Bouquet of black lilies
新井 優希
二十六歳の会社員。小さい頃から警察官に憧れており、警察官になろうとしたが、体力的な問題面も多く、警察学校を退学した。
佐久間 一樹
二十六歳の元会社員。元優希の同期だが、幼なじみの阿部 颯太の退学の数日後に警察学校を退学し、姿を消したとされていた。
林田 伊織
二十六歳の警察官。優希の高校からの友人で、優希かわ退学したあとも警察学校に残り、卒業して警察官になった。
鈴木 陽
二十四歳の会社員。優希の後輩。優希の事をとても尊敬しているが、花澤の事を優希よりも尊敬している。
花澤 凛
二十六歳の会社員。優希の先輩。仕事の出来も良く、部長や後輩、同期からもとても信頼が深い。
阿部 颯太
佐久間の幼なじみ。勉強がとても出来、優等生。そんな彼を妬む人も多々いる。警察学校を途中で退学。理由は不明。その後一切の連絡も付かない。
深夜二時
今日もまた誰かにつけられている感覚がする。
最近は、連続殺人事件が起きているから気をつけろと部長が言っていた。コツコツと後ろの音が響く度に心拍数が上がっていく。息を切らしながら革靴で走るが運動靴では無いため、固いし重く、くるぶしに痛みが伝わり走りにくさを実感する。
ガクガクと震える足で走っていると、目の前から人が歩いてくるのが見える。俺は必死にその人に助けを求めようと全力で走った。
『あのっ、はぁ、助けてください』
「何があったんです、か…?ぇ、新井じゃね?」
『え、その声、林田?』
懐かしの林田の声が俺の爆発的に上がった心拍数を下げてくれる。声を聞いた瞬間に安心したのか、自然と涙がポロポロ落ちてきた。
「前みたいに伊織って呼んでくれ、ってそれどころじゃなそうだな、大丈夫か?落ち着け、何んで泣いてんだ、泣きやめって、家まで送るからさ」
安心しても尚、後ろからの足音を思い出し怖がる俺を落ち着かせながら、ここから歩いて一時間近くの自宅まで送り届けてくれた。
気づいた時にはもう後ろの足音は消えていた
深夜三時
泣きながら歩く俺の腰に手を回し優しくなだめられられながら俺は家に着いた。玄関で泣き崩れる俺に寄り添いながら伊織は俺の事情を聞くと言うと言い聞かせてくれた。
伊織とは高校から大学までの付き合いで同じ学校に通い、お互い朝まで飲み明かした仲だ。伊織と意気投合したのはお互いが警察官になりたいと同じ夢を持っていたからだ。今、伊織は理想の警察官になっているが、俺はそれに比べ体力もなかったので警察官の夢を諦め、学校を退学して今はただのサラリーマンだ。
警察官を目指していたのだから自分で対処できるかどうかと言われたらまた別の話になる。勘違いではなく、本当に付けられているのならば、気味が悪いため警察の伊織に相談するのが一番だろう。
「いつから?」
『二ヶ月前ぐらいから』
「そっか。姿見たりとかさ、他に特徴あったりする?」
『無い…ごめんな』
「うーん。一応こっちでも動くから」
「でも、家の鍵とか厳重にしたり。会社にその事はちゃんと伝えろよ?」
『うん。』
その後は他愛もない話を缶ビールを飲みながらしていたはずなのに。突然伊織が何かを思い出したかのように顔が強ばった。
『どうした?伊織?』
「新井、聞いても驚くなよ」
俺が『なになに?』と興味ありげに聞く間もなく伊織は口を開いた。
「一年半前ぐらいに"阿部"自殺した姿で発見された」
『え…』
深夜三時三十分
家の空間には不穏な空気が漂った。
阿部くんは、とにかく勉強出来て体力もそれなりにはあって警察官有力候補のトップで、子供から老人に対しても優しく丁寧に対応するような人で自殺するような子ではない。
でも、優秀だから多くの人から虐められていた。優秀ってだけで虐めは日に日に増していったことは学校全体が知っていたが、俺を含め、教師や生徒も消して虐めを止めることはしなかった。
『伊織、それ本当?なにかの間違いじゃ、』
「完全にあれは阿部だった」
衝撃で溢れ出す涙を止められずに俺は泣き続けた。
午前九時
