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魔法使いに救われて  作者: スナ
序章
1/20

世界の終わりから



 ――――空を見ていた。


 どうして空なんかを見上げているのか。

 ……それは自分が地面に寝転がっているから。

 どうしてこんなところで倒れているのか。

 ……それがどうしてかわからない。


 どうしていいかもわからずただ茫然と空を見つめるしかなかった。

 眠っていたのだろうか、今までの自分の動向がわからない。


 この状況をどう表現したものだろうか……ただ自分が窮地に立たされているのは確かなようだ。


 だというのに妙に落ち着いているのは目の前の緊迫した状況が原因だろうか。


 首に当たる冷えた感触。初めての感触にそれが何かは見るまではわからなかった。

 まず目に入ったのは自分の上に馬乗りになる少女の姿。そしてその少女が手に持った短剣が首に押し付けられていた。


 さすがにその状況下で落ち着いていることはできなかった。

 起き上がろうと手を動かそうとした瞬間に今度は足で動きを封じられる。


「動くな。」


 何も覚えていないなんてことは些細な問題のようだ。

 どうしてかはわからないが自分はこの少女に拘束されているらしい。


「お前、どうやってここまで来た?」


 どうして、か。そんなこと聞きたいのはこちらの方だ。

 ありのままを話すべき……なのだろうが、信じてもらえるだろうか。

 いいや、そんなこと関係ない。信じてもらえなくても話すしかないのだ、今はそういう状況だ。


「それには……答えられない。すまないが何も覚えていないんだ。」

「はぁ?」


 少女は一瞬、驚いた表情を見せてから眉をひそめた。

 おかしなものでも見るかのような視線が痛い。怪訝な表情を浮かべながらも少女の心情に確かに苛立ちが見える。

 何か選択を間違ってしまっただろうか。でもその怒りを向けられるのは理不尽にも思える。


 もう自分にできることが何もなくなったせいか妙に落ち着いてきた。

 背を撫でる草がこそばゆい、風が吹くと肌寒くなる。身震いすると手足がたった今感覚を取り戻したかのように痺れた。

 何もかも新鮮な感覚で本当に今この場で生まれたかのようだった。


「……まぁ、そういうこともあるか。」


 少女は喉元に押し付けた短剣を腰の鞘にしまった。

 どういう風の吹き回しか拘束を解いた少女はそのまま立ち上がり一歩下がって倒れた男を見つめる。


「――――これは……信じてもらえた、ということでいいのだろうか?」

「信じてはいねぇよ。でもお前が言っていることを嘘だとも思わねぇ。まぁ、真偽はどうにせよお前が俺をどうこうできるとも思わねぇからよ。」

「……それは……なによりで。」


 生き物として酷く下に見られたような気がするが一先ず危機は去るのだ、今はそれでいいということにしよう。

 だが、実のところ少女の言っていることも本当のことなのかもしれない。

 短剣ありきとはいえ押さえつけてくる少女の力は相当な力だった。華奢なその体のどこからそんな力が出ているのか全く不思議だ。


 態度は不遜、ただそれに足る強さが少女にはあった。緑銀の髪に赤い瞳、小さな体躯に似つかわしくない美貌。

 どこか人間離れした在り方をする少女に少しの畏怖を抱いた。

 なんたってその少女が鋭い目つきで睨みつけてくるのだから怯みもする。


「……あの、まだ何か?」


 様子を伺うように少女に問うた。


「現実を見ないようにしているのか、それともただの間抜けか。まぁ、どちらにせよ呆れていただけだ。こんなやつに警戒していたなんて、と……俺も勘が鈍っちまったかなぁ。」


 少女はため息をつきながら呟く。

 何を言っているのかわからないといった様子の男に少女は呆れた視線で答えを示す。

 

「――――っは?」


 少女に指された先に視線を下ろしていく。

 ……呆れられて当然だ。記憶もない、それどころか身に何も着けていないのだから。

 

