表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神聖または神秘を殺す者  作者: ルララサカナ
1/6

凡人

はい。こんにちち


——ぐちゃ


 一つの骸の側に、一人の男が膝立ちをしている。男は小柄で、子供のような体型であった。


 彼の周りは闇に包まれた深い森。近くにはクレーター跡が複数散見できる。


 ぐちゃりと音を鳴らして男の手が骸の頭を触る。月光に照らされたその輪郭は大きく、丸みを帯びた、それはおおよそ人の頭であった。


 しかし、肉は既に黒く変色し、壮絶な腐敗臭を漂わせている。


 皮膚には夥しい量の蛆虫が張り付き、肉を思うが

ままに貪る。空洞の目はそれらで埋め尽くされていた。


 男はそんな蛆虫の一匹を拾うと、ゆっくりと口の中に、そして一口を存分に噛み締めた。咀嚼するたびに体を震わせ、吐息を漏らす。


「はぁ…おいし」


 恍惚のキョーキじみた笑みを月面に向ける。あたかも見せつけるように、口の中を覗かせて。彼はそれからも手を止める事なく蛆虫達を頬張り続けた。


 そうして1時間、2時間が経った頃、手を止めてその場から軽く立ち上がる。バサリと畳んでいた翼が大きく広げられた。翼には羽毛がなく、薄く、コウモリのようだった。

その生物は太古の昔から【悪魔】と言われている。


「はぁ〜お腹いっぱい!運動しなきゃ〜」


 そう呟いた正にその時、ドカンという轟音と眩い黄金の光が遠くの山に見えた。悪魔は口角を上に釣り上げる。飛び上がり、翼を振りながら、乱雑に空を切り裂いていった。


***


「本当にこんな所にいるんですかね?」


 人が行き交う駅近郊の街で、赤いヘアゴムをした少女が、歩きながら尋ねる。すると、彼女の前を歩く、黒い外套を纏った男は答える。


「います。あの【神秘狩り】はここに。先日の山中での事件で、やっと尻尾が掴めたようです」

「でも、こんな人がたくさんいる所で本当に……」


 少女は首を傾げ、訝しげな顔で男を見た。見上げて見えたその表情は無そのもの。晴れやかな日のもとでも未だ曇っている。しかしながら、実力は本物。


 政府が数多抱える祈祷師の中でも、四番目に腕が立つ。そんな彼が駆り出されたということは、それだけの脅威であるということ。彼女は背中に少しばかりの寒気を感じた。


「私、、、役に立つのでしょうか」

「えぇ。ちっぽけな虫でも虫なりに出来ることは有ります。貴方はそれをやり切れば良いのです」

「……」

「私も、プランクトンなりに、全力を尽くさせてもらいます」

「(もう……先生ったら)」


 と彼女は心の中でため息をついて歩きを早めた。

幾分か、歩いた後、彼等の視界にある店が映る。その店は大通りに接し、よく周りと調和した古い店であった。少し掠れた立て看板には【カフェ空遊】と書いている。


「ここ……ですか。嫌な雰囲気の一つも感じませんね。ごく普通の店です」

「……そうですね。私も同意します、、、では、行きますよ?」

「…はい」


 唾を飲みこみ、こわばった返事をする。


——ガチャ


男は取っ手つきのドアをするりと開けた。


「いらっしゃいませー」


 若い男の声がカウンターから聞こえる。素早く目をやれば、そこには凡庸な青年がいた。

読んでくれてありがとう!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