気がつけばもう朝で、俺はベットの上で寝ていた。泣き疲れて眠ってしまったんだろう。机は綺麗に片付けられており、急いで書かれたかのようななぶりで書かれている置き手紙が置いてあった。
「新井。ショックを与えたことごめんな。でも、いづれ話さなきゃと思った。ストーカーの件はこっちでも何とかするから。安心して」
置き手紙を読み終えて、再び込み上げてくる涙を押し殺し、今日が仕事かを確認が休日だったため、仕事は休みだった。休日出なければとっくに遅刻だったが休日だったため安堵の息を吐いた途端一件の通知が届く。
「今日のお昼頃から仕事出ることできますか?」
急いで予定を確認するが用事があった訳では無かったため、『分かりました。すぐ行きます。』と、返信をする。
仕事の騒ぎが収まったのは夜の十二時。
突然花澤先輩が俺の肩を微笑みながら叩き、
「仕事お疲れ様。もう帰っていいよ」
と、言ってくれた。
『あ、ありがとうございます!』
と、返事して急いで会社を出る準備を始める。そんな私を見て、最近入ってきた陽くんが頬を拗ねるように膨らます。
「先輩もう帰るの〜。俺寂しいねん!」
『陽くんは頑張ってね!』
俺は支度を終え、家に帰ったら何をしようかなと、想像をふくらませながら会社を出た。
深夜零時
そろそろ自宅に着くという時、後ろから視線を感じた。最初は気にし過ぎだと思っていたが、大雨の中で長靴が擦れる音と共に水を弾く音が聞こえる。普通は気にしないはずなのに、胸騒ぎが激しくなり、その足音はどんどん近ずいて来る事に恐怖を覚え、俺が気づけば走っていた
怖い。誰か、助けて。
俺はバックから、スマホを取り出し伊織に電話しようとした途端。
背中に痛みと熱を感じる。心拍数が上がり、痛みがじんじんと身体中に行き渡り、体の力はどんどん抜けていった。
『たす、け、て……』
俺は痛みと恐怖に体が震え、誰かに届いて欲しいと必死に助けを求めるが、こんな大雨で真夜中に外で歩いてる人がいる訳もなく、俺は雨の中で意識を失った。
蜊亥燕蜈ュ…時
首に重たい重りのようなものが付けられたような感覚が突然現れた。段々と視界が晴れてきて生きている事に少し安堵した。
「もう起きたの?はやいね」
聞き覚えのある声のような聞いたことないような声のような少し低く特徴的な声が聞こえた。少し顔をあげるとニコッと笑った男性がいた。
『誰……』と、聞きたかったが怖くて声もでず、相手の発言を聞くことしか出来なかった。
「大丈夫、怖がらないで。すぐ殺してあげるから」
笑っていても目の奥は笑っていないし、ふわっとしている金色の髪もなぜが不気味に思えた。そして彼は、小さく舌打ちをした。
「あの子を殺したように」
そう言って彼はズボンのポケットから取り出した果物ナイフを俺に向けて振りかざした。驚きと困惑と怖くさでつい目を閉じたが、時間が経っても痛みは感じない。
ふと目を開けると、彼は手を胸に当てていた。
「うっ、」
彼は苦しそうにした後、気を失ったかのようにその場に倒れた。
約一時間後
苦しそうに倒れた彼を横にしていたら、呼吸を確認し、息があることが分かり安堵の息を漏らす。しばらく時間が経つと彼が、少し目を開いたそれに気づき俺は彼の体を揺さぶった。
『大丈夫です、か?』
「殺せばよかったのに……」
俺は彼がそう言ったように聞こえた。彼は体を起こして自分の手首にナイフを当てようとしていると分かり、俺はナイフの刃を握りしめた。握りしめた私の手からはダラダラと血が垂れていた。
「離せっ」
と言って彼はナイフを持ちながら抵抗する、手のひらに激痛が走るが、俺は諦めずナイフの刃を握りしめる。彼は俺の手を振り払おうと勢いよくナイフを俺に向けて押し、偶然その刃が頬をかすった。
「ごめん」
そう言って彼は自分の服を破って俺の頬を拭ったあと、彼は部屋から出ていってしまった
約二時間後
部屋の中を見ていると×が集合写真に写っている人の顔に書かれていた。その中には俺もいた。そして彼だと思われる男の人も映っていた。
下には警察学校と書かれている。見覚えのあるその写真を自分のポケットに入れ、他の情報を探そうと部屋の中を見ていると彼が部屋に入ってきた。
