第47話:困る水着と助かる水着
燦々と輝く太陽、宝石を溶かしたみたいに、海がきらきら光っている。
柄でもないと理解しつつも、俺は海パン一つ。腰元で浮き輪を抱え、目を細めた。
「すまん遅れた!」
「大丈夫だ。それよりも暑いな」
「それなー」
背中越しに伝わる零の声に、俺は静かに振り返る。
二の腕と膝から下にかけて黒く日焼けをしていて、サッカーに力を入れている彼らしいなと思った。
体つきは中学の頃とは比にならない。ゴツゴツと筋肉の塊みたいで、逞しかった。
「ひーくん、やほー!」
彼女達も着替え終わったようだ。
砂浜の奥で、恋春が大きく手を振っている。
同時に大きなものが揺れていて、咄嗟に目を逸らす。大胆な水着を着ているせいで、ソレの素晴らしさが普段よりも強調されている気がした。
視線が逃げた先にいたのは妃菜。
ミニスカートのような見た目の水着の上からラッシュガードを着て、小さく縮こまっている。
恋春とは違って、視線の置き場に困らない。
「助かるよ」
「…………なに?」
そう言ってサムズアップをすると、何がなんやらという感じだったが、ジト目だけを向けてきた。
「ねーねー。私の水着、どうかな?」
恋春がくるりとその場で回り、脳内にしっかりと刻まれる。
「いい、と思うよ……だよな? 零」
「え、俺!? ──そうだな。いいな」
「やった〜」
嬉しそうに飛び跳ね、俺を含めた男子陣はスーっと目を逸らす。
そして、やはり行き着く先は妃菜だった。
「それにしても──2人は仲良かったんだな」
視線の先にいる零と恋春は、自分を指差して首を傾げる。
ちなみに妃菜と零は、あまり話しているところを見ないが幼馴染だ。
「俺と恋春は親友だよ」
「そ、そうだね……」
零が肩を組むと、恋春が顔を顰めたように見えたのは、きっと気のせいだろう。
だって、すぐに自然な笑みに戻っているのだから。
零が太陽を隠すように、手をかざす。
そして気持ちよさそうに呟いた。
「いやー。響と妃菜も誘って良かったよー」
「それなー。他の人たち、みんな予定入ってたもんね」
恋春が砂浜に座り込み、パタパタと手で仰ぐ。
「ねえ……お腹空かない?」
「早くない?」
「泳ぐ前ってお腹空くんだよね〜」
「それを言うなら泳いだ後だろ」
「そうかな〜? だって、あれ見て──」
言いながら、恋春は海の家の方を指差した。
風に乗って、ソースの匂いがほんのり漂ってくる。
「焼きそばとか、めっちゃ美味しそうじゃない?」
「確かに……」
零が頷きながら、遠くの屋台を眺める。
ジュウジュウと鉄板の音が聞こえてきそうな気がした。
「じゃあ誰か買ってきてよー」
「言い出しっぺは恋春だろ」
「やだよ。暑いし」
恋春はあっさりと首を振る。
俺と零は顔を見合わせた。
「……じゃんけんするか」
「それしかないな」
「全員参加だ」
零が言いながら、ニヤリと笑う。
「負けたやつが焼きそば買ってくる。いいな?」
「オッケー!」
恋春がやる気満々で拳を握る。
「最初はグー!」
四人の拳が円を作る。
「じゃんけん──」
──ぽん。
しばしの沈黙。
三人の視線が、ゆっくりと俺に集まった。
「……」
俺の手は、見事にパーだった。
他の三人はグー。
やった、俺の一人勝ちだ。そう思っていたのは、どうやら俺だけのようだった──
「はい、響〜」
零がニヤニヤと親指を立てる。
「よろしくー」
「ひーくんお願い〜」
「……ごめん」
妃菜まで申し訳なさそうに頭を下げる。
「……マジかよ。なんで俺が」
俺は大きくため息をつき、砂を払って立ち上がった。
「焼きそば、四つでいいんだよな?」
「あとかき氷!」
「私はいらない……」
「俺コーラな!」
「なんか増えてるよね……!」
そんな大量に持てるわけない。
せめてもう一人と、言いかけた時、ピシッと手が挙がった。
──妃菜だ。
「さすがに可哀想だから、私も行くよ」
「マジか。助かる」
胸の奥がじんわりと熱くなるのを感じていると、零が追い打ちをかけるように口を開く。
「2人かー。だったらもっと買えるよな?」
「なんでだよ。焼きそばとかき氷とコーラしか買ってきませーん」
「けちー」
「けちで結構」
そもそも、そんなに頼むならみんなで行けばいいだろ。
敢えて言わないでおいたが、零の突拍子のない一面に、心の中では延々と愚痴が溢れ出す。
それなのに、どうしてか恨めない。それは、彼が根はいい奴だということを理解しているからだろう。
抗議の声を背中に受けながら、俺は灼ける砂浜を歩き出した。




