。
しかし、ポンウィパが慌てて手を振る。
「あ、いや、これ違うっす。私たちじゃなくて、仕事の依頼で、配達代行頼まれただけなんすよね」
「そうなのかい? まあいいさ。とりあえず、今から調理に取りかかるとするか。ゲリージャ、仕事だぞ」
「おうよ! 適当な席に座って待っててくれよな!」
ゲリージャも快活に応じ、四本の腕をフル稼働させて厨房へと消えていった。
「いやー、楽しみ! ギャラクシーチーズ!」
テーブルに着くなり、レフィーマが足をぶらぶらさせて喜ぶ。
「だから、お前のじゃないだろ」
「あべっ」
ポンウィパの手刀が、彼女の脳天に炸裂した。
「でもさぁ、十枚もあるんだから、少しくらい味見しても……」
「ダメだって。依頼主が短気な『エグジスト』とかで、枚数が足りないって怒髪衝天して、ロッドロッズ地区ごと私たちが消し炭にされたらどう責任取るの」
「うぅ……」
友人を諭す魔女と、食欲と理性の間で揺れる超能力者。
そうこうしているうちに、香ばしい匂いと共に、巨大なピザケースを抱えたゲリージャとトニーが戻ってきた。嬉々として受け取るレフィーマだが、すぐに違和感に気づく。
箱の数が、二つ多い。
「あれ、これって……」
「おまけだ」
トニーがぶっきらぼうに、しかし優しく言った。
「人間の身で、こんな地獄みたいな状況下でも店に来てくれたんだ。その根性に敬意を表して、俺らからのサービスだ。代金はいらない」
「いつも来てくれるお得意さんだしな。お連れさんの分もサービスだ!」
ゲリージャが白い歯を見せて笑う。
箱を少し開けると、黄金色に輝くチーズの海と、真紅のスパイスがマグマのように渦巻く極上のピザが顔を覗かせた。
「ありがとうございます! 『トニー&エイリアンズ』、一生ついていきます! 今後とも贔屓させてもらいます!」
レフィーマは感涙しそうな勢いだ。
「ありがとうございます。……ほら、早く行くよ、相手待たせてるんだから」
ポンウィパが促す。
「私が持って────」
「レフィーマは絶対につまみ食いするから、私が持つ」
「ちぇー」
頬を膨らませるレフィーマからピザを奪い取ると、ポンウィパは依頼分の十枚セットと、自分たちの二枚を分け、手際よく『圧縮宝珠』へと収納した。
十枚は仕事用フォルダへ、二枚は個人のプライベートフォルダへ。これで匂いも漏れず、熱々のまま保存される。二人に礼を言い、店を出ようとした、その瞬間。
バヂィッ。
不快な破裂音と共に、『光粒子網』が強引に焼き切られた。
硝煙の匂いと共に侵入してきたのは、一人の男。時代錯誤なダサいファッションに、ジャラジャラと安っぽいネックレスをぶら下げた、典型的なストリート・ギャング崩れの荒くれ者だ。
「見たぞ、そこの女二人! そのピザをよこしやがれェ!」
男が血走った目で叫び、唾を飛ばす。
ポンウィパとレフィーマは、瞬時に男から発せられる不穏なオーラを感知した。今の素手で、『光粒子網』を破壊したことといい、人間ではない。『エグジスト』だ。
二人が臨戦態勢を取ろうと身構えるより早く、
「おいおい、随分デカイ害虫が紛れ込んだな。不衛生にも程がある」
背後から、トニーの冷ややかな声が落ちた。
「え? 俺の事? ひでぇぜトニーの旦那」
ゲリージャが自分を指差しておどけるが、無視された男が逆上し、支離滅裂な罵倒を喚き散らし始めた。
「冗談よせ。店を荒らされる前に「害獣駆除」、任せたぞ。このままじゃ食品衛生法とやらに引っかかっちまう。俺は洗いモンしてくる」
トニーは男を一瞥すらせず、背を向けた。一応、同じ経営者の彼への最低限の配慮か、「害虫」から「害獣」と言い直しているのが皮肉だ。
「へーい」
ゲリージャは面倒くさそうに返事をすると、四本の腕をだらりと下げたまま、男の方へ向き直った。
「邪魔するな、『異形人』風情がァ!!」
男が右手を突き出し、なにやら能力を発動しようとする。
ポンウィパの背筋に冷たい汗が伝う。
だが。
次の瞬間、男の姿は消失していた。
