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大好きだった彼女に浮気され、地獄に落とすまで。  作者: くまたに


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36/49

第36話:二人のハジメテ(※胸糞注意)

今回の話は、胸糞悪い+性的な表現が含まれています。

苦手な方はご注意ください。

 朝のグラウンドは、まだ涼しい。

 スパイクが芝を噛む感触が好きだった。


(今日も調子いいな)


 パス、トラップ、シュート。

 身体が思った通りに動く。

 努力は裏切らない──そう信じてきたし、実際その通りだった。


「龍生、朝から飛ばすな」

「やるなら今だろ」


 軽く笑って返す。

 サッカーだけは、手を抜きたくなかった。

 部活のメンバーが来るよりも先に、見込みのある奴と自主練をするのは、中学の頃から変わってない。


 練習が終わり、スマホを手に取る。

 画面には通知が二つ。


『今日も頑張ってね♡』

『昨日の続き、楽しみにしてる』


 どちらも、違う女からだった。

 顔がいいから連絡先を交換したが、いちいち連絡を寄越してきて鬱陶しいので、今日までの関係だ。

 通知を消して、スマホをポケットに突っ込む。


(面倒くせぇ……)


 好意を向けられるのは嫌いじゃない。

 でも、深入りされるのは好きじゃなかった。

 そもそも──


(本命は、ちゃんといるしな)


 思い浮かぶのは、クラスで一番無難で、扱いやすい──今の彼女。

 優しくしていれば勝手に安心してくれるし、多少放っておいても文句は言わない。

 だから楽だ。

 着替えを済ませて、家に帰る途中で、ポケットの中でスマホが震えた。


『今から会えない?』


 冬美からだ。

 俺が知る人の中で、一番顔面が良くて──そして、一番馬鹿な女だ。

 最近関わった女は、どいつも俺を怒らせた。

 ちょっとした気晴らしにでも──と、軽いノリで返信する。


『会える。いつもの公園で待ってるよ』



     ◇



「どうした……冬美?」


 終業式ぶりに会った彼女の顔からは、光が失われていた。

 腕には引っ掻かれた傷。

 泣いたのか、目の下が腫れている。


「……」


 俺の声を聞いても返事はない。

 返ってきたのは、涙を啜る音と、抱きしめてくる女体。


(あーあ。これはストレスの種になりそうだ)


 来るんじゃなかったと、今更ダルくなる。

 泣くなら一人で泣いとけ──それを口にしてしまえば終わりなので、グッと堪える。


「龍生、くん……」


 胸の中で震える声は、たしかに俺を呼んだ。

 全てから逃げだしたい──そんな意思をわずかに感じる。


「なんだ?」

「私を、好きに扱って……」

「は?」


 たとえ俺の前でも、キスより先には踏み込ませてくれなかったあの冬美が──

 胸を押し付けるように、腕に巻きつく。

 ごくり──思わず生唾を呑み込む。


(これは絶好のチャンスなのでは?)


 そう、思うのとは裏腹に──


(後に弱みとして、俺の人生を左右されないだろうか……)


 目の前の冬美を見たらわかる──後者は、ありえない。

 それでも、俺の勘が警告を出していた。

 やめておけ。後で、絶対に後悔するぞ──と。


「龍生、くん……」


 もう一度、名前を呼ばれ、俺の思考は考えるのをやめた。


(今はただ、俺の欲を満たせればそれでいい)


 まだ何も始まっていない。

 それなのに、胸の奥がゾクゾクと、奮い立つように悦んでいる。


(これで"無欠の聖女様"も、俺のモノだ)


 ここまで長かった。

 一年以上も耐え続けたんだ。

 ご褒美を貰わなくては、割に合わないじゃないか。

 これで、不細工で面倒な女で我慢する必要もなくなる。


「わかった。今日はお前をめいいっぱい、可愛がってやるよ」

「やったぁ……」


 安心しきったその表情は、見ているだけで心地が良い。

 俺は生きてるだけで偉い──そう、幼い頃から忘れていた、原点を思い出せた気がした。


「ここじゃなんだしさ。場所を変えようか」

「うん、そうだね」

「ついでに、コンビニにも寄って行こう」

「私のために……ありがとう。好きだよ」


(軽い。その程度で芽生える愛。安いものだな)


 俺は冬美の肩を寄せるようにして、道を歩く。

 清々しい──周りを歩く男共が、可哀想に見えてきた。


 その日、俺たちにとっての"ハジメテ"は無事に終わった。

 そのはずだった──

 後ろ姿を捉えた、カメラのレンズに、俺はまだ何も失っていないつもりでいた。

ここまで読んでくれてありがとうございます!

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