道楽
暖色の明かりの中で、二人は長めのソファーの上に寝転がっていた。楽な雰囲気の中でガイハイは、今日の事を自嘲的な口調で話す。その内容をクルミは時々クスクス笑いながら耳を傾けた。そして、話が終わると彼女は全身を伸ばして
「かっこいいー!甲刹さんかっこいいー!会いたいーー!」
と正直な感想をのたまった。それは悪意のない、純粋な感想だ。しかし、今のガイハイには余りにも効く一撃であった事も事実。彼はふつふつと湧く恥ずかしさに、ソファーに頭を押し付ける事しかできないのであった。
「うぅ...良かったな...」
「うん♪今日も面白い話をありがとうね」
「別に面白くしようとしてる訳じゃないんだけどな。ただ毎回なんかのハプニングが起こるし。これまで完璧に上手く行ったことないし...萎える」
くぐもった声がそう訴える。すると、すぐにガハハハと豪快な笑い声が聞こえて来た。彼は「いたのか」とゆっくり身体を起こしてクルミの方を見る。
視界に入った彼女は脚を大きく広げて胡座をかき、右頬杖をついていた。顔はなんだかニヤニヤしていて、さっきまでとは大きく違った様相。
「えーっと、、、"ナルミ"さんですよね?」
「だからぁ。その敬語をやめろって。タメ口で行こうぜタメ口で」
「お、おう」
なんと、あの彼女はどこに行ったのだろう。今目の前にいる人にはおだやかさを感じない。気怠げで、ラフ、それに口調も違う。
そしてなにより変なのは、その滑らかな長髪の色が赤色から緑色になっていたことだ。
彼女はソファーの上を這いつくばりながら、彼ににじり寄る。そして、彼の胸に手を当てて一言。
「お前には信仰心が無いな?」
ガイハイは眉を顰めて、首を曲げながら頷く。それから、彼女の手をどけて自分で胸に手を当ててみる。
「信仰心、、、昔はあった。あったさ。だが悲しいけどもうそんなものはない。もう、何事にも全肯定なんて出来ない。だから、【祈祷】は使えない」
「神秘だけは有り余っているんだから、正に宝の持ち腐れだな。まぁ物理法則を超越できるだけで、強いのだが。もう一回何かを信じれないものか?例えば、親、好きな物、人、或は...神とかなぁ?」
ナルミは口元を少し上げて言う。彼は彼女にその目をギロリと向けた。少しの緊張が間に走った。
「ははっ冗談だよ」パパッ
緑髪の女が軽く手を叩く。すると緊張が一気にゆるまった。ガイハイの口からはぁというため息が出る。そしてばたんと再度ソファーに倒れた。
彼はふと壁にかかった時計を見る。時は午前の2時、深夜真盛りだ。周りは静かで、皆今頃寝息を立てているのだろう。もちろん、そうでない人もいるだろう。
「そういやナルミさ......ナルミはこんな時間まで起きてて大丈夫なのか?居てくれたのは有難いのだけど」
「...あんま寝ねぇからな。それよりお前、これからどうすんだ?顔も割れて店もぶっ潰れちまったからにはそうそう街には繰り出せないぞ」
「どうしようかな。警察らは多分血眼、とはいかないだろうけど結構探して来そうだな。まず顔は出せない。あと神秘も...どうするかな...ニルミ」
目の前の人の髪色が、溶けるように変わっていく。鮮やかな緑色からブラウンへ。それと同じくして、彼女は立ち上がる。そして、キッチンに足を運ぶとそこから一本の缶ジュースが彼に向かって飛んできた。
「ありがとう」
「...あるわよ。アナタを隠す方法は」
彼女の目は冷たかった。