いや、正確には────頭から右脇腹にかけての肉体が、分子レベルで弾け飛び、霧散していたのだ。
ドサリ。
能力を発動する間もなく、肉塊と化した男の下半身が床に崩れ落ちる。
「チッ、雑魚とはいえ『エグジスト』は面倒だぜ。それに、こういう質の悪い強盗じゃ、準備運動にもなりゃしねぇ」
ゲリージャは、その場から一歩も動いていないように見えた。
だが、ポンウィパとレフィーマの動体視力は、辛うじて彼の残像を捉えていた。彼は瞬きの間に男の懐へ潜り込み、四本の腕による超高速の連打を叩き込んでいたのだ。『エグジスト』の能力を使うまでもなく、同種を一瞬で始末した。
ゲリージャが男の残骸を見下ろす瞳。それは、先程までの親愛なる隣人の目ではない。
圧倒的強者が、足元の羽虫を見る目。
ポンウィパは改めて実感した。彼もまた、人智を超えた怪物、『エグジスト』なのだと。
しかし、すぐにゲリージャは満面の笑みを取り戻した。
「騒がせてすまなかったな。たまに来るんだよ、こういうマナーのなってねぇ輩が」
彼は布巾で、自分の拳についた血を無造作に拭き取った。
「まったく、このゴミが。『光粒子網』壊しやがって。こいつの銀行口座をハッキングして、弁償金と清掃代をきっちり抜き出すとするか。どうせ足りねぇだろうから、こいつらのいるストリート・ギャング共ごと潰して徴収しちまうか」
サラリと物騒なことを口にするが、この魔都においては日常茶飯事の事務処理だ。ポンウィパもレフィーマも、特に動じることはない。
「じゃあな、気をつけて帰れよ!」
「帰りも死ぬんじゃねぇぞ」
ふたりの『エグジスト』の経営主が彼女たちを見送る。
「ありがとうございます! また絶対来ます!」
「ありがとう、おじさんたち!」
ポンウィパとレフィーマは、彼らに挨拶をし『トニー&エイリアンズ』を出た。
♥
店を後にした二人は、ポンウィパが所有する『ルキフェル』配給の小型飛行ユニットに乗り込み、ロッドロッズ地区を目指していた。
ステルス迷彩起動、自動迎撃システム・オンライン、自動操縦モード。
快適な空の旅だ。
「いい人たちだったね」
操縦席でポンウィパがしみじみと言う。
「ほんとにね。『エグジスト』がみんな、あの人たちみたいに優しければいいんだけどなぁ」
助手席のレフィーマは、再びタバコを取り出し、今度はゆっくりと紫煙をくゆらせていた。
ピザも手に入れ、機嫌が治ったのか、口腔喫煙で香りを楽しむ余裕すらある。
「にしても、『銀河チーズ火山』……今食べたいなぁ……」
じゅるり、と品のない音を立てて舌なめずりをするレフィーマ。
『圧縮宝珠』の内部時間は凍結されているため、取り出せばいつでも窯から出したばかりの熱々が堪能できる。
ちなみにこの技術は、数百年前に「物質の状態を恒久的に保存する」能力を持つ『エグジスト』に、ある食品企業が莫大な契約金を積んで協力を仰ぎ、開発に至ったという逸話がある。
「今はムードとかもないでしょ。仕事終わったら、二人でゆっくり食べようよ」
ポンウィパが宥める。
「そうだね。その方が良いかも」
レフィーマはニヤリと笑った。
「ルビアズさんはともかく、あの高飛車なゼノヴィアに、私たちがこのプラチナチケット級のピザをゲットしたのを知られてなるもんかっ」
腕を組み、勝ち誇った顔をする。
過去、ゼノヴィアに何度も食べている物を────それも一番美味しい部分を────ひょいと横取りされた恨みは深い。あれは、人間に敬意など微塵もないゼノヴィアによる、陰湿かつ地味な嫌がらせであることを彼女は察しているのだ。
子供のような顔で勝利を確信している友人を、ポンウィパは微笑ましく見つめた。彼女たちがピザを買っている間に、相当数の悪魔が討伐されたのだろうか。窓の外には、先程までの喧騒が嘘のように穏やかな夕暮れが広がっていた。もちろん、地上では未だ殺し合いが続いているが、この高度においては平和そのものだ。二人の乗るユニットは、一番星が光り始めた空を、流星のように駆け抜けていった。