「今朝はごめん」
と、顔を伏せながら彼はそう言った。
「ごはん食べて」
と、差し出されたご飯は少し
餓死したくなければ食べるべきだろうだが、そこに毒物が入っていないとも限らないし、何より危険性が高いそう考えた俺は食べることを拒否した。すると、彼が折れの口をこじ開けてご飯を無理やり押し込む。
『んっぐっ、ぁ、』
足掻こうとしても、彼はしっかりした体つきで抵抗など効果がなかった。半分ぐらい食べさせられた後に俺は急激な眠気に襲われ、抵抗の使用もなくその場で眠ってしまった。
ジャーという音で、眠気が覚めてきた俺は、目を少し開けたが、明らかにそこは風呂場だと直ぐにわかった。
俺の体を丁寧に流す彼を横目で見ると、彼の体には無数の痣のようなものが見えた。なぜだか見ては行けないものを見た気がして私は直ぐに寝たフリを始めた。
手慣れた手つきで、体を拭いて髪を乾かして服を着せる。彼の怖さが不思議と無くなっていく感じがした。何故か俺は彼を心の中で安心し始めてしまった。ハイブリストフィリアに陥ってしまっているのだろう。
彼は俺を元の部屋に連れていき、彼は突然上を見ながら話し始めた。
「阿部くん。ごめんねこの子、阿部くんに似てるから胸が痛くなるんだ、」
阿部くん。そう呼ばれたいた青年が大学時代にいた。その事かは定かでは無いけど、名前は確か"阿部 颯太"
天才で大学のトップを取っていたけど、九月一日に自殺で亡くなった伊織から聞いた。
阿部くんの自殺の逆恨みから?
なら、なんで早く殺さないんだろう…
「俺もすぐ阿部くんのところに行くから待っててね。」
新井が、会社に無断欠勤をして三日目が過ぎようとしていた。俺が知っている新井はそんな事をするはずないし、それに新井が俺の連絡を三日間も返さない日は無い。家に向かっても人気は無いし、近所の人に聞いても最近は見ていないと言う。
俺の中で何か嫌なことが起っているような気がした。だから、俺は警察に捜索届けを出そうと警察署に向かう。
警察署に付き、丁寧にことの重要性さを説明する。
「この人、なんです。会社も無断欠勤家に向かっても留守。近所の人も見てないって言うし、電話も連絡も一切無しで心配なんです!新井 優希っていう、身長百六十八センチメートルで……」
と説明していると、警察官が眉間に皺を寄せておれが持ってきた資料を見つめる。
「新井 優希ですか?あれあ、取り乱してしまいました。すいません。」
「知り合いかなんかですか?」
「昔の友人です。」
「そうですか。」
「捜査員が、集まり次第直ぐに捜査させていただきます。」
「ありがとうございます。」
警察に相談したし見つかるはずと自分に言い聞かせて、スマホの待ち受けにしている新井の写真を見つめながら、家に帰る。
新井くん。早く戻ってきてよ。俺は部屋の壁中にに貼り付けた。新井の"写真"を叩いた。
〜新井side〜
誘拐されてから2週間は経っただろうか。何回日が昇って日が沈んだか分からない。俺は今も同じような生活を繰り返し繰り返し続けている。
時よりに彼が狂ったように、ナイフを振りかざして来る時があるけど。一度もそのナイフに当たっていない、それは俺が避けたんではなくて、わざと当たらないようにしてくる。
キィーと音を立てて、俺を監禁している部屋のドアを開けてくる彼はやはり顔を引きづり苦しそうな顔をする。
「好きだよ、だから、死んでよ。」
そう、いつも誰かと重ねて彼は言ってくる。だけどいつも本気で殺そうとしない。彼が何をしたいのか未だによく分からないが、一つだけわかることがある。それは、彼が阿部 颯太と俺を重ねているということ。彼の気分が落ち着くと少し儚い顔をする。
「もう知ってると思うけど、俺の名前さ、佐久間 一樹」
写真を見た時に記憶がふと甦った。だから、知っているに決まっている。むしろ知らないわけが無い。阿部くんとよくつるんでいて、阿部くんが居なくなったと同時に警察学校を退学し、行方不明になったと言われている子だ。