「なぁっ!?」


 驚き後退る男の後頭部を少女は押さえ、勢いよく前方に投げ飛ばす。

 前に二、三度前転し男は顔から地面に倒れ込んだ。

 突然の出来事に男は呆気にとられるしかなかった。

 大の男を投げ飛ばす膂力、間を詰める速さ、自分が誰かも不明確だがそれと同様にこの少女も大概だ。


「なっ、何をするんだ!」

「助けてやった恩人にその態度かぁ?いい度胸してるじゃぁねぇか。」

「助けたって――――」


 言葉を出しかけてそれの存在にようやく気付いた。


 少女の立つ後ろにそれはあった。

 風が吹くとそれはゆっくりと揺らめき、黒い靄が何層にも折り重なり壁を作った。

 天に空高く、地には果てまで、光も吸い込む終わりが見えない壁がそこにあった。まるでここで世界が終わっている様に。

 

「――――いったい、なんなのだ……これは……」

「こいつは黒壁。なにかって聞かれてもそれには答えられないな。これが何なのか、いったいどうしてここにあるのか誰も知らねぇ。ただわかることは一つ…これに触れたら最後、この暗闇の中に吸い込まれて二度と戻ってこれねぇってことだけだ。」

「戻ってこられない?」

「そ、だからこれが何なのか誰も知らない。過去こいつのことを調べようと先へ進んだ奴は誰も帰ってこなかった。」


 黒壁に惹かれるのもわかる気がする。何も知らなければ興味から触れてしまっていたかもしれない。

 そう思えばここでこの少女と出会えたことは幸運だった。


「どうもその反応を見るに何も覚えていないってのも嘘でもないらしいな。」

「信じてもらえるのはありがたいが……そんなに有名なものなのか?」

「まぁな。なんでもこいつは大陸の端っこからでも見えるって話だ、知らねぇなんて奴はそうはいねぇよ。」


 無知ゆえに信じてもらえたということらしい。

 大陸の端からでも黒壁は見える、そしてこの先へは行けない。

 それが本当なのだとしたらここも大陸の端ということになるのだろう。


 いったいどうして自分がそんなところにいるというのか。

 少女が疑うのも無理はない。


「君は……どうしてこんなところにいるんだ?」

「それを聞きてぇのはこっちの方だったんだがな。……ここから西に行けば村がある。そこを通らなきゃここまで来ることはできねぇはずなんだが、おかしな気配がしたんで俺が様子を見に来た。」

「村、か。」


 話から察するにこの少女もその村の住人らしい。

 叶うなら一晩でもその村の世話になりたいところだが……服も着ていない、さらには記憶もない人間を受け入れてくれるだろうか。

 

「そんな顔すんなって、心配しなくても連れてってやるよ。」

「そうか……んっ?案内してくれるのか?」

「ああ。なんだよ、置いていかれるとでも思ってたのか?」

「そう……ではないのだが……」


 まさか助けてもらえるとは思っていなかったので少女の申し出には素直に驚いた。

 事情を知る前まではあんなに警戒していた様子だったのに、どういう心境の変化があったというのか。

 同情、心配、そのどれとも違う様子が少女からは感じられた。それがわからす少女に不審を抱く。


「んなおかしなことかよ。目の前に困ってるやつがいる、それを助けようってんだ。善行ってやつだろ?褒められはすれそんな疑うようなことでもねぇだろ。」


 男の心を見透かしたように少女は言った。

 怒らせてしまっただろうか、少女の顔はどこか不満気だった。


「いい……のか?こんな不審な人間を村に引き入れて……。」

「だったらどこに行こうってんだ、お前。この先あるのはその村だけだ、まさかその恰好でこの辺りをうろつくつもりか?」

「それは……」

「良いも悪いもない、お前を村まで連れていく、それは決定事項だ。ったく、救われるってぇのに何がそんなに不満かよ。」

「いや……不満ってわけじゃないんだ。だが――――」

 

