第39話:ニヤニヤの理由
「ねえ、ひーくん……少しいい?」
帰ってスマホを充電器に繋げると、妃菜が気まづそうに声をかけてきた。
振り向くなり目を合わせたが、ウジウジと指を弄っている。
「何もないなら──」
「待って!もう少しで心の準備が──だから、あとちょっとだけ!」
「わかった。わかったから、大声はやめてくれ。ご近所さんに怒られるから」
すると、無言のまま目を逸らされた。
(恥ずかしいなら、最初から気をつけておけばいいのに……)
言いかけて、やめる。
俺だってこんな事、日常茶飯事だ。
一人ではしゃいで、怒られないかと心配になる事の繰り返しだ。
大きく息を吐くと、心の準備ができたのか妃菜はスマホを取りだした。
「い……位置情報を交換、しませんか……?」
「位置情報って、GPSとか?」
「そう。それ!」
「なんでまた急に……」
理由がなかったのか、ゴニョゴニョと言葉を詰まらせる。
今日はぐれたから提案したのだろうが、今回のようにバッテリーが切れていれば、どうにもならない気がする。
しかし──
「いいぜ。その方が楽だしな」
そう言っておきながら、内心、妃菜を近くに感じられて嬉しかった。
アプリを入れて位置情報を交換すると、妃菜は「えへへ」と、笑ってみせた。
「これで、待ち合わせが楽になるね〜!」
「そうだな。今回みたいに迷子になることもなくなるな」
「もしかして……私が迷子!?」
「ち、違ったのか!?」
不服だったのか、頬をぷっくら膨らませている。
軽く突いてみれば、破裂してしまいそうだ。
「あれは、うっかりさんのひーくんのせいです」
「仕方ないから、そういう事にしておくよ」
「し、仕方ない──って、私ったらもう終わった話に熱くなって……」
小さく両頬を叩くと、ペチペチと可愛らしい音が響く。
考えが変わったのか、甘く優しい瞳で俺の両手を、覆うように握ってきた。
「でも……もう、今回みたいに離れないから──安心してね」
「助かるよ」
耳の先まで熱くて、そう返すので精一杯だった。
◇
「ひーくん!ごげちゃうよッ!」
一つも焦がしてたまるか!
でも、全部カリッ、ジュワァの美味しいのを作ってやる!
そんな風に張り切ってたこ焼きを焼く姿を見ていたら、自然と手が止まっていた。
初めに「ここがひーくんの領地で〜」と、決めたのに、結局妃菜が全部する事になってる。
「仲が良くて嬉しいよー」
キッチンで、さっき買ってきたタコを切りながら父さんが笑った。
(口を開くたびに俺を……)
目の下がピクピクと震えた。
父さんの趣味は俺をイジメる事なのかもしれない──いや、きっとそうだ。
でないと、俺の嫌がる顔を見ながら、万遍の笑みを浮かべてるのはおかしい。
睨むが、怯むどころか尚更楽しそうだ。
ウザイけど、父さんの笑っている顔が嬉しかった。
「ひーくん!また手が止まってる!」
「ご、ごめん!ここ、まだ回してないよね?」
「もうっ!焦げる前に全部しましたー」
腰に手を当てて、下から覗くように見上げてくる。
(なんだ。俺の前髪が長くて、 目を見て話を聞いているか、確認したのか?)
手で触れて確かめると、気づかないうちに目の下まで髪が伸びていた。
これは切り時かと、鞄の中で眠っている財布の中身を心配する。
ふと、キッチンを見ると、相変わらず父さんがニマニマと笑っていた。
やっぱりウザイから嫌だ。
「それでは、いただきます!」
「「いただきます」」
妃菜の掛け声に合わせて、炭酸の入ったコップで乾杯する。
父さんは珍しくノンアルを飲んでいた。
正直、酔った父さんには、絶対に妃菜と出会ってほしくないので、ラッキーだった。
「ふーふー、はふっ、あっつ!」
出来たてはひと味違う。
熱いけれど、カリカリの外側とは違って、中身はフワフワだった。
さすが妃菜、こだわっていただけあるな──と、心から感動した。
「あれ?中に入ってるのタコじゃない」
「そうだよ!ちなみに、なんだと思う〜?」
「もしかして明太子か!?」
「正解!よくわかったね〜」
ピリッとした辛さがクセになる。
これは妃菜が自信満々に、「たこ焼きの真髄を教えてあげる」とか、言っていた理由がわかる気がする。
他にもチーズやソーセージと色んな変わり種があって、美味しいし、楽しかった。
「ひーくん!これが最後のアレンジだよ!」
クイズみたいに当ててほしいからと、俺は自室で待機させられていた。
(隣にいても見ないのに)
最初の感覚を楽しむためらしい──なぜか、一口で食べろと言われた。
「早く!早くーっ!」
「じゃ、じゃあ……いただきます」
相変わらずカリカリとしていて、食べ応えがある。
しかし、今回は鼻をツンと刺すような感覚があった。
「──ッ!ワサビかよ!」
「せいかーい!」
毎回美味しかったので、油断していた。
たこ焼きの中から、チューブワサビの塊が出てきて、舌の上で踊ってる。
水を飲んで流し込んだが、ツーンと長い間痛みが残っていた。
涙だって出てきた。
「やったね!おじさん!」
「な、言ったろ?響は昔からワサビが苦手なんだよ」
父さんがずっとニヤニヤしていた理由が、ようやくわかった。
「──えよ」
「「え、なんて?」」
仲良さげに、その声は重なる。
「2人とも残ってるの、食えよ」
詰めが甘かったな。
ホットプレートの上には、ワサビの入ったソレが、まだまだ残っていた。
俺は2人が全て食べきるまで、優しく見守る事にした。
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