彼は自分の名前を告げてすぐどこかへ行ってしまった。
五分ほど経ち、彼はお盆に乗ったごはんを持って部屋に入ってくる。毎度何が入っているか分からないため、本当は食べたくないが、食べないと言っても食べさせられるし、ご飯を食べれば眠気が襲ってきて眠ってしまう。ただ眠るだけだと自分に言い聞かせてご飯を食べる。
だが、当初のように上手く薬が効かなかったのか、すぐ目が覚めてしまった。
『佐久間ぁ、さん、?』
頭の中でそう言ったつもりが声に出てきていて佐久間さんがすぐさまこちらに目を向ける。今更寝たフリをしても遅いと分かり、前回見た痣は本当に痣なのかを確認しようと目を逸らすと、佐久間さんの体には痣がやはりあった。それに前は気づかなかったが、火傷の痕もびっしりあった。
「ごめん。起こしちゃったね。」
と、言って彼は俺の頭を優しく優しくなで
『え?』
そう言って俺の頭を掴み顔を風呂の中にいれた
『ぁっ、がはっ、たすっ、、ひぐっ、け、て!』
パニックになり、口から空気がどんどん出ていき、さらに、水を鼻から吸ってしまい、段々と意識が遠のき初めて、ついに俺の意識は飛んでしまった。
『ケホッケホッ』
佐久間さんは意識のない俺に心肺蘇生と人工呼吸をして、俺の息を再び呼び起こそうとしてくれた。起きた時には、もう既に佐久間さんは服を着ていて、俺にも佐久間さんの服は着ていた、だが髪は絞られていないほど濡れていて、佐久間さんの服が濡れ始めていた。
佐久間さんが自分の手で俺の事を殺しかけたというのに、俺に人工呼吸や、心肺蘇生をわざわざして助けるなんてなんの意図があるのか。などと考えていると、佐久間さんは椅子を持ってきて、俺の前にその椅子を丁寧に置き、そして俺の事を抱き上げて椅子に座らせた。
そして、俺の髪の水に滴った髪をすくい上げて静かに髪の毛を乾かし始める。俺も変になったのかもしれない。そう突然思った他人に触られたりするのはとても気持ちが悪くなるのに、ちっとも気持ちが悪くない……
「乾いたよ、首、傷手当しよっか…」
と、俺の首を優しく撫でる。突然現れた謎の感覚に体を震わせながら小さく声を漏らす
『ぁっ…』
そんな俺を見て、佐久間さんは頬を緩ませた。気づけば胸の鼓動の方が強く、首の痛みは全く感じなかった。怖いはずなのに、怖くなくて、謎に気持ちよくて、佐久間さんの『髪』『顔』『体』ずっと見ていたい、感じていたい、もっと知りたいと、感じてしまう。
殺してもいい。ただ、まだ殺さないで欲しい。まだ、傍に居させて欲しいと、心の中で小さく呟いた。
でも、そんな日もいつかは終わりを迎える事を私は知っている。それを知らせるように家のインターホンが部屋に鳴り響く
佐久間さんは急いで濡れた服を脱ぎ、濡れていない服に着替えインターホンを覗いた。
「どちら様でしょうか?」
とインターホン越しに聞く佐久間さんを俺は脱衣所から少し顔を出して覗きみをする。
「宅急便です。部屋までお持ち希望でして」
佐久間さんは心当たりがあったのかドアをすんなり開けた。その瞬間、ドアの方から佐久間さんの苦痛の叫びを聞く、佐久間さんがなぜ苦痛の叫びを上げたのか分からず何があったのか部屋から体を半分出して覗く。その瞬間、口を手で覆い息を殺す。とても見てはいけないものを見た気がした。
お腹を押させて苦しそうにする佐久間さんを宅急便だと名乗った男が佐久間さんを突き飛ばし床に押し倒す。
「お邪魔しますね?佐久間くん」
「何処にいるの?新井くん!迎えに来たよ?」
俺はドアを閉め部屋の隅で泣く、その声が凄く最近まで聞いていたことや、なぜここが分かったのか、不安と怖さが混ざり声にならない声を上げる。
「新井っ!逃げろっ、ゲホッ」
佐久間さんを刺した犯人は一つ一つのドアを開けて行き、等々、俺が篭っている部屋のドアを空けられた。
「みっけ、そこに居たんだ、早く帰ろっか、」
そうやって手を差し出す男の人の顔が帽子の下からチラリと見える。俺はその瞬間息を飲んだ。顔には見覚えがあったから。
『え、花澤先輩?』
