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復讐

 週明け。

 朝の職員会議が終わると、将人は教頭に声をかけられた。

 どうやら理事長が呼んでいるらしい。

 教頭に連れられて、理事長室へと向かう。理事長室をこの前訪ねたのは、先週の金曜日。あの日は放課後だったから、まだ三日と経っていないのだ。体感的には随分と昔にあった出来事のような気がする。

「――失礼します。稲村先生をお連れしました」

 理事長は相変わらずテレビに向かってゲームをしていた。将人たちのほうを振り返りもせず、ずっと背を向けたままだ。

「では。私はこれで」

 教頭は理事長の態度を気にした風もなく一礼すると、理事長室を去っていった。

 将人と二人きりになっても、理事長はしばらくゲームに没頭していた。

「死ね死ね死ね――」

 プレイしているのは前回と同じくFPS。

 違っているのは、撃たれているのがゾンビではなく、セーラー服を着たいたいけな女子生徒だということか。

 趣味が悪い――将人は歯を食いしばって、込み上げてくる怒りを何とか堪えた。

「……理事長。用件は何ですか」

 一向に将人のほうを振り返ろうとしない理事長に、将人は痺れを切らした。一限目が始まるまで、あまり時間もない。一限目は二年一組の数学の授業を担当することになっていた。

 二年一組――唯菜が在籍していたクラスである。

 この土日はずっと自室のベッドでぼんやりとしていた。唯菜がもうこの世界にいないということが未だに信じられなくて――信じたくなくて、ただずっとあれこれと昔のことを思い出していた。

 二年一組の教室に行って点呼を取れば、唯菜がいなくなったという現実を突きつけられることになるだろう。そのときのことを想像しただけで胸が締め付けられるような痛みに襲われる。だけど、向き合わなければならない現実だ。何より唯菜がそれを望んでいたのだから。

「ああ、稲村先生――」

 そう言う理事長は、やはり将人のほうに顔を向けることはない。テレビに目を向けてゲームをプレイし続けている。

「金曜日はお疲れさまでした。どうでしたか、初めて参加してみて。楽しめましたか」

 正気か、と将人は思った。

 理事長が訊いているのは師徒ゲームのことで間違いないだろう。

 デスゲームを楽しめたか、だって?

 ふざけてるのか。生徒や教師たちが亡くなったんだぞ。

 沸々と怒りが込み上げてくる。

「私はカメラの映像を通して、とても楽しませていただきましたよ。特に最後のシーンはなかなか見ごたえがありました。稲村先生たちの愛の告白からの、悲しい別れ――東城先生が己の命と引き換えに稲村先生に未来を託したことが分かるシーンは、どんでん返し要素もあってなかなか。この一年だと三本の指に入る面白さでした。他にも、東城先生と春日井さんの戦闘シーンは緊迫感があって――」

 理事長がどうしてこんな狂ったデスゲームを企画しているのか、ずっと疑問に思っていた。

 その答えが、今分かった。

 この男にとって、このデスゲームは娯楽なのだ。

 まるで映画やドラマでも観るように、視聴者としてデスゲームを楽しんでいる。

 強制的に参加させられた将人たちのことなど、何一つ考えちゃいない。

 こんな奴のせいで、今まで多くの教師や生徒が命を落としてきたのか。唯菜も、この男のせいで……。

 ――許されるはずがない。

 怒りに染まった将人の目に、あるものが留まった。

 これで、この男を――。

「――鏑谷先生はいつものことながら豪快でしたね。生徒の頭をスパンッと斬るのは、見ていて爽快でしたよ。今後彼の活躍が見られなくなると思うと、非常に残念ですね――」

 相変わらず理事長は将人に背を向けて、ぺらぺらと喋り続けている。

 将人は、テーブルの上に置いてあった空の灰皿を手に取った。

 足音を立てないようにして、理事長の背中に近づく。

 将人の頭の中で、怒りの感情が渦巻いていた。

 ――死ね。

 灰皿を大きく振り上げて、理事長の後頭部に振り下ろそうとした瞬間、将人はそれを見た。

 理事長の左のわきの下から覗く、黒光りする銃口を――。

 彼は右手に拳銃を隠し持っていたのだ。

 将人がそれに気づいた直後、銃口から火花が散った。

 ドンッと額に衝撃があった。

「お疲れさまでした」

 その声を聞いたのを最後に、将人は意識を失った。

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