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魔法使いに救われて  作者: スナ
第一章 星都炎上
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回帰する未来


 

 心のどこかでアルトルに憧れていた。

 亜人たちの尊敬を集めるその存在に憧れていた。

 誰かとの繋がりを持たない自分にとって、その在り方がなにより暖かく心地よかった。

 誰に言われるでもなく代わりになろうとした、そうでなくても人はこの身をアルトルとして認識する。


 自分ではアルトルになれない。

 たとえそうなり得たとしても自分ではそれになれないのだと理解した。

 今まざまざと見せつけられた非情さに自分では耐えられない。


「――――人間の行い、か。」


 テルの顔がどこか少し寂しそうに見えた。


「あ、いや……今のは…………」


 そんな顔をさせるつもりではなかった。

 感情的になったとはいえ言っていいことではない。


「まぁ、そうだな。どっちかというと俺の考え方は亜人(あいつら)よりだしな。」


 亜人と人間、その存在を隔てているつもりはなかった。

 少なくとも目覚めたばかりのナナシという人間はそうでなかったはずだ。


「なにはともあれ少し外に出ようぜナナシ。少しそいつにも状況を整理させる時間が必要だろ。」


 テルに言われ後ろを見ると少年が目を見開いて固まっていた。

 それもそうだ。未来が見えるとはいえ見ていないとなればこの状況は少年にとって予想もできなかった展開だろう。


 

 外に出ると迷宮の変わらない姿がそこにある。


「あの……テル、自分は――――」

「ん?別に、怒っちゃいねぇよ。こうなることも承知の上で連れてきたつもりだ。」


 テルの言葉に嘘はない。

 事実テルは自分がアルトルのことを知る前にここに連れてこようとしていた。

 展開は違っていただろうが答えは変わらなかっただろう。

 自分はアルトルのやり方もテルのやり方も認められない。


「それでいい。お前はそれでいいんだよ。だからこそアステラと対等に話せるだろ。」

「アステラ?」

「あいつの名前だ。見ての通り臆病でまともに人と関わったこともねぇやつだ。だけどお前のその姿なら少しは会話もできるだろうよ。」

「なぜ、自分をあの少年と関わろうとさせる。自分は、その……アルトルではないのだろ?」

「俺はそう考えてる。でもアステラはどうだろうな?」

「どうかって……今彼自身が――――」

「あいつは嘘をついている。お前と会わせてようやく確信ができた。あいつの見た未来にお前がいなかったのならどうしてお前を見たあいつは兄と呼んだ?あいつ自身お前のことがアルトルかどうかわかっちゃいねぇ。」

「それは……でも、普通はわかるだろ?家族、なんだし…………」

「どうだかな。少なくとも俺がアルトルのやつと出会ってからいなくなるまでアステラの存在を知ることはなかった。」

「なっ!?」

「いいか。あいつは何かを隠している。それもアルトルに関わる何かだ。それを知らなきゃなにも始まらねぇ。俺は少し上の様子を見てくる。さっきから妙に静かだ、何か状況に変化があったのかもしれねぇ。」