彼は名前を言い当てられた瞬間満面の笑みで俺の髪の毛をガシッと掴み引っ張り始めた、抵抗するが痛みと怖さで手が震え抵抗も抵抗と言えないほど弱く、引きづられながら車の中に押し込まれた。
『や、やめて』
震えて声も上手く出せない。嫌と言ったら殴られる気がして、逃げたら殺される気がして、体が硬直した。
「だって悪いのは新井くんじゃん、三日以上連絡返さないし、無断欠勤するし何も言わずに突然消えたし。だから、俺が新井くんのこと助けたんだし、俺の事好きだよね?」
車のバックミラー越しに俺に微笑む花澤先輩に背筋が凍る。
『俺はそんなことやられても好きになりません!』
「知ってる。だから俺は新井くんを壊そうって思ったんだよ?」
「佐久間くんが苦しんでいる時の新井くんの顔たまらなく好きなんだよ?」
『花澤先輩、そんなことするなんて人じゃないです!お願いです。車から下ろして!』
車の中で暴れても誰かに助けを呼ぶ事もできない。そんなことより、早くしないと佐久間さんが死んでしまう。命を落とす可能性があるが、車から出る方法を一つだけ思いついた。
『俺、花澤先輩の事、許しませんから』
そう告げて、俺は花澤先輩が運転しているハンドルを右に曲げた。ものすごい音を立ててそのまま車は目の前のガードレールに勢いよくぶつかった。勢いが良かったのか、反動で割れた窓から外に出て、車から逃げ出した。
周りには人だかりが出来きていた。子供から老人までもが、俺を見つめ、声をかけるが無視をした。俺にはいち早く助けたい人がいるから車で走った道を気を失わないように集中しながら走った。
窓で切った傷口を抑えながらようやく家に着いた。力が入らないながらも、ドアを開ける。そこには、血が少し固まった中に倒れている彼がいた。
息が詰まる。何故、こんなにも自分を誘拐した殺人鬼を助けようと思うのか。このままほっておいて死んじゃえば、自分は元の生活に戻れるのではないか、頭の中で色々な考えが広がる。
でもそんな考えは、彼の指先が少し動いた時には消えていた急いでガーゼを取り出し腹部を圧迫した。彼は痛そうに歯を食いしばるが押し付け止血をする。
しばらくすると血は止まり、私は包帯を巻いた。ぐったりしている彼は、何処かへ消えてしまいそうな雰囲気だった。
しばらくすると、彼は目を覚ました。
「俺って、痛っ、」
と、悲痛の声を上げる佐久間さんを俺は咄嗟に抱きしめる。
『佐久間さん?』
「なんで。死なせてくれないんだ」
彼から出た言葉に俺は耳を疑った。「何故?」とその一言を言う前に咄嗟に言葉が出た。
『誘拐犯を助けた俺は馬鹿なんですかね』
『そこに助けたい人が居るのに殺してなんて言わないでください』
自然とこぼれた涙は佐久間さんの体に流れ落ちた
その事件から二週間後
まだ、警察はあの事故のこと。私の事の関連することに気づいていないのか、ニュースやネットにすら上がっていなかった。
『新井くんは本当に阿部くんに似てるね』
佐久間さんは俺の髪を撫でながらそう呟いたが、俺はそれより聞きたいことが複数あった。
『ねぇ、今だから聞けるんだけどさ、何で俺の事誘拐したの。それに、俺見たんだよね体にある痣と火傷何があったんだよ、答えてくれ』
佐久間さんは目を少し見開いて、私から目を逸らした。
「あはは。本当に似てるね」
『笑ってないで、話しそらさないでちゃんと答えて』
そう言うと佐久間さんは目を逸らして渋々説明をし始めた。
「阿部くんを殺した犯人を殺す為だよ」
『俺、やってない、殺してなんかない』
「知ってる。やったのは"花澤 凛"だから」
「新井くんを誘拐すれば追ってくると思ってね」
「あと、」
『あと?』
「阿部ちゃんに、似てたからかな」
似ていた。そんな小さな理由で誘拐したのかと、以前であればそう感じていたのであろうが、今はかける言葉がなかった。
『痣や火傷はどうしたんだよ』
「母親だよ。俺が生まれた日に父親が死んだだから疫病神として殴られたり熱湯をかけられたりしてた」
以前作った卵焼きを見た瞬間泣き崩れたのは、もしかしたら昔のトラウマがあったからなのかと今では考えることが出来る。そんなことを考えていると、佐久間さんの目からポツポツと流れ落ちる涙は、憎悪や、寂しさからなのだろう。
