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【10万字突破】古書と滅びのヒストリア~史徒エル、禁書『大罪の黙示録』と出会う~  作者: 刹那いと
第2章 大聖堂都市『イストランダ』史徒文書館 7つの教会 編
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19.聖ヨハネウス史徒文書館① 聖女帝マリア=テレア14世

この国の秘密が、ここから徐々に明かされていきます…


 聖母帝マリア・テレア14世は、緊張の面持ちで、ちょこんと立ちすくむエルを見て――懐かしの表情を浮かべた。


「――()()()()。あなた随分と大きくなったのね。私があなたに会ったのは最初で最後、あなたをイストランダに史徒(ヒストリア)として、迎えた日でした」


「はっ、はい!……それは赤ん坊の頃に比べれば、大きくなったでしょう」


 聖母帝マリア・テレア14世を前に緊張していても、エルはいつもの調子で答えるものだから、リアードが「空気を読め」と横から肘で小突いた。


「――本題じゃ、聖母帝マリアよ。事は非常に…我らに不利に動いておる。

 120年ぶりに、『大罪の黙示録』の1編が見つかった。――場所は商業都市『ベレンツィア』の端に建つ聖カルメア教会じゃ。こやつ、()()()()の初任務先で、司祭が所持しておった」

「『大罪の黙示録』ですって!……というと、120年前――史徒(ヒストリア)ガンダレフが発見し、今は聖ヨハネウス史徒文書館に、その第1編のみが保管されている書物、聖ヨハネウス著の『大罪の黙示録』ですか?」


 聖母帝マリアの顔色が変わった――明らかに狼狽えている。


「――さよう。ふたたび、()()()()が、見つかったのじゃ」


 サンマルコがゆっくりと頷いた。


「――おぉ、神よ、何と罪深いこと!――それで、状況は我らに不利に…とは?」


 聖母帝マリアが、先を促す。


「――ふむ。その聖カルメア教会に、反十字教結社『ハコブネ』なる組織が現れ、『大罪の黙示録』を奪っていきおった。

 しかも、あやつらは、この()()()()のことを狙っており、文書館の事務局長と手を組んで、()()()()()、わざと『大罪の黙示録』と接触させおったのじゃ」


 サンマルコの話に、聖母帝マリアは幾重もの意味で、衝撃を受けている。


 ――イストランダの内部でも限られた人間のみにしか知られていない、最重要機密である『大罪の黙示録』の存在を知る、『ハコブネ』なる組織が存在すること。

 ――そしてその組織に『大罪の黙示録』を奪われたこと。

 ――書物だけでなく、組織は史徒(ヒストリア)エルノアを狙っていること、そして、聖ヨハネウス史徒文書館の事務局長という、国の中枢にまで『ハコブネ』の手が及んでいること…


「我輩とルシフィーは、昨晩の出来事を断片しか見ておらぬ。

 ――エル、リアード、アイリスよ。そなたらが知り得ることのすべてを、聖母帝マリア・テレアと我輩の前で、証言するのじゃ」


 ◆


 ――3人は、ベレンツィアでの3人の出会いから、聖カルメア教会での検閲任務、地下への潜入、『大罪の黙示録』を『禁書封印』できなかったこと、ガレリア司祭との闘い、『ハコブネ』が現れるまでの一部始終を事細かに語った。


 ――それを聞いたサンマルコと聖母帝マリアの表情がさらに曇った。


「……今一度聞こうぞ。――確かに、ガレリア司祭は、所持する書物を指して『大罪の黙示録』()()()、と申したのじゃな?」


「はい!『大罪の黙示録』()()() ()()()()……と言っていました」


 3人とも、ガレリア司祭の口から直接聞いている。間違いなかった。

 ――サンマルコと聖母帝マリアは、考え込んでいる。


「……サンマルコ。聖カルメア教会で見つかったのが()()()ということは、『大罪の黙示録』は()()()()()()()()()()()は、存在するでしょうね?」

「――あるいは、()()()()()()()()…じゃのう」


 2人は黙り込んで、これからの事に対して、考えを巡らせた。

 ――先に意を決したのは、聖母帝マリアだった。


「――これより、聖ヨハネウス十字教国は、国家存亡の緊急事態として、厳戒態勢をとります。

 グレゴレオ行政長、教国憲法第27条を発令します。聖母帝の命により、()()()()()()()を緊急招集してください。

 ――国を挙げて、残りの『大罪の黙示録』を探し出すのです!――反十字教結社『ハコブネ』よりも先に!」


 聖母帝マリアの命による『7つの教会』の緊急招集の対応に追われ、教皇庁内は一気に慌ただしくなった。


「――エル、リアード、アイリス。ぽかんとしているのう。

 そなたらには、わかるように説明してやらんといかんじゃろう――ついてくるがよい」


 ◆


 教皇庁から出た4人は、再びイストランダ大広場を抜けて、聖ヨハネウス史徒文書館へと向かった。

 

 聖ヨハネウス史徒文書館――すべての書物の在り処、この世界の叡智と真理の集いし場所だ。


 その建物は、重厚な歴史の流れのなかで、風化することなく静寂の中に存在した――正面の装飾屋根には、12人の史徒(ヒストリア)を象った石像が立ち並び、アーチ状の入り口には、羽を広げた知恵の天使『ウリエル』の彫刻と共にルーン文字で『汝、求める知の光、明るく照らす』、と記されている。


 エル、リアードにとっては、久しぶりのホームへの帰還だ。


「ほんの数日しか経ってないのに、しばらく帰っていないように感じるよ。

 はぁ~、やっぱり、ほっとするなぁ…ねっ、リア!」


 リアードは何も言わなかったが、それでも、慣れない旅と、主人であるエルを護らねば、という責任感で、ずっと張りつめていた気が、ホっと解れるのを感じていた。


「ただいま!」


 エルが元気よく、両開きの重厚な扉をギィっと開いた――開いた扉から覗いた光景に、アイリスは目をキラキラさせて、ため息を漏らした。


 ――美しい天井のフレスコ画『叡智の創造』には、人類が知恵の実を得る場面から始まり、四大元素の発見、地動説と異端審問、人体図と黄金比……人類が知識と真理を得ていく様々な場面が描かれている。

 左右に並ぶ偉大なる哲学者たちの像、その中心に立つのは聖ヨハネウスとその聖母帝マリア・テレアの像で、天井窓から差し込む光に照らされている。


 立像の奥には、高い天井まで届く壁一面の本棚に、ぎっしりと数十万の書物が並べられている。

 その下では、数名の文書館職員が、所々に掛けられた梯子に上って書物の整理をしたり、腕いっぱいに書物を抱えて忙しなく歩き回ったりしている。

 

「――わぁ…!ここが、史徒文書館……本当に世界中の書物がたくさん!」

「このロビーにあるのは、ほんの一部だし、『存在ある書物』だけだよ。この奥には、この何倍もの書物が保管されている。『記憶の書物』もたくさんあるし、閲覧制御されている部屋もたくさんあるんだ。そして禁書だらけの『秘密の書庫』もね!」


 案内するね――、と言ってアイリスの手を引こうとするエルに、サンマルコが待ったをかけた。


「――待て待て!……待つのじゃ、エル。案内は後じゃ。

 そなた、相も変わらず、おっちょこちょいじゃのう。――まずは我輩の書斎部屋に来るのじゃ」


「えっ!サンマルコおじいちゃんの書斎部屋に…?――入っていいの?」


 秘密の話があるのじゃ――、と言うサンマルコの後について、一同はロビーを抜けた先にあるエレベーターへと乗り込んだ。


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