 そう言ってテルは上層を目指してその場を後にした。


「静かって…………こんなとこずっと静かだろ。」


 一先ず追手はかからなくなったということだろうか。

 地図などはないと言っていたし捜索を諦めて引き返したのかもしれない。

 この場が身を隠すのに適しているというのは同意できるがやはりテル達の考えには賛同できなかった。


 でもどうにもできない現状はある。

 あの子をここから連れ出すにもこの国の窮状を思えばそれは不可能だ。



 外にいるのも手持無沙汰で部屋に戻った。

 この場所に八年、それであの本の量か。

 退屈しないようにとテルが持ち込んだのだろうか。

 この場所にこれるものがテルだけなのだとすると嫌いと言いつつも面倒はしっかりと見ていたのだろう。


 そういえば面と向かって嫌いと言われた割にはテルの声を聞くと安心していた様子だった。


「それは……付き合いも長いだろうしそんな軽口も叩ける仲になるか。」


 先ほどは少し言い過ぎたかと反省する。


 ――――これから先どうなるのだろうか。

 ようやく答えが見つかったと思った矢先にこれだ。

 テルが自分をアルトルにしたくないことは理解できた。だがテルがどう思おうが周りはこの身をアルトルと見てくる。

 少なくとも自分はこの国では生きていけない。この現状をどうにかしなければ。

 そういった意味で自分はあの少年と同じ立場にいるのかもしれない。


 …………そういえばテルも言っていた。

 自分はあの少年と似ているのだと。

 テルは自分たちの何を見てそう思ったのだろうか。



 扉を開けると少年はまた同じようにぼろ布にくるまり震えていた。


「あ……すまない。戸を叩くべきだったな。」

「ナ、ナナシさん?よ、よかった……。あの、テルさんは?」

「ああ、上の様子を見てくるって。……君の兄の面影を持つ自分といるのは辛いかもしれないが少し居かせてもらってもいいか?」

「は、はい!ど、どうぞ!」


 少年の反応を見ている限りでは辛いということもないようだ。

 本当にこの少年がなにか隠し事をしているというのだろうか。

 話をする、つまりは探れということなのだろう。

 何を聞きだせばいいのかもわからないというのに無茶なことを言う。


「あ、あの!ナナシさん、は……どうしてテルさんに兄さんと疑われてんですか?」

「あー、えっと……実は自分には記憶がなくてな。……それでこの見た目だろ?だから君の兄、アルトルじゃないかって皆に疑われてる最中なんだ。」

「そ、そうなんですか。……す、すみません。変なこと聞いて。」

「いや、いいさ。」

「…………。」

「…………。」


 会話が続かない。何を聞けばいいのかもわからない。

 それはそうだ。

 自分には記憶がない。他の国はおろかこの国のことだってよくは知らない。

 まだ目覚めてから数日程度だ。提供できる話も何もない。

 唯一会話になるだろうアルトルの話も綱の橋を渡るような危ないものだ。

 気になることはある。だがそれを話題に上げるのもアルトルのことに触れそうで気が進まない。


「や、やっぱり嫌……ですよね。」

「えっ?」

「ぼ、僕みたいな精霊憑きと一緒にいるなんて。」


 正しく気になることはそれだった。

 精霊に憑かれた者というのがどういう存在なのか。そもそも精霊というのがよくわかっていなかった。


「その……精霊憑きというものを知らないから嫌とかはないのだが……精霊憑きのこと聞いてもいいのか?」


 自らを精霊憑きだと名乗った少年、それを聞いた男の反応に驚いたところを見るにこの世界では誰もが知っていて当然の事柄なのだろう。

 それも知らせるべきではない、秘密にしておかなければならない事柄ではないかと予想する。


「あ、だ……大丈夫、です。ナナシさんに、なら。」

「そう、か。まぁもう聞いてしまっているからな。」

「そう、ですね。テ、テルさんが言っていた通り、精霊憑きは精霊に憑かれた人のことを意味します。」

「その、まず精霊というのはなんなんだ?」

「わ、わかりません。精霊を見たという人はいないので……亜人という説を唱える方もいますがまず生命なのかどうかも、過去に大罪を犯し神に存在を奪われたと言う方もいます。」

