第29話:欠けた名前
「試験の結果は廊下に張り出されている。受けてない人は別のテストをするから、放課後を空けておくように」
運命の試験から、数日後。
待ちに待ったテスト返却日がきた。
俺はまあまあの出来だったと思うが、肝心の妃菜は……なんとも言えない。
試験終わりに、わざわざ家にまで来て泣きついてきたっけな。
クラスメイトが我先にと廊下に掛けて行くと、妃菜と目が合った。
そしてスマホを叩く。時間を開けずに、俺のスマホが揺れた。
『一緒に見に行こ』
『おけ』
簡単に返して、席を立つ。
何気ない顔をして教室から出ていく姿は、我ながら面白いと思う。
一箇所に一年生全員分の順位が貼られているからか、人気が無くなるまでにかなり時間を要した。
「人多いね……」
「そうだな。もう少し減ってから行くか」
少し離れたところで、敢えて距離を置いて言葉を交わす。
みんな、自分の結果に気を取られているので、これくらいで十分だろう。
晴れ晴れとした表情や、この世の終わりのように絶望する表情。
人それぞれ違った感情を表に出していた。
「ようやく、か」
ある程度人がいなくなると、すぐに順位を確かめた。
「平野響、平野響……あった!」
11位。初めてにしてはよくやったと思う。
一年生全員で400人近くいるので、上位3%くらいと言ったところだろうか。
対して妃菜は──
「ない……名前が全然ないよぉ……!」
上から順に探しているようだが、全く名前が見当たらないようだ。
「あった……!」
ようやく見つかったらしいが、139位と、なんとも言えない順位だった。
涙目を向けてくるが、俺には何もできない。
一先ず冬美の結果を探すことにした。
しかし──
「菊池さんの、なくない?」
最初から最後まで一通り見てみたが、結局見つけることはできなかった。
◇
放課後。俺たちはハンバーガーショップで、ポテトを、つまんでいた。
「どうして名前がなかったんだろうね……」
「もしかしたら、冬美が試験を受けていないんじゃないかな」
「休んだってこと?」
「ただの予想だよ。本人に聞かないとわからない」
冬美にはチャットアプリで、ブロックされているので、連絡は取れない。
その上、リアルでは噂が流れているから、無闇に話せない。
なんとしてでも、妃菜を貶したことを謝らせたかったのに……
「ひーくん。私は大丈夫だから」
俺の心を読んだように、妃菜は優しく言う。
「でも……」
「私たちが負けたら、菊池さんの奴隷になっちゃうんだよ?」
「まぁ、確かに……?」
俺が苦い顔をすると、妃菜はぷっと吹き出した。
「なにその顔。ひーくんがそんなに必死になるの、ちょっと面白い」
「人の人生かかってるんだぞ」
「大げさだなぁ」
そう言いながらも、妃菜は紙カップを両手で包み込むように持っている。
さっきまでの不安げな表情は、少しだけ和らいでいた。
「でもね」
妃菜は、ふっと真面目な声になる。
「ひーくんが私のために怒ってくれたの、すっごく嬉しかったよ」
「……それは、どうも」
照れ隠しに、俺はストローを噛んだ。
こうでもしていないと、恥ずかしくてニヤけてしまいそうだった。
「次はもっと高い順位を目指して、頑張るよ」
「……」
「今回はさ、ひーくんがせっかく教えてくれたのに、いい点数取れなかったから──次はリベンジする!」
そう言って、妃菜は拳を握る。
(もう我慢する必要はないな)
「舐めてるのか?」
「え?」
「俺が教えたのに、139位だと!? 次は絶対に100位を切れるように、ビシバシ教えてやるから覚悟しておけよ!」
「ヒィィィィ……ッ!」
その日から、定期的に俺の部屋に妃菜の叫び声が響くことになった。
もちろん、勉強の悲鳴のはずだ──。
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