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大好きだった彼女に浮気され、地獄に落とすまで。  作者: くまたに


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第37話:鈍臭い泥棒

 今朝も、寝坊して酷い目に合わないようにと、張り切って早起きをした途端──我が家の"異変"に気づいたのだ。


 ガチャ──


 父さんはまだ寝ている。

 それなのに、玄関の鍵が開くような音が聞こえた。


(泥棒……?)


 咄嗟に身構える。

 足音からするに、体格はあまり大きくないと思う。

 それでも、凶器を持っていたら、流石に勝てない。

 なんたって、俺は格闘家でも何でもないからな。

 様子を見るべく、リビングの押し入れの中に隠れることにした。


 微かな隙間から覗く。

 運悪く顔は見えない──だが、予想通り小柄で、女性だった。


(とはいえ、女性の中では身長は高いほうかな⋯⋯)


 そーっと、抜き足差し足で、足音を必死に消している。

 その姿がなぜか可愛らしくて、ついニヤけてしまった──相手は泥棒だけど。


「えッ⋯⋯」


 思わず小さく声が漏れた。

 泥棒はリビングで少し迷った後、俺の部屋に向かいだしたのだ。

 早起きをしていなかったら、どうなっていたことか──考えるだけで、鳥肌が立つ。


「ふんふふ〜ん」


 鼻歌のようなものが聞こえた気がした。

 これならやれるのでは──と、小さな希望が湧いた。


(──行くか)


 泥棒なんて、初の経験なので、足がすくむ。

 それでも──俺がやらないと、そのうち父さんが襲われてもおかしくない。


(今だ──!)


 押し入れの扉を勢いよく開く。音が鳴ろうと、どうだっていい。

 それよりも、泥棒を捕まえられれば、今はそれでいい。


「きゃっ──なになに!?」


 鈍臭いのか分からないが、彼女はフローリングと靴下の、最悪のコラボレーションも相まって、盛大にコケる。

 ほぼ密着状態だった俺は、こちらに倒れてくる彼女を支えることは出来なかった。


「痛ッ!」

「んーッ!?いてて……ひゃっ!?」


 目を開けると、そこには立派な桃が──

 デニム生地のズボンが、更にその形をくっきりと醸し出している。

 思考が止まる──ほんの一瞬だけ。

 そのせいで、泥棒も俺も、どちらにとっても最悪の展開が起きてしまった。


「おはよう。朝から大きな音を──って、2人とも、相変わらず仲がいいね」

「こ、これは違うんです!」


(おや?)


「何が違うのか、じっくりと聞かせて貰っていいかな」


 父さんの悪巧みをしている時の声が、人越しに聞こえてくる。

 顔は見えないが、絶対笑ってる。


「これはですね……」


(おやおや?)


 泥棒の声に聞き覚えが──ってレベルの話ではない。


「どうして妃菜が家の合鍵持ってんだよ……!」

「「え、ええッ?」」


 その疑問に、なぜか──というか、想像通り裏返った声を出した。

 朝っぱらから本当に何をしてんだよ。


 とりあえず四つん這いの妃菜の下に俺、それを見下ろす父さんという、最悪の絵図を正す。

 ソファに腰掛け、麦茶を一口啜る。


「これはどういうこと?」


 妃菜から合鍵を取り返し、父さんに見せびらかすように、手の上で転がした。

 目を泳がせた、彼の額にじんわりと汗が滲んでいるのは、暑さとは無関係だろう。


「それは、妃菜ちゃんが欲しいって言ったから、貸してあげてるんだよ」

「えっ!?」


 途中、別の声が聞こえたが、続ける。


「危機意識無さすぎだろ!妃菜以外にも渡してるとか、絶対にありえないからな!?」

「妃菜ちゃんにしか……というか、息子を任せられる妃菜ちゃんだからこそ、渡したんだ。僕もいつ仕事で居られなくなるか、分からないからね」


 まともそうなことを言ってるが、その胸の内はきっと──


「一応言っておくけど、俺と妃菜は特別仲がいい友達ってだけだよ?父さんの考えてるようなことは、絶対にないから」

「そ、そうだったのかい!?」


 本能のまま、父さんは妃菜を見た。

 よもや妃菜が何か変なことを、言ったとか……


「ひーくん、おじさんは嘘をついてるよ」

「嘘?」

「うん。私、前に来た時に、おじさんからいきなり渡されたの」


 どちらも言ってる事が、まるで違う。

 なんだか馬鹿馬鹿しくなってきた。


「まあ、いいや。妃菜、この合鍵は預かっておくよ」

「えーッ!そんな……」

「残念だったね」

「一応言っておくけど、この合鍵は俺が持っとくから。もう、今回のようなことをしないでよ?」

「は、はい……」


 情けない声が漏れる。

 その後、3人で仲良く朝食を作って、事なきを得た。

 父さんも妃菜も、なんか怪しい。

 俺の知らないところで、一体何があったんだろう──

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