さっきのことがなかったかのように突然泣きやみ、笑い出す佐久間さんが俺の髪を撫でる。
「もう少しで警察に見つかっちゃうね」
「一緒に入れるのも僅かってことか」
なんて、言葉を呟いた
その言葉を聞いて俺はは離れたくない。そう感じた。今までであれば出てくるはずも無い言葉だった。
『俺離れたくないです。』
でも、佐久間さんはなにかに微笑みながら
「でもこれは運命だから」
そう言って佐久間さんは買い物に出かけた。
二日後
最近嫌な夢を見る。佐久間さんが死ぬ夢。いつかそうなってしまうのではないか、それを考えてしまう自分に嫌気がさす。
俺にとって佐久間さんって何なのだろう。その答えを今の俺は出せなかった。いずれ出すその時まで、佐久間さんと居たい。
「新井!」
ハッとして目を開けた時には涙ぐんだ佐久間さんが居た。さっきの考えが頭をよぎる。佐久間さんにとって俺って誘拐した子なのかな。
「新井くん。急に倒れちゃうし、死んじゃったのかと思ったんだからね!」
そうやって俺の顔を覗き込む佐久間さんに俺は微笑みながら『佐久間さんにとって俺ってなに…』そんな言葉を口にしていた。
「大切な存在だよ。」
そんな言葉を聞いて俺の目からは涙がこぼれた。きっとそれは、阿部くんと重ねているから、そう分かっていても、俺は泣いてしまう。その涙を温めるように佐久間さんは私を抱き締めた。しばらく泣いた俺の肩を抱き寄せ、俺からお礼のキスをすると、佐久間さんは目を少し見開き、キスを返してくる。
『んっ、ちゅっ、はぁ、はぁ、』
肩で息をする俺を優しく押し倒す佐久間さん。
「可愛いよ。ちゅっ、んっ、」
一分も続くキスに少し苦しくなり、佐久間さんの胸板を叩く。
「苦しい?」
優しく俺の髪を撫でる佐久間さんが胸が苦しくなる。
『足りない』
恥ずかしい。恋人でもないのに足りないと言葉を漏らす。
「そっか、」
佐久間さんは俺のベルトを丁寧に外し、ズボンとパンツを膝まで下げて、熱を帯びたものを握る。
『んっ、ぁ』
自分の吐息に余計恥ずかしくなり、顔を逸らすが、佐久間さんが俺の顎をつかみ、キスをする
『んっ、ちゅ、』
キスをしている間にも、佐久間さん俺のモノを上下に早く丁寧に動かす
『んっ、でちゃ、ぅ、っ、』
腰をガクンと震わせながら白濁液を佐久間さんの手のひらに出す。佐久間さんは嫌がる顔ひとつせずに、俺の白濁液を優しく拭き取ってくれる。
『好き、です』
「俺も好きだよ」
再びキスをして、俺たちは同じベッドに入り、眠りにつく。
二週間後
幸せな時間にも幕を閉じることになった
インターホンが鳴り、ドアを「ドンドンドン」と叩かれる。佐久間さんは不思議そうにインターホンに向かう。そんな佐久間さんを俺は静かに見届ける。
「こんにちは、警察です」
聞いたことのある声とともに自分の心臓の音しか聞こえなくなる。
『佐久間さん!逃げて』
咄嗟に出た声反応した佐久間さんは私の手を引いて地下に連れていった。しばらくするとドアが蹴り開けられる音が地下室に轟く。
「新井くんともっと生きたかった」
そう言って、俺の体を優しく抱きしめる佐久間さんに俺は抱きしめ返すことしか出来なかった。近ずいてくる足音に佐久間さんは怖がりもせず覚悟を決めたようにナイフを取り出す。上でドアを開ける音が下に響くが、その足音が段々と近付いてくる。足音が止まったと思ったらギィーと、音を立てて地下室の扉が開いた。すると、銃を構えた伊織が立っていた。
「ありがとう」
そう言って彼は俺の首に刃物を当てた
「佐久間お前なんで……」
伊織は唖然とした表情で銃をおろしかける。
「これ以上近ずいたらこの俺を殺す」
佐久間さんは俺の首に刃物を押し付け、首から血が滲む。
「佐久間、刃物を下ろせ」歯を食いしばって引き金を飛行とする伊織を止めようと、声を出そうとするが上手く声が出ない。
『ダメっ!殺さないでっ』