 少女は有無を言わせないと言った様子で腰につけていた外套を投げてよこす。


「あーーーー!面っ倒くせぇ!いいか!?お前を真人間にしてやるってんだ!この幸運に感謝して黙ってついてきやがれ!」


 見渡すばかり一面の草原、確かに目の前の少女に頼るほかはないのかもしれない。

 渡された外套を腰に巻いて立ち上がる。

 足で踏む草の感触、手足に痺れは取れていた。血が通うように、神経が目を覚ますように感覚を取り戻した部位から温かみを取り戻す。


 差し伸べられた手を前にいいのか、とは言えなかった。

 これは幸運として受け入れなければならない。たとえそれに納得していないとしても。生きるにはそうしなければならない。

 少女が言うように不満げな顔をしているのだろう。


「一つだけ……自分はこの恩にどう報いればいい?」

「どうしてそうこだわるんだよ?」

「わからない……ただ、理由もなく救われることを自分は容認できない。」


 きっと過去の自分がそうであったように…どんな人間、どんな過去があったかは知らない。

 忘れたものの取り返し方を知りはしない、ただそれを消すことはしたくなかった。


「わかったよ。……っつってもな、お前にしてほしいことなんかねぇんだけどよ。」

「なんでもいいんだ。本当に些細なことでも。」

「……なぁ、それ今じゃなくてもいいか?構わないんだったら一つ、いつになるかわからないが俺の願いを叶えて欲しい。」

「君の願い?」

「大したもんじゃねぇんだがよ、それでも構わねぇか?」

「ああ、もちろんだ。」


 少女の手を握り交渉は成立した。


「これは契約だ。俺はお前を助ける、お前は俺の願いを聞く。それでいいんだな?」

「ああ、構わない。」

「そうか、ならお前は俺の願いを聞くまで俺の傍から離れらんねぇな。」

「……は?」

「これはそういう契約だろ?これからよろしくな、俺の名前はテルだ。お前は……って、それも忘れてるんだったな。と、なるとやることは山積みだな。まずはお前の名前を決めきゃな。」

「君が決めるのか?」

「君じゃなくてテルだ、お前もそう呼べ。それにそうは言うけどよ……お前、自分で名前を考えるのか?」


 できればそうしたいところだがそうするための知識もどこかに置き去りにしてしまった。

 おかしな名前を付けない自信はない。となると、不安ではあるが少女に任せるほかはない。


「できるだけまともな名前を付けてくれると助かる。」

「任せろって、変な名前を付けたら隣にいる俺が恥ずかしいじゃねぇか。」


 黒壁を背に歩き出したテルの後ろについて歩く。

 一面の草原地帯、辺りに民家などは見られない。世界の端から二人歩き始める。


「村までどれくらいあるんだ?」

「しばらく歩くことになるな。まぁ日が落ちる前には着くだろうよ。……森に入ることになるから――――」


 そう言ってテルは男の足を見た。

 衣服も何も身に着けていなかったので当然足も裸足だ。


「このくらい平気だ。」

「んなわけあるかよ、ちょっと待ってろ。」


 テルは服の裾を裂きそれを中敷きに、草を千切ると編みはじめ即席の靴を作り出した。


「器用なんだな。」

「別に、生きるために覚えたことの一つだ。俺のことよりお前のこと教えろよ、記憶がないってどんなもんなんだ、どれくらい覚えていない?」

「そうだな……はっきり言って何も覚えていない。自分がどうしてここにいるのか……家族、友人なんかがいたのか。……正直、テルがいなかったらどうなっていたかわからない。」

