第44話:恋春の恋の始まり1
「呆れるよね。あそこにいる大人たちは、お金のことしか頭にない」
「えっ……そうなの?」
そんなの、知らない。
確かに、お父さんは仕事では活躍している(らしい)けど、どうしてパーティーに来る必要があるのか──その時の私には、まったくわからなかった。
「まあ、ただの憶測だけどね」
そう言って龍生は寂しそうに笑う。
既視感のある、私が大嫌いな笑みだった。
私も一人ぼっちの時は、よくしてしまう。
「せっかくだからさ、友達になろうよ!」
「…………え?」
「だ、か、ら! 私たち、友達にならない?」
龍生は一瞬、きょとんと訳がわかっていないようだった。
しかし、すぐに吹き出して笑いだした。
「ははっ、ははははっ──」
私、変なことを言っただろうか。
もしかしたら中学生になって、男女の友情を恥ずかしがってるのかな。
少しも想像しなかった反応に、混乱が隠せなかった。
「あーあ、面白かった。このパーティーに来る、同年代の子達は、出会ってすぐに婚約を申し込んでくるんだ」
「こ、婚約ッ?」
「きっと親に命令されてしてるんだろうけどね」
「ど、どういうこと。許嫁的な……?」
「ははっ! 違う違う」
涙を拭いながら、龍生は詳しく教えてくれた。
親が政治家だと、モテるらしい。
お金とコネを同時に手に入れるための、絶好のチャンスだとか。
──なんで大切な子供を、道具のように使うのか。
──そんなんで幸せになれるのか。
と、話を聞いても消化できないような、疑問が湧いてモヤモヤしていた。
「腑に落ちないようだね」
「うん……よくわかんない。やっぱり私には、のんびり過ごす方が向いてるや!」
「友達になろう。よかったらさ――連絡先、交換しない?」
思ったことをそのまま言うと、龍生はスマホを取り出した。
私もチャットアプリを開いて応える。
──晴れて、龍生と友達になった。
◇
それからは週に数回、メッセージや通話のやり取りをすることが習慣になっていた。
彼は声色の変化にすぐ気づいて、いつも私を気にかけてくれた。
適切な距離感のまま、友達──いや、親友として仲良くしていた。
しかし、一件のメッセージがその関係を壊してしまった。
『好きな人いる?』
龍生にとっては何気ない一言だったのだろう。
でも、私には重すぎた。
好きな人は……《《もういない》》。不完全燃焼だった。
過去にクラスメイトが話していた。
『好きな人いる?』は、脈アリだって。てことは……
「いや! ないから!」
自然と頬が緩み、すぐに否定する。
確かに龍生はいい人だし、彼と付き合ったら毎日幸せになると思う。
「私たちは友達で……」
恋人は友達の延長線上というのは間違ってないかもしれない。
それでも、納得がいかなかった。
全ての仲のいい男女はみんな恋人か。と問われれば、答えはNOだ。
気づけば、空が明るくなるまで悶々としていた。
『龍生が送信を取り消しました』
再びチャット欄を見ると、メッセージは消えていた。
嘘……それはどういうことを考えて、消しちゃったの!?
悩みは深まるばかり。
今度会った時に確かめてみよう。と割り切ろうとするが、寧ろ意識してしまった。
なんて罪な男だ──龍生は。
こうして、ズルズルと龍生のことが頭から離れなくなり──
気づいた時には好きになっていた。
住んでる場所は県外。簡単に会える距離じゃない。
それでも、毎日が少しだけ華やかになった気がした。
◇
転機は高校に入学してすぐに訪れた。
祖母が死んだ。
受験勉強を必死に頑張って入学した高校だったが、3ヶ月経つ前に転校。
お母さんとまた一緒に住むことになったが、苦しくなかった。
なんたって、龍生と同じ高校に入学できるから。
どういう経緯だったのかは知らない。
しかし、政治家の日向遥高のおかげ──それだけは耳に入ってきた。
日向遥高と校長は、仲良しだったらしい。
理由はどうでもいい。
とにかく龍生と同じ高校に通えることが嬉しかった。
引っ越ししていなければ、妃菜とも同じ高校だ。
「覚えてくれてるかなー」
疎遠になってしまったが、今でも彼女のことはいい親友だと思っている。
たった一度のいざこざ。もう終わったことだから、何も気にしてない。
また一緒に遊べたらな。と心から思った。
新しい高校は、希望で満ちている。
転校が決まったその時から、楽しみで仕方がない。
しかし、現実は甘くない。
龍生くんには、既に彼女がいた。
名前は菊池冬美というらしい。
無欠の聖女様と呼ばれるほど可愛いとか。でも、私は諦めない。
どんな手を使ってでも、龍生に好きになってもらう。
「ねえ、龍生くん。何か、して欲しいことはな〜い?」
通話越しに、作戦に取り掛かる。
きっと、彼の願いを叶えれば、私のことを好きになるはず。
そう──決めつけて疑わなかった。
『して欲しいこと? そうだな……響と妃菜って奴らをぶち壊したい』
「えっ──」
既聴感のある名前に、思わず変な声が出た。
響って男は知らない。……問題は妃菜の方だ。
もし私の知ってる彼女だったら、申し訳ないことをするな。
胸の奥がぎゅっと締め付けられるように痛くなった。
しかし、私は龍生に好きになってもらわなければならない。
断るという選択肢は、ハナからなかった。




