蛭を飼う男
私は田んぼの多いのどかな郊外に日本家屋を借りて暮らしていて、そこの便所の棚の上で、チスイビルを四匹、半分に切って近所の水田の泥水を汲んだペットボトルに入れて飼っている。ヒルたちへのエサ、つまり血が通った生き物は、家で飼っている雌ネコのロビンが捕って来る。ロビンは優秀な狩猟者だ。文筆業を生業としている私が机に向かって物を書いている時、縁側から部屋に入って来て、ニャーと一声鳴いて、とれたて殺したてのネズミやらアオダイショウやらを口に咥えて、私にくれようとする。私はその度にありがとうとお礼を言い、ロビンの頭を撫でて、街に下りた時にデパートでまとめ買いした、私が日々食べるカップ麺やらインスタント食品よりも500円ばかりは高い高級ネコ缶を白い平らな皿に開けてやる。ロビンはうまそうにそれを喰う。ネコを部屋に残し、便所に行き、ネコからもらった生き物の死骸を私はペットボトルにポトンと落とし入れる。その瞬間全ての吸血ヒルたちはそのネズミやらの死骸に一斉に集まって来る。腹が空いているんだ、この獲物は俺のものだと言っているように激しい勢いでヒルたちはその死骸に吸い付く。俺はペットボトルを便所の床に置き、ズボンを下ろして、パンツも下ろして、便器の上にしゃがむ。
フルチンの私と、うごめきネズミの血をしゃぶるヒルたち。私は隣にいるヒルたちを眺めつつ、興奮のため無秩序な間隔で出したり止めてしまったりしながら、恍惚として用を足す。そういう時、私は手足の先がしびれるような軽いエクスタシーを感じる。これが私の一番の幸福の時だ。
しかし、このところそれだけでは物足りなくなってきた。自分を満たすためには最大限の幸福の源であるヒルを利用するべきだろう。世話になっている出版社の編集者を、鍋をしたいのだが、ひとりじゃ量が多くなりすぎるから食事に来てほしいという理由で家に招いた。お邪魔します、と挨拶して上がってくる女性編集者をこたつに入れてやり、水炊きを作って、たくさん食べさせ、そしてビールやら酒やらをしこたま飲ませた。
「あらぁ、ちょっとおトイレお借りできますか?」
「ああ、向こういって左てだ。鍵は中からかけないで。壊れていて鍵かけると開けられなくなるから」
千鳥足で女性編集者は便所に向かう。便所の扉を開けて、中へ入った。周りの状況もおそらく細かくは観察できない状態で。パンツを下ろしただろうか。
「きゃーっきゃー、いやー」
酔っぱらいのへべれけ声と女性の甲高い悲鳴の真ん中をとったような叫び声が聞こえた。私はすかさず飛んで行って、便所の扉を勢いよく開けた。ヒルたちが編集者の足や太腿に食らいついていた。パンティをずり下ろしたまま、腰を抜かした女性編集者は下半身が丸見えだった。女性編集者が家に来る直前に四匹のヒルを便所の床の四隅に置いておいたのだ。女性編集者は泣きそうな目をして身体のあちこちに食らいついたヒルを引き剥がした。しかし太腿を昇って来る一匹のヒルには気が付かなった。ヒルは女性器に辿り着いた。そこでその肉にかじりついた。女性編集者は狂ったような悲鳴をあげ無我夢中で自分の性器を見て原因を探り、ヒルを引き剥がして壁に投げつけた。僕は
「ヒルが窓から入り込んだようだねえ。いや、災難だった」
と言い訳した。女性編集者は「ひどくショックを受けてここにいられません」とすぐに帰った。僕はヒルとロビンと取り残された。いや、これが本来の僕たち家族の形なのだ。血肉を分けよう。僕はロビンを連れて便所に入った。まずロビンの前足を一匹のヒルに差し出した。ロビンは拒絶を示す声を高く上げて怒り、結局自分を抑えつけていた私を振り払い、前足を咬むヒルを叩きはらって潰して殺して出て行った。私は便所から逃げていくロビンを放っておき、穿いているもの全てを脱ぎ自分の性器をむき出しにして、足からヒルを這わせた。女性編集者がヒルからもらった感覚を私も知りたい。ヒルは男性器に辿り着いた。ヒルはその性器の先っぽを吸った。その途端私はこの世の全ての感覚を経験し、全ての感覚を一瞬にして失った。ヒルのぬめった感触も床の冷たさも。私は惚けたようにうっとりと天井を見上げていた。