「なんというか……どちらも……否定的だな。」

「は、はい。精霊憑きはこの世界では嫌われ者です。ひ、人によっては自分の子供が精霊憑きだと知るとそのまま……」

「……いわなくていいよ。」


 通りであの反応だ。兄の面影を重ねたとはいえ見ず知らずの人間に話す内容ではない。

 亜人、精霊憑き、それに魔法使い。人間至上を謳うこの世界ではどれも認められない存在なのだろう。

 やはり悪いことを聞いてしまった気がする。


「なにかもっと明るい話題は…………」

「あ、あの!ナナシ、さんは……物語は好き、ですか?」


 気を使わせてしまったのか少年は辺りに散らばった本をかき集め始めた。


「物語?というと童話とかだろうか?」

「で、です!ぼ、僕物語とかが好きで……ここですることもないので本ばかり読んでて、あ、あの!」

「落ち着いてでいいよ。そう、だな……好きかどうかはわからないが……興味はある。いったいどんなものがあるんだ?」

「ぼ、僕は英雄譚なんかが好きで!聖剣伝説などは一番のお気に入りで!」

「だったらその話が聞いてみたいな。」

「は、はい!」


 それは一人の少年が主人公の物語だった。


 ――――空を影が覆った時代があった。

 ――――日が姿を隠し、大地の草木は息を絶やした。

 ――――大陸の半分を魔物が埋め尽くし、闇が世界を覆おうとしていた時代。

 ――――幾年の月日が過ぎ、嘆きが怨嗟する世界にはもはや希望を口にするものは誰もいなかった。

 ――――そんな世界で天から射した光の先にそれは生まれ落ちた。

 ――――一振りの輝く剣を手に少年は言った。

 ――――我は神の使いだと。魔物を屠る力持つだと。

 ――――少年の言葉は事実だった。

 ――――剣が振るわれると魔物は体を引き裂かれ、その軍勢は瞬く間に灰燼に帰した。

 ――――人々はその偉業に希望と奇跡を口にし、その行いを称え称賛した。

 ――――いつしかその剣の名は聖剣と呼ばれ、いつからかその少年は聖騎士と呼ばれた。

 ――――魔物は姿を消した。だがその脅威が完全に去ったわけではない。

 ――――されど恐れることはない。少年はもういないがその守護は永遠にそこにある。


「――――で、です。」

「これが……聖剣伝説、か。」

「お、面白くありませんでした……か?」

「どう、だろうな……。」


 物語的にはどこにでもありそうなものであった。

 ただ所々気になるところがあった。

 魔物という存在は自分が知る限りでは亜人たちのことを指す言葉だった。

 ジルの話でも人間と亜人は長く戦争をしていたという話だったし。おそらくこれはそれを伝説として描いた話なのだろう。


「これってもしかして実話……なのか?」

「きょ、教会ではこれを聖歌として扱われているのでその……実話と言われる方も多いようです。」

「教会、ね。」


 その教会が兄のいなくなる現況を作ったかもしれないということをこの少年はわかっているのだろうか。


「教会はお嫌いですか?」

「まぁ……そうだな。」

「ふふ、テルさんと一緒ですね。」

「……そういう君はどうなんだ?魔物が……いなくなればいいと思ってるのか?」

「どう……でしょう。魔物の方たちと会ったことはないので……。」


 どうやら少年は亜人とはあったことが無い様子だった。

 本当にこの部屋でずっと過ごしてきたのか、外の様子もまるで知らないのかもしれない。

 外に興味がないのかこの閉じた世界で完結している。


 アルトルの弟だというのならこの少年はこの国の次の王様だということになる。

 表に出れない事情があるにせよ亜人の窮状を思えば言いたいこともあった。

 ……だがそれはこの少年に言うことでは、ましてやナナシという人間が言うことでもない。

 その立場に同情と嫉妬を覚えた。


「で、でも……会ってみたいとは思います。魔物の方にも、亜人の方たちにも……ぼ、僕は勇気が出なくて全然ですけどいつか……この部屋から飛び出して世界を、、、。」

「魔物と亜人って……いや、それは……」

「や、やっぱり無理……ですよね。で、でも兄さんと約束したんです!いつか世界を見に行こうって。そ、その時は亜人も精霊憑きも、それにま、魔法使いも誰もが平等に話し合いができる世界になるって。」

「ま……待ってくれ。それを……アルトルが話したと!?」

「え、あ、はい。に、兄さんがもうすぐそうなるって。だから僕はここで兄さんの帰りを待ち続けていたんです。」


 テルの感じていた違和感を自分も感じ始めていた。

 アルトルの生還を予言したのはこの少年だ。テルもそれを信じている節がある。

 だからこそアルトルと容姿が似た自分がアルトルと間違えられるなんて事態が起こっている。

 そう、その予言をしたのが未来視の精霊憑きであるこの少年のはずだ。

 まるで今の話ではアルトルがその未来を予言したような――――


 なにかを――――前提から間違っていたような気がする。

 世界が滅ぶと言ったのは誰だ?テルがアルトルだと言っていた。精霊憑きは自ら名乗ることはない。アルトルは知っていたのか?少年はここにいた。アルトルがいなくなるまで。その時テルと出会った。ならテルがアルトルの生還を知ったのは少年から。アルトルは少年から?

 いいや、そもそもの話だ。どうしてアルトルはこの少年と出会った。この場所で。


 少年の口ぶりではまるでこの部屋から出たことが無いようだった。

 外の世界への憧れを口にする少年はきっと外の世界を知らない。


「あ……アルトルが、言ったのか……自身が、帰ってくると。」

「は、はい。そうです、けど……?」


 ここにあったものは未来だ。それも未だ見ぬ未来だ。

 大遠征への足音はもうそこまで迫っている。

 亜人たちに残された時間はあとわずか。


 この物語は未だ、始まってすらいない。




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