第25話:球技大会開幕
蒸し暑く、じんわりと汗をかく。
そんな最悪の空気の中で、球技大会当日は幕を開けた。
体育館の中は様々な熱気がおり混じり、非常に居心地が悪かった。
「目指せ1位!僕たちのチームワークを、見せつけるぞ!」
「「「「おうッ!」」」」
「ほーら、平野くんも」
「……」
その声は明るい。けれど、俺だけ呼び捨てじゃないのが気に食わなかった。
当初は休んでやろうと思っていたが、気が変わった。理由は簡単だ──
「見てろよ?」
離れたところでチームメイトと談笑する生徒を睨む。
俺は今日、アイツ──龍生を叩きのめす。それだけを望んで、密かに練習までしてきた。
「いい顔だね」
他のチームメイトがゼッケンを取りに、いなくなった隙に水樹が話しかけてきた。
にっこりと爽やかな笑みを浮かべている。その裏に何かが潜んでいるのではと、身構えた。
「別に悪いことなんて考えてるないよ」
「そう」
「相変わらず冷たいね──でも、熱い。そういうの、嫌いじゃないよ」
「……」
無視されてるのに、なぜか水樹は嬉しそうだ。
コイツ、多分根っからの変わり者だ。
「まぁ、君のこと、期待してるからね」
「じゃあボールは全て俺にパスをするんだな」
「ハハッ、面白いことを言うね。でも――嫌だね。君が活躍したい理由はわからないけれど、俺はなんとしてでも格好良い姿を見てほしい子がいるんだ」
顔がいいから何もしなくても、女の子の方から寄ってくるだろう。それでも努力を惜しまないその姿勢に、好感が持てた。
「そんなこと、俺に言っても良いのか?」
「君、僕に興味ないでしょ。それに、言う友だちもいないし」
(クッソやろうじゃねえかよ……ッ!)
コイツをいいなと感じた、少し前の自分が馬鹿馬鹿しく思えた。
(水樹……お前も越えてやるからな)
胸の中でそう宣言し、壁に貼られたトーナメント表に目を向けた。
龍生と当たるには、2回勝たないといけない。そこまでは余裕だと思うが、できる限り体力を消費したくない。
ピィーッ――笛の音が体育館に鳴り響いた。整列の合図らしい。
遠くにいる龍生と、少しだけ目が合った。
まだ始まってもないのに、勝ち誇ったような表情だ。あれをぶち壊す――それだけを目標に試合に挑んだ。
◇
想像通り、2回勝つのは簡単だった。
水樹はおかしいぐらいに、動き回っていた。
そんな彼を、チームメイトは慕い、パスを与え続けていた。それに応えるように、水樹はなんどもシュートを成功させた。
試合時間10分間――初めはやる気に満ち溢れていた相手チームも、いつの間にか戦意を失うほどだった。
これなら龍生に勝つなんて楽勝――そう確信づいた時だ。誰も予想しなかった事態が起きた。
「平野くん。申し訳ないんだけど、次の試合から君を頼っていいかな?」
「おいおい、どうした?俺にパスも回さずに、動き続けたせいで疲れたか?」
「惜しい――実は足を挫いちゃって……」
「は?」
にわかに信じがたい。
しかし思い返してみると、彼は着地のたびに眉をしかめていた。
「嘘じゃないよ。でもね、僕が抜けちゃったら、みんなやる気無くしちゃうでしょ」
「そうだな」
「だから君にまかせるよ」
(こんな勝ちで俺が満足できるわけねぇじゃん……)
水樹には失望した。
それでも、龍生にはなんとしてでも勝つ。その目標は覆ることはない。
「任せろ」
「ありがとう……!」
「一応言っておくが――これはお前のためじゃない。俺のために勝つんだ」
予想外だったのだろう。一瞬ポカンと、情けない面をしていた。
「わかったよ」
安心したように呟かれる。
どうせ俺は、気を使わなくていい相手だと思われてる。
そういう扱いには慣れている。
ふとギャラリーにいる妃菜と目が合う。
小さく両手を胸の前で握り、『が・ん・ば・れ』と、エールを送ってくれる。
自分でも驚くほど、肩の力が抜けた。
「今から、FチームとHチームの試合を始める。気をつけ──礼!」
教師の号令で軽く頭を下げた。
水樹がじゃんけんに勝ったので、こちらが先攻だ。
耳を貫くような大きい笛の音で、試合が始まった──
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