そんな思いとは裏腹に、地下には銃声が響き渡った。肩に命中したのか、肩を抑えて苦しそうにする佐久間さんが、床に倒れ込む。倒れているのが佐久間さんだと頭ではわかっているのに、違うと現実を逃避する。
『佐久間さん!佐久間さん!目、開けてください…』
佐久間さんは細目で俺の顔を覗く、俺の目と会った瞬間に少し微笑み、それに俺も微笑み返し泣きながら佐久間さんの口にキスをする。
佐久間さんは一筋の涙を流して、目を閉じてしまった。現実が受け入れがたかった、俺は佐久間さんを抱きしめようとした瞬間、伊織と他の警察官により、俺と佐久間さんは引き剥がされた。
そのまま佐久間さんは拘束され俺は保護された
俺は警察に保護された後、ハイブリストフィリアと診断されて二ヶ月間精神科に通った。佐久間さんは裁判の結果、七年間刑務所で過ごすことになった。
俺が仕事に復帰した時、そこには花澤先輩はいなかった。陽君に聞くと、突然退職届を出して、連絡手段も、退職理由も分からないと言われた。
俺は改めて、伊織と共に阿部くんの死を調べることにした。
四年後
「どうぞお入りください」
そう言って警察官は俺を佐久間さんが待つ面会室に俺を入れた。佐久間さんと面を向かって話すのは裁判の時以来だ。席に座りしばらくすると、佐久間が目の前の椅子に座る。ガラス越しに見る四年ぶりの佐久間さんは少し痩せてしまっていた。
「優希。会えて嬉しいよ」
久し振りの声と、初めて下の名前で呼ばれたことに俺は涙ぐんてしまった。肩を撃たれた佐久間さんは特に障害を持つことなく回復した。
『佐久間さん生きててよかった、本当に』
四年間、心に潜めていた。言葉にならない感情が涙と共に溢れ出てきた。
「もう会えないと思ってた」
そう、微笑みながらガラス板に手を当てる佐久間さんががとても愛おしく感じた。俺もそのガラス板越しに佐久間さんに手を重ねた。
俺は佐久間さんに他愛もない話をしにここに来たのでは無い。会いに来た理由は別にある。
『覚悟して聞いてください』
言わなきゃ行けない。俺が四年間、伊織と調べてきた結果を、阿部くんがなぜ亡くなったのかを
『阿部くんの件調べてみました』
俺のその一言に佐久間さんの顔が少し強ばった。
『自殺でした、自殺の直接の原因は親から虐待を受けていた事でした。遺書も、佐久間さんへの手紙もありました。紙が濡れてて所々読みにくいですが、書類そっちに送りました読んでください』
泣きながら「ありがとう」と涙を流す佐久間さんが可哀想で仕方がなかった。
『絶対に待ってますから。出たらまた一緒に居ましょ』
俺にとって、佐久間さんは居なくてはならない存在だから。俺がハイブリストフィリアだからではなく、佐久間さんの気持ちに触れて行ったからだ。
「ありがとうっ、またね」
そう言って佐久間さんは面会室から出て行った
新井から送ってもらった、阿部くんの書類を1枚1枚丁寧に捲った。そこには『佐久間へ』と書かれた手紙が入っていて、俺はその封を開け読み始めた。
佐久間へ
元気にしてますか?
これを読んでる頃には俺はいないと思います。
まず最初にいつも心配かけてごめんなさい。
でも、佐久間を心配させたくなくて溜め込んじゃいました。過去の事、生きるのがもう辛かったこと。
俺はもう限界です。俺の人生は散々でした、
母親はホストにハマって家には俺1人。
帰ってきてもご飯を作らず、物を投げつけられ、蹴られたりなど、いつも怒られてばかりでした。
父親はギャンブルにハマって家に帰ってくることはほとんどなくって、逆に帰ってくると殴られるので帰ってきて欲しくないと思ってました。
そんな思いをもう、誰にもさせたくないと警察になろうと決意したけど心が先に折れちゃいました。
そんな中でもいち早く俺の異変に気づいて元気づけてくれた佐久間本当にありがとう。
とっても良い警察官になって人を沢山救ってください。
佐久間の笑顔好きだったよ。佐久間は幸せな人生を送ってね。
大好きです。それと、俺の事は忘れて好きな人を幸せにしてください
勝手に先に居なくなってごめんね
佐久間と居た時間今までの事を全て忘れられてとっても楽しかったよ。
こんな手紙で泣いちゃダメだからね?
