第36話:二人のハジメテ(※胸糞注意)
今回の話は、胸糞悪い+性的な表現が含まれています。
苦手な方はご注意ください。
朝のグラウンドは、まだ涼しい。
スパイクが芝を噛む感触が好きだった。
(今日も調子いいな)
パス、トラップ、シュート。
身体が思った通りに動く。
努力は裏切らない──そう信じてきたし、実際その通りだった。
「龍生、朝から飛ばすな」
「やるなら今だろ」
軽く笑って返す。
サッカーだけは、手を抜きたくなかった。
部活のメンバーが来るよりも先に、見込みのある奴と自主練をするのは、中学の頃から変わってない。
練習が終わり、スマホを手に取る。
画面には通知が二つ。
『今日も頑張ってね♡』
『昨日の続き、楽しみにしてる』
どちらも、違う女からだった。
顔がいいから連絡先を交換したが、いちいち連絡を寄越してきて鬱陶しいので、今日までの関係だ。
通知を消して、スマホをポケットに突っ込む。
(面倒くせぇ……)
好意を向けられるのは嫌いじゃない。
でも、深入りされるのは好きじゃなかった。
そもそも──
(本命は、ちゃんといるしな)
思い浮かぶのは、クラスで一番無難で、扱いやすい──今の彼女。
優しくしていれば勝手に安心してくれるし、多少放っておいても文句は言わない。
だから楽だ。
着替えを済ませて、家に帰る途中で、ポケットの中でスマホが震えた。
『今から会えない?』
冬美からだ。
俺が知る人の中で、一番顔面が良くて──そして、一番馬鹿な女だ。
最近関わった女は、どいつも俺を怒らせた。
ちょっとした気晴らしにでも──と、軽いノリで返信する。
『会える。いつもの公園で待ってるよ』
◇
「どうした……冬美?」
終業式ぶりに会った彼女の顔からは、光が失われていた。
腕には引っ掻かれた傷。
泣いたのか、目の下が腫れている。
「……」
俺の声を聞いても返事はない。
返ってきたのは、涙を啜る音と、抱きしめてくる女体。
(あーあ。これはストレスの種になりそうだ)
来るんじゃなかったと、今更ダルくなる。
泣くなら一人で泣いとけ──それを口にしてしまえば終わりなので、グッと堪える。
「龍生、くん……」
胸の中で震える声は、たしかに俺を呼んだ。
全てから逃げだしたい──そんな意思をわずかに感じる。
「なんだ?」
「私を、好きに扱って……」
「は?」
たとえ俺の前でも、キスより先には踏み込ませてくれなかったあの冬美が──
胸を押し付けるように、腕に巻きつく。
ごくり──思わず生唾を呑み込む。
(これは絶好のチャンスなのでは?)
そう、思うのとは裏腹に──
(後に弱みとして、俺の人生を左右されないだろうか……)
目の前の冬美を見たらわかる──後者は、ありえない。
それでも、俺の勘が警告を出していた。
やめておけ。後で、絶対に後悔するぞ──と。
「龍生、くん……」
もう一度、名前を呼ばれ、俺の思考は考えるのをやめた。
(今はただ、俺の欲を満たせればそれでいい)
まだ何も始まっていない。
それなのに、胸の奥がゾクゾクと、奮い立つように悦んでいる。
(これで"無欠の聖女様"も、俺のモノだ)
ここまで長かった。
一年以上も耐え続けたんだ。
ご褒美を貰わなくては、割に合わないじゃないか。
これで、不細工で面倒な女で我慢する必要もなくなる。
「わかった。今日はお前をめいいっぱい、可愛がってやるよ」
「やったぁ……」
安心しきったその表情は、見ているだけで心地が良い。
俺は生きてるだけで偉い──そう、幼い頃から忘れていた、原点を思い出せた気がした。
「ここじゃなんだしさ。場所を変えようか」
「うん、そうだね」
「ついでに、コンビニにも寄って行こう」
「私のために……ありがとう。好きだよ」
(軽い。その程度で芽生える愛。安いものだな)
俺は冬美の肩を寄せるようにして、道を歩く。
清々しい──周りを歩く男共が、可哀想に見えてきた。
その日、俺たちにとっての"ハジメテ"は無事に終わった。
そのはずだった──
後ろ姿を捉えた、カメラのレンズに、俺はまだ何も失っていないつもりでいた。
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