「そうか。お前は……記憶を取り戻したいと思うのか?」

「それは……どう、だろうな。自分が何者であったか知りたい気持ちはある。だが……怖くもある。」


 自分がどうしてこんな何もない場所に居たのか、何も持たずここで目を覚ましたのか。

 ……いいや、それ以上に自分に家族がいる、その可能性があることが恐ろしい。

 もしも記憶もない状態でそれに出会い、どう振舞えばいいかが思い当たらない。

 自分の身の危険より誰かに失望されることが何より恐ろしいと感じる自分が居る。


「自分の過去が怖いってんならいいじゃねぇか、そのまま忘れたまま好きに生きればいい。」

「はは……そう思えれば苦労はないだろうな。……自分の知らない過去が重荷になっているのは確かだがそれをおいそれと捨てて生きれる人でなしにはなりたくはない、かな。」

「人でなしとは言ってくれるじゃぁねぇか。」

「あっ……いや、別に君の考えを悪く言うつもりがあったわけでは――――」

「わかってるっつうの、今のは自分でも無神経だったと思ってる。悪かったよ。」


 意外な反応だと感じた。

 別に謝られるようなことではない、テルの言うことも正しい選択の一つだ。

 テルに対する認識を改めなければならないかもしれない。

 

 横暴で、理不尽で、気丈で――――少女らしからぬ在り方はテルの一面にすぎないのだろう。

 その本質は優しさからくるものなのかもしれない。テルが自分を救うということ、それ自体を疑ってはいない。

 ただあまりにも自分に都合がよすぎることばかりでどこか信用を置けずにいた。

 ――――が、どうも自分の思い違いのようだ。自分が幸運なのではなく、テルが平等に接してくれているのだ。

 この先、自分が何者になろうともこの結ばれた縁が変わらないことだけはわかった。


 テルの傍にいる限り自分が道を踏み外すことはないのだと確信する。


「んだよ、気味の悪ぃ顔しやがって。人が謝るところがそんなにおかしいかよ。」

「ああ……いや、違うんだ。……テルに出会えてよかったと思ってさ。」


 平等を是とする少女に不平等を非する男が救われた。

 それは幸運なのではないと安心する。


「おかしな奴。……決めたよ、お前の名前。お前の名前は今日からナナシだ。」

「ナナシ?……もしかしなくても名無しってことか?」

「ああ、そうだぜ。へんてこなお前にぴったりの名前だろ。」


 へんてこ、か。言い方に異論はあるが案外理にかなった名前かもしれない。

 今の自分の状態を説明するのには最適だし、何より偽名のような点が気に入った。

 変に思い入れが入らなそうな分、もしも記憶が戻った時にあと腐れなく名前を変えることができる。


「わかった、今日から自分はナナシだ。」

「……まじか、絶対断られると思ってのによ。……まぁ、お前がいいならいいけどよ。」



 呆れた表情を見せるテル、やはりその反応は理不尽だった。

 だけれどそれにももう慣れた。これからは早々テルに振り回されることもないだろう。

 先の契約の抜け穴に対しての少しの対抗、気を強く堂々とテルの考えた名前を了承した。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 道中テルとの会話は少し減っていた。

 呆れて会話が減ったという感じではない、時折前を歩くテルと間が空いた。

 テルは時折振り返るがその時に会話はなかった。しっかりとついてきているかの確認をしているのだろう。


 自分が遅れているのかテルが早くなっているのか、体感ではわからないがテルが歩調を合わせているのは確かだ。

 想定より村に着くのが遅くなりそうだということなのかもしれない。

 テルの話では日が暮れる前ということだったが、それに間に合わなくなっているということだろうか。

 辺りを見回しても未だに一面の草原地帯、民家どころか人の姿も見られない。


「あとどれくらいで村に着くんだ?」

「村にはまだつかねぇな。どうした、疲れたか?」

「いいや、大丈夫だ。」


 不思議と疲労は感じなかった。それどころか時間が経つにつれ体の気怠さとれていく。

 戸惑いが伝わったのかテルに顔を覗き込まれる。


「どうやら嘘はついてないみたいだな。さっきより顔色は良いようだし。」

「そう、なのか?……緊張がほぐれたおかげだろうか。」

「だったらいいけどよ。お前の調子が悪いなら野宿でもするかと考えてたからよ、その心配が無さそうで何よりだ。」

「こんなところで、か?」

「そ。こんなところで、寒空の下焚火もなしに仲良くお寝んねだ。」

「……考えたくもないな。」


 この辺りに獣などはいないのだろうがさすがにこの気候で野宿がまずいのは自分でもわかる。

 