本当にありがとう。それとさようなら
次会うときまで、バイバイ
阿部 颯太より
そこにはあべちゃんの過去と本心がずっしりと書き込まれていた。所々文字が滲んでいる所があった。最後の方になればなるほど、涙が溢れて上手く読めなかった。俺はその手紙を抱き締めながら一晩中泣き続けた。
三年後
「佐久間もう戻ってくるんじゃないぞ」
「お世話になりました!」
「ほら、お出迎えだぞ」
と、伊織が佐久間さんの背中を軽く押す。
俺を見つけた佐久間さんが走ってきて力いっぱい抱きしめてくれた。
『おかえりなさい待ってたよ』
溢れそうな涙を堪え、微笑みながら俺も力いっぱい抱き返す。
「ただいま、優希」
そう言いながら俺の頬に両手を添えて、優しくキスをする。俺はそれを受け入れるようにキスを返す。
佐久間さんは、面会の時よりガッシリとした体型で、食事や、運動をしっかりとしてくれたんだなと安心しながら、肩にあった傷や、腹部の傷が残っているのか確認するがそれらしき傷も見つからない。
「肩の傷も、腹部の傷治ったよ」
そう返す佐久間さんに俺は安堵の息を漏らすが、小さい時に受けた虐待の傷は残っている。直ぐに元の生活に戻れるわけもないが、ゆっくりで良いから佐久間さんとこの先の未来を歩んでいきたいと身に染みた。
刑務所に居た、七年という時間は決して短い時間では無い、だからと言って、七年刑務所にいたとしても過ちは消えないし、佐久間さんやった事が無くなる事は決してない。
でも、私はまたこうやって佐久間さんに抱きつくことが出来るのが嬉しく幸せに感じた。だって、佐久間さんが果たそうとした復習は終わったのだから
二千二十五年十二月二十五日木曜日
二時二十六分
「帰ろっか」
そう言って佐久間さんは俺に手を差し出した。その手を取り、横に並ぶ。これからは阿部くんの代わりに俺が幸せにしようと心に決めて返事をする。
突然後ろから伊織の叫び声が聞こえた
「逃げろぉ!!!!」
何事かと後ろを振り返った時には遅かった。隣で「ぅっ、」と言う呻き声を聞いて、あの悲劇を思い出した。佐久間さんを支えようと手を伸ばした時、犯人の姿が目に入った。
『花澤先輩…!』
花澤先輩の手には佐久間さんの血がべっとり着いていた。花澤先輩は不気味に低い声で笑いながらぶつぶつと何かを呟いている。
「優希くんが、悪いお前のせいだ!お前のせいで俺の人生は壊れた。死ねよ!死ね!」
そう言って俺に小型包丁を振り下ろす。その瞬間に見た、怒りに満ちた花澤先輩の瞳が脳裏に刻まれ、一生忘れられないものになった。
「やめろ!」
俺の胸に小型包丁が刺さりそうな瞬間に、伊織が体当たりで、花澤先輩を倒し、確保してくれた。俺はほっと行を着くことも出来ずに、倒れた佐久間さんに駆け寄る。声を掛け、揺さぶるが佐久間くんは息が途絶えかける寸前だった。
「ごめんね。不器用で、泣くな、」
そう言いながら佐久間さんは涙を流している。
「怪我無かったんだなっ、良かった、」
息が途絶え途絶えの佐久間さんを抱き上げ必死に止血をしようとするが、佐久間さんが俺の腕を掴み、首を横に振る。
「ゆ、ぅき、」
そう俺の名前を呼び、佐久間さんは残りの力を振り絞り、俺の頬に口付けをして直ぐに気を失い、その場で亡くなってしまった。
佐久間さんの倒れた横には血が着いた 黒百合の花束《Bouquet of black lil》が落ちていた。
ここまで見て下さりありがとうございます!
初めての作品完結できたこととても嬉しいです!
感動系に仕上げたかったですが上手く仕上げる事ができませんでした
これからも作品どんどん出していくのでこれからも作品投稿楽しみにしていてください!
皆様の応援に答えられるよう努力していきます!
これからも応援よろしくお願いします
改め、ここまで見ていただき本当にありがとうございました!
それではさようなら。