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2 裏生徒会の目的

 「裏生徒会……?」


 口にしてみた言葉は、自分の声なのにどこか遠く感じた。目の前に立つ生徒たちは、全員が黒い制服に銀のバッジ。無言の圧を放ちながら、まるで選ばれし者のように整然と立ち並んでいる。


 「改めて、ようこそ。“選ばれた者”――天城 想真くん」


 眼鏡の生徒が、まるで知っているかのように俺の名前を呼ぶ。


 「いや、待ってくれ。そもそもここはどこなんだ? さっきまで図書室にいたはずで……あの本は?」


 「君が手にした本は、“賢者の書”。この学園に代々伝わる、特別な記録媒体だ。そしてその書に触れ、選ばれた者だけがこの場所――“深層図書館”に入ることを許される」


 「深層図書館……?」


 「この学校には、もう一つの図書館がある。普通の生徒が見ることのない、知識と記憶の集積所。そして、我々“裏生徒会”は、その守護者だ」


 言っている意味が、よくわからなかった。だが、彼らの目は本気だった。


 「俺は……何で選ばれたんだ? 何のために?」


 眼鏡の生徒はふっと微笑んだ。


 「君は、学力上位者であり、好奇心が強く、なおかつ“読む者”としての資質を持っていた。だが、それだけではない。我々が君に期待するのは――“記憶の迷宮”に挑む資質だ」


 「記憶の……迷宮?」


 「この学園には、長年にわたり隠された“実験”が存在する。我々はその痕跡を、この深層図書館に保存された記録を通して調査している。そしてその実験の背後にある“真実”に辿り着くため、必要なのが――君のような記憶探索者なんだよ」


 思わず、半歩後ずさった。彼らが言うことが現実なのか、それとも妄想なのか判断できなかった。


 「ちょっと待ってくれ。その“実験”って、何を指してる? それに、なんで生徒会がそんなことを――」


 「表の生徒会は知らない。我々“裏”は、学園創立当初から続く隠された任務を継承している。学園は表向き“学問の場”だが、裏では記憶、意識、想像力を操る実験の場として利用されてきた」


 「冗談、だろ……?」


 「君のように選ばれた者だけが、その“記録”にアクセスできる。そして、その中心にある“鍵”が――この深層図書館だ」


 説明があまりにも突飛で、理解が追いつかなかった。だが、直感的に、彼らが嘘を言っているとは思えなかった。むしろ……なぜか、ずっと前から、こんな出来事を予感していた気さえする。


 「君にまず試してもらいたいのは、ここだ」


 眼鏡の生徒が合図をすると、脇の壁がガコンと音を立てて開き、さらに奥へと続く階段が現れた。


 「“記録の迷宮”――そこには、過去に行われた実験の断片、かつて選ばれた者たちの記憶、そして……ある事件の記録が眠っている。君がそこに入り、特定の記憶を見つけ出せるかを試す」


 「記憶の中に……入るってことか?」


 「そうだ。ただし、記憶は曖昧で、断片的で、時には幻と変わらない。その中をさまようには、冷静さと観察力が必要だ。君には、それがある」


 まるで“推理小説の登場人物”になった気分だった。


 「君が挑戦する最初の迷宮には、一人の生徒の記憶が保存されている。彼は五年前、学園で謎の失踪を遂げた生徒。記録によれば、彼もまた“選ばれた者”だった」


 ぞくり、と背筋が冷えた。


 「その記憶の中で、何が起きたのかを確かめてほしい。我々が知りたいのは、彼が“なぜ戻らなかったのか”。そして、迷宮の奥に、何があるのか――」


 「……わかった。やってみるよ」


 気づけば、自分の口がそう答えていた。怖くないと言えば嘘だ。だが、それ以上に――興味があった。


 この“物語”の結末を、自分の目で確かめたかった。


 眼鏡の生徒は頷き、微笑んだ。


 「頼んだよ、天城 想真。君は、今この学園で、唯一“扉を開ける者”なのだから」


 扉の向こうから、かすかな風が吹いた。


 その風に混じって、誰かの声が聞こえた気がした。


 ――たすけて。


 俺は、息をのんで、階段を踏み出した。


 


 その瞬間、背後から声がした。


 「お、おい、ソーマ!? おまっ、どこ行こうとしてんだよ!」


 「うわ、こっちの世界こわっ!? なにその階段! おばけ出そう!」


 ――蓮と結月、だ。


 振り返ると、二人もこの空間に来ていた。俺があの本を触った時、一緒に巻き込まれていたのか。


 「お前ら、なんでここに……!」


 「それはこっちのセリフだよ!」


 「でも、しょうがないよね、幼なじみだもん」


 蓮と結月。俺にとって、大切な二人。そしてたぶん、これからの迷宮に――必要な存在。


 「仕方ないな。じゃあ、三人で行こう。記憶の迷宮へ」


 「おー! なんかゲームみたいでテンション上がる!」


 「ふ、不安しかないんだが……」


 笑いながら階段を降りる俺たちの背に、再び、あの声が囁いた。


 ――ようこそ、記憶の迷宮へ。


 その声の主が、味方か敵かもわからないまま、俺たちは“物語”の奥へと足を踏み入れた――。



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