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大好きだった彼女に浮気され、地獄に落とすまで。  作者: くまたに


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23/50

第23話:龍生が一線を越えた日

 大会当日。

 2日前には負けると、泣き言を言っていたチームメイトも、今ではすっかり晴れ晴れとした表情をしていた。


(ついにこの日が──)


 正直、昨晩はあまり寝付けなかった。

 それほど、平野響の"負け"が待ち遠しく、俺の胸を掻き立てた。


「龍生、ほんとにあの作戦を……」


 チーム内でも意見が別れている。

 何をしてでも勝ちたい多数派と、理性が残っている少数派──数の暴力だ。


「チームの方針は多数決で決めさせてもらう」


 なんて言ってみたが、初めからこうなることは想定済みだった。

 俺は小さい頃から、人の心を動かすのが得意なんだ。


「大事になっても……知らないからな」

「お前、それ正気で言ってるのか?」


 ピクリと目の下が引き攣ったのが自分でも分かる。


「こんな汚い手を使うことになったのは、俺と同じ練習をしておいて下手くそなお前のせいだ。責任から逃れることは、俺も、チームも許さない」

「そんな……このやり方は間違ってる!」

「うるさい。雑魚は黙ってろ」


 そう言い捨て、俺はフィールドの上に立った。

 遠くでストレッチをする響の姿を見た途端、背中がゾクリと寒気を覚える。


(この、俺が……恐れてる?)


 プレーしてる様子は見たことあったが、実際に戦うとなると足がすくむ。

 試合前の握手の時だってそうだ。アイツは俺になんて、少しの興味も持たなかった。

 どこか遠くを見ている。


 運が良い──そう笑ったのは試合が始まって、あまり時間が経たない時だった。

 俺が、警戒していたのは響だけではない。

 "盤上の支配者"が唯一背中を預ける彼の相棒も、勝つためには手を下す必要があった。それでも──


「ハハッ……病欠とは情けない」


 冬美によると、数日前から夏風邪で休んでいるらしい。

 聞いてもないのに探りを入れて……本当に使える女だ。


「行け!龍生!」

「ああ──当たり前だろォッ!」


 ボールは俺の足から離れ、相手チームのゴールに突き刺さる。

 その瞬間、チームのベンチの方から嵐のような歓声が聞こえた。


(ああ、これだ)


 俺が失った──快楽。響によって奪われたこの感情が、今だけ蘇った気がした。


 その後、軌道に乗ったウチのチームが、連続点を入れる。

 それでも響は一切表情を変えなかった。

 アイツの冷たい瞳は、俺たちの平常心を揺るがした。怯んだ暁には、ボールが奪われ、得点を入れられる。


 ハーフタイムの時には、心身ともにボロボロになっていた。


「龍生……そろそろあの作戦を……」

「待って!可能なら俺たちの実力で勝つ──そう決めたじゃん!」


 少数派の納得を得るための、お互いが許容できるギリギリのラインまで攻めた結果だ。

 それがなければ、こうして疲労が出る前に決着をつけれたと言うのに……


(まあいいか。アイツから点を奪った時の、脳汁が出る感覚はたまらねぇからな)


 試合後半はどちらも目立ったプレーを出来ずにいた。

 響はやりずらいという思いが、表情に現れている。

 残り時間が少なくなるにつれて、龍生が望んだ景色が近づく。


(これは勝ち確だな)


 残り一分。点差は一点だが、俺を含めた全員が勝ちを確信していた。

 相手チームはグダグダで、威勢が弱まっていた。一人を除いて──


「盤上の支配者──ッ!」


 ボールが宙を舞う。

 アイツが一番得意とする条件が揃った。


(マズい!)


「お前ら──今だ!」


 俺が言うよりも先に、チームメイトは飛び出していた。

 接触が増える場面を作れ──多少荒れても構わない。

 相手の強大さに焦ったせいで、最悪の結末になってしまった──


 ゴリッ──鈍い音が小さく響く。

 相手チームの監督が怒鳴り、フェンスの外で冬美が泣いていた。


(好きでもない男の不幸に、よくもここまで泣けるな)


 共犯者の恐ろしさに、思わず俺の方が驚いてしまった。

 何がともあれ、試合に勝ったのは俺たちだった。

 そのはずなのに、胸の奥に残った冷たさだけは、どうしても消えなかった。

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