第31話:彼女持ちに抱きしめられた
試験の結果が張り出された日の放課後──
「どうしたの〜。今日のふゆ、元気ないよ?」
「ごめん。一人にしてくれる?」
「わ、わかったよ……」
今日の冬美は元気がない。
私には心当たりがある。
我ながら、していることが悪魔のようだと思う。
「恋春ちゃんごめんね〜。ふゆったら、ここのところずっと機嫌が悪いの……」
「今日だけじゃなかったの!?」
「うん。それがね……」
わざと大袈裟に言うと、冬美のクラスメイトは話し始めた。
彼は私と話しているとき、チラチラと胸ばかり見てきて、本当に気色悪い。
私がそうなるように仕向けたんだから、教えてくれなくてもいいのに。
というか、適当に相槌を打つのも面倒くさい。
「──可哀想だよね?」
(えっ、何が?)
考え事してたせいで、全く聞いてなかった。
とりあえず「そうだねー」と、返しておいた。
私は何年も前から、龍生くん一筋なの。
彼がやれって言えば、少しも良く思わない男子とだって手を繋げるし、キスだってできる。
(それなのに龍生くんは……)
チラリと、机に突っ伏している冬美に目を向けた。
彼女の苦しむ顔ほど、私を楽しませてくれるものはない。
胸の奥をゾクゾクとした、未知の感情が埋めつくした。
(そのまま、龍生くんの隣を明け渡せ)
自分の教室に戻ろうかと、廊下に出た。
そこには、私が今一番会いたかった人がいた。
「恋春か。お前ここで何をしていた」
「龍生くんったら、そんなに睨まないで。私は友達と話してただけだよ」
「はぁー……」
大きなため息が目の前で聞こえ、そのまま手を引かれた。
「ど、どこに行くの!」
「……」
(きゃーッ!りゅ、龍生くんが!私の手を握ってる〜ッ!)
心臓がバクバクと高鳴る。
これが聞かれてないかと、心配になる。
ドクン、ドクン──カッ、カッ。
心音と階段を上る足音がリズムを作った。
連れられたのは屋上だった。
昼間の太陽は眩しくて、日焼け止めを塗ってない肌をジリジリと焼いた。
「なぁ、恋春」
「なあ〜に?」
「冬美にちょっかいかけんな」
「え……」
どうして。
何があってもバレないようにしたのに。
まさか──
「冬美ちゃんに聞いたの?」
「さあ、どうだろ」
「冬美ちゃんは私の大事な友達なの。離れ離れなんて嫌だよ」
「ハハッ……演技が上手いな。お前の本性を知らない奴には、絶対に見破れないだろうよ」
私の泣き真似を、彼は何も無かったかのようにあしらう。
龍生くんだけが本当の私を見ていてくれる。
「そうだな……これで勘弁してくれ」
後ろから優しく抱きつかれた。
吐息が耳にかかる。
微かに香る、彼の匂いが私をおかしくしそう。
「だ、ダメだよ!こんなところ冬美ちゃんに見られちゃったら……」
表面ではいい子ちゃんぶってるが、今にも飛び跳ねて龍生くんへの愛を叫びたい気分だった。
「大丈夫だよ。冬美はここには来ない。もう帰ったって嘘のメッセージを送っておいたからな」
「それって──」
「そう。恋春と話したかったから」
ボフッと、顔が一気に熱くなった。
(どうしてそんなこと言うの。尚更龍生くんの隣に、居たくなるじゃん……)
「恋春──」
「ひゃい!」
「変な声」
「そ、そんなこと言わないで!耳元で話されると、くすぐったいよ……」
「ごめんごめん」
こんなにおかしな声を出したのは、生まれて初めてかもしれない。
龍生くんといると、知らない私を知れるから、好きだな。
きゅっと、胸が締め付けられるような想い。
これがずっと続けば──なんて、叶わないことを願ってしまう自分が、憎らしい。
「お前に守ってほしいことがあるんだが、いいか?」
「龍生くんからの頼みだったら、なんでもいいよ」
「冬美に関わるな」
なんとなく言うことはわかってた。
今までは、はっきりと言われていない。
だから、バレないうちにあの女を壊してやろうと思ってた。
(失敗、か……)
それでも、何故か嫌な気持ちにはならなかった。
「わかった」
「約束だ。ちゃんと守れるなら、何でもしてほしいことをしてやる」
「何でも?」
「あぁ、何でも──ちゃんと守れるならな」
龍生くんが離れるその時まで、私は彼の温もりを忘れないでいる。
私の人生で一番幸せな時間だった。
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