第30話:断じてパパ活ではない
私──妃菜は、窮地に立たされている。
ファミレスの四人席に、何故かひーくんのお父さんと座っている。
おじさんは何も気にすることなく、2人分のドリンクバーを注文した。
(どうしてこんなに──)
◆
思い返すこと、約1時間前。休みだからと、自室でゴロゴロしていたら、インターフォンが鳴った。
お父さんとお母さんは、デートに行ったから家にはいない。
(怪しい勧誘だったら無視しよ)
リビングのモニターで確認すると、中年おじさんの顔がデカデカと映っていた。
「へ、変質者っ!?」
(す、ストーカー……?)
改めてモニターを確認すると、どこか見覚えのある顔……
「そうだ!」と声を張り上げながら思い出す。
ひーくんのお父さんだった。
一目で気づけなかったのは、眠かったからってことにしておく。
「おはようございます」
流石にパジャマで外には出れず、モニター越しに話した。
(こんなガードの緩い姿、ひーくんにしか見せたくない──)
「って、何考えてるの、私!」
「おはよう。妃菜ちゃんかい?大きな声出してるけれど、大丈夫?」
「だ、大丈夫です……!それで、おじさんはどうしました?」
「実は……頼みたいことがあってね」
「頼みたいこと?」
おじさんには日頃からお世話になっている──と、思う。
だから、私にできることなら、何でもお手伝いしたい。
そう考えて、頼み事の内容も聞かずに返事してしまった。
「私で良ければ」
と。
◆
「わざわざ休日にごめんね」
「今日、暇だったんで大丈夫です。それで、頼みっていうのは……」
「それは……」
おじさんは気まづそうに口を開く。
きっと、私の家に来るまでも、何度も迷ったんだ。
「前に、響と最近話せてないって言ったよね?」
「あーっと、確か1週間前に言ってましたね」
「そう。実は……まだろくに話せてないんだよ」
「え!?」
驚きのあまり、大きな声を出してしまう。
何だ何だと、こちらを見てきた他の客と目が合って、恥ずかしい。
「響に酷いこと言っちゃったんだ」
「ひーくん、怒ってるってこと?学校では、そんな風に見えなかったけれどなー……」
「響を残して家を空けることが嫌だから、僕が仕事でしている企画から、退こうと考えてるんだ」
「それをひーくんに言ったら、口を聞いてくれなくなったと……」
「そういうことだね」
おじさんは表面上は、いつも通りに振舞っている。
しかし、さっきからやたらと多く、飲み物を飲んでいる。
(緊張してるのかな?)
私だって、おじさんと2人でファミレスなんて、緊張しないはずがない。
けれど、少しだけ肩の力が抜けた気がした。
「それは、おじさんが悪いです」
「でも僕は……響のことを思って……」
「その考えが……ダメなんです」
「どうして」
「それって、おじさんが逃げてるだけじゃないですか」
「──ッ!」
おじさんは大きく目を見開いた。
そして、じっと考えるように黙り込む。
(き、気まづいよぉ……)
冷たいコーラを一口飲んだ。
弾けるような炭酸が、私の頭の中をスッキリさせた。
(頑張れ、私!ひーくんの大事な人に、認めてもらうチャンスじゃん!)
何を認めてもらうのかは、乙女のひ・み・つ。
胸の中で呟く。
おじさんと2人きりという、イレギュラーな事態に頭がバグった。
そのせいで、いつもだったら思わないことが、何度も頭に思い浮かんでくる。
「ごめんね」
消え入るような小さな声で、謝られた。
予想外で、思わず下がっていた顔が上がる。
「妃菜ちゃんに聞いている時点で、僕は親失格だね」
らしくもない。
私の知ってるおじさんは、自分の失敗はしっかりと受け止めるが、決して弱音を吐かない人だ。
それなのに今は──
「──じゃないです」
「ん?」
「おじさんは、親失格じゃないです」
おじさんを無視して、私は続けて言う。
「ひーくんのことを思って考えた結果、上手くいかなかっただけじゃないですか!」
「で、でも……」
「ひーくんと本気で寄り添いたいなら、もう少し考えてみてください。きっと、ひーくんもわかってくれますから」
「……ありがとう」
清々しい顔つきになったおじさんは、テーブルの上にあるチャイムで、店員を呼ぶ。
「ステーキセット一つ。今日はお礼に何でも奢るよ。妃菜ちゃんは──」
「イチゴパフェください!」
「承りました」
せっかくなので、一番高いのを注文してやった。
おじさんは一瞬眉を寄せるが、すぐに大きな声で笑った。
少し経てば、ジュースしかなかったテーブルは、色鮮やかな料理で彩られたのだった。
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