「安心しろよ、そうはならねぇように歩いているつもりだ。そろそろ目印も見えてくるはずだ。」

「目印?村ではなく?」

「一目見ればお前もわかるよ。」

「そうなのか?」


 もう随分と長く歩いている、振り返ると黒壁が後ろに遠く見える。


「ほら、見えたぞ。」


 そう言ってテルが指を指した先には一本の木が見えた。

 その違和感に気付いたのは少し歩いて森があることを認識したころだろう。


「ここを抜けるのか?」

「抜ける、っつうか村はこの中だ。」


 辺り一面に広がる森、目の前にするとただの木だと思っていたそれの大きさがよくわかる。

 黒壁と比べても引けを取らないほど大きな大樹を抱く森林地帯。


「……なぁ、一つ聞いていいか?」

「なんだ?」

「この中に村があるって……村の人たちはどんな人間なんだ?」

「そうだな……気のいい奴らではあるよ。まぁ、お前のことも歓迎してくれるだろうよ。」


 一抹の不安はあるがここまで来てしまった以上もう引き返すことはできない。日は傾き始め辺りを夕焼け色に染めた。

 テルと出会った、そのときからこの小さな少女に運命を握られてしまっていたのではないかと今更ながらに思う。

 光も通しそうにない森への一歩を踏み出した。



 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 森の中は想像以上に暗かった。外の肌寒さとはうってかわり湿るような暑さを孕む。

 虫の鳴く音、時折揺れる草木、その不気味さが背を凍らせる。

 森の暑さと醸し出す雰囲気が生む寒気、相対するそれが奇妙に調和していた。


 風が吹くと草木が揺れた。

 森の木々の合間から月明かりが見えた。

 森の外はすでに日が暮れているのだろう。


「んな脅えんなよ、この辺りで人を襲うような獣なんか出やしねぇよ。」

「それはそうなんだろうが……」


 村がある以上そんな獣がいるとは思っていない。

 それはそうとしてこんな場所で暮らす人間がまともだとは思えなかった。


 あの大樹といえ村があるというのならこの森は相当な大きさなのだろう。

 資材には困らないだろうがなぜ、という疑問が付きまとう。

 

 あの草原でもよかったはずだ。わざわざ森の中でなくてもよかったはずだ。

 なぜか、と考えるたびに嫌な予感が付きまとう。

 そういうものは大体当たるものだと記憶がなくとも知っている。



 

 何者かが作ったような気の柵、それが囲うように目の前に見えた。

 テルの言っていた村が目の前にあるというのに落ち着けずにいた。


 風がなくとも草木は揺れた。

 何者かが走ったように近くの草が不自然に揺れる。

 森のだす騒がしさとは全く別の騒々しさを前に動きを止めるしかなかった。


「……まぁ、こうなるよな。」

「テル?」


 何かを悟ったように諦めるテルの顔を見て嫌な予感が的中したのだと思った。

 ――――実際、目にしたのは想定を超える……予想もしていなかったものだった。


 



 松明が灯される。

 それは二人を照らすために、そして二人に姿を見せるように照らされた。

 彼らにはそれを必要としない、持って備わったのであろう光る目がついている。


 暗闇から現れたそれを何と表現しただろうか。

 暗闇に光る目、鋭利な牙や爪、体を全身毛に覆われそれが自分たちと同じように二足歩行で近づいてくる。

 まるで獣と人間が合わさったかのようなそのいで立ちのそれは自分たちと同じように言葉を話した。

 睨むような瞳で、怒りの唸りを上げて一言だけ――――


 ――――「どうして」と男を目にして口を開く。



 

 


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