第49話:夏休みの課題? それよりも夏祭り
4人で海に行ってから早くも数週間が経った。
屋台から帰ると、腹を空かせた零に色々と文句を言われたが、最後には許してくれたのでよかった。
結局恋春と零の関係はよく分からないまま終わったが、不仲ではないことは確かだ。
今日は──というか、今日も妃奈と一緒にいる。
妃菜の終わらない夏休みの課題に取り掛かっていた。昨年は『勉強しよ』と誘っても、二つ返事で拒否されてしまったので、大きな一歩だろう。
「あー祭り……行きたかったなー」
「また来年行けばいいじゃん」
「ら、来年!? いくらなんでも、ひーくん酷すぎるよ……」
机につっ伏して、痛くない程度の力でボカボカと叩いてくる。
「じゃあ今日の夜までに課題が二つ終わったら、行ってきてもいいよ」
「んー……ひーくんは来ないの?」
「俺? 友達と行けばいいじゃん」
「友達となら、先週もう行ってきたよ? だから、次はひーくんと行きたいの!」
「……わかったよ。ただし答えは没収します」
普段なら駄々をこねるところだが──
「うん。それでいいよ」
落ち着いた様子でゆっくり頷く。それとは裏腹に、瞳は轟々と燃えていた。
夏休み終了まで残すところ一週間を切った。だが、このペースなら少しも問題ない。
俺は小さくガッツポーズをした。
「さーてまずは短歌を作るかー」
「待て。それはいつでもできるだろ」
「めんどいー」
夏休みの課題の中でも、一番と言ってもいいほど簡単なものを取り出したので、慌てて止めた。
まさかそんなのを二つして、遊び呆ける気か?それは見過ごせない。
妃菜は「ケチー」と唇を尖らせているが、譲る気はない。やる気のあるうちに、面倒なのを終わらせれば楽なのに……
「俺が教えるから」
「言ったね? だったら全部答え教えてー」
「無理」
「早速約束破らないでよ!」
「答えは教えない。解き方ならいくらでも教えてやるよ」
「えー」と不満気な声が妃菜の口から漏れる。
嫌そうにシャーペンを握るが、着々と問題を解き進めた。
◇
「終わったァ〜!」
最後の一問に丸をつけ、妃奈は床に座ったまま腕を頭の上に伸ばして伸びをする。
気持ちよさそうな声を漏らし、そのままコップに注がれていたオレンジジュースを一口で飲み干した。
「終わったから祭り〜。夏祭り〜」
妃菜は鼻歌を歌いながら、ノリノリな様子でクローゼットの中から服を選ぶ。
俺は気まづくなって妃菜の部屋から出ようとすると、服の袖が重くなった。
「待って! ふ、服を選んでほしいな……」
「ええ……」
勉強を教えるよりも面倒だ。
そう顔を顰めると、目の前で上目遣いを向けてくる妃菜が、ムッと頬を膨らませた。
「せっかく一緒に行くんだから、着てほしいのを着たいの!」
拗ねたように言う姿が可愛らしくて、気づいた時には意思が折れていた。
「どれがいいか教えて?」
「んー」
意図せずとも、低い声が出た。
妃菜が取り出したのは、上下で合うように選ばれた服。
せいぜい3種類だが、どれも妃奈が着たら似合いそうなので悩ましい。
清楚系・ボーイッシュ・スポーティ。この中から一つなんて、選べる気がしなかった。
「ねーまだー?」
「待って。今考えてるから」
「うわっ、ひーくんが珍しく真面目な顔をしている」
選べと言ったのはどっちだよ。と突っ込みたくなったが、やめておく。
せっかく夏祭りに行くために勉強を頑張ったのだ。楽しむ邪魔をするくらいなら、楽しませてあげたい。
「──じゃあこれで」
数分間みっちり考えた末に選んだのは、王道の清楚系。
困ったらこれを選べ──って零が言ってたし、俺としても清楚系が一番好みだった。
「やっぱりか」
「なんだよ。俺がこれを選ぶってわかってたのか?」
「もちろん。何年一緒にいると思ってるの。ひーくんったら、街中で清楚系の人を見つけては、目で追ってるじゃん」
(…………そうだったの!?)
自分のことなのに、初めて知った。
外を歩く時は注意しようと、密かに心に決めた。
「さすが妃菜だな」
「ふふん。そうでしょ──てか、いつまでここにいるの?」
「え?」
妃菜の視線は手に持っていた服に移動して、次に俺と目が合う。
「あ、ごめん。俺がいたら着替えられないよな」
「もしかして──」
俺がドアノブに手を触れた時、背中から呟く声が聞こえた。
「私の生着替えシーン、見たかった?」
揶揄うように言われたが、声のボリュームが小さかったこともあり、俺は無言のまま逃げるようにして部屋を出た。
壁を挟んでも微かに聞こえる衣擦れの音が、俺の平常心を脅かす。
慌てて耳を塞ぎ、ついでに目も閉じておくことにした。




