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輪廻再生前

この小説はフィクションです。現実世界のいかなる事象とも関わりがありません。

目を覚まして朝食を食べ、着がえて七時半に家を出て歩きで駅をめざす。

高校生になって二ヶ月ほど経つけど、この生活にも慣れた。

ああ、この角だ。気をつけないと。

チャリに乗ったオッサンがイヤホンつけてスマフォを見ながら爆走して目の前を通りすぎる。いつもここで出会う。生活リズムがオレとアイツで同じなのだろう。気をつけないとひかれそうだ。マジ怖えー。まぁチャリにひかれても大した怪我はしないのだろうけど、ぶつかると痛そうだ。アレ違法だろう。誰か通報しないかな……まぁめんどいからオレはしないけど。

駅へ着いた。階段を昇降してホームへ出て、足が止まってからポケットからスマフォを取り出す。

そしてSNSを開く。ザッと眺めているうちに電車が入線したのでスマフォをポケットにしまった。そして電車の中へ入り、座れたのでスマフォを取り出す。

二駅ほど揺られたらスマフォをしまってから席を立って電車を降り、学校めざして歩く。

学校に着くと始業前にホームルームでプリントが配られた。前の席の男子くんから回ってきたプリントをうしろの席の女子さんに回す。オレは自然と笑顔になって渡す。そうすると女子さんも自然と笑顔になって受けとってくれる。

ときん。笑顔が嬉しいから自分の胸が軽くときめく。少し自分の顔が赤くなる。

気のせいか女子さんの顔も少し赤くなっているような気がする。

「ありがとう」

と女子さんが言うから

「どういたしまして」

とオレも返事をする。先週席替えをしてから、こんな日々が続いている。ときめきが日々大きくなる。

プリントを渡したオレは前を向いて、大きく伸びをして大きく息を吸った。

え? ありがとう? 毎回言われるけど、ふつう言わないよね? しかもお互いに嬉しい感じだぞ。青春なのか? これが青春ってやつなのか? 中学時代まで何もなかったから、高校生になってこんなことで嬉しくなるけど、オレはここから始めるんだー!

授業が終わって帰りのホームルームも終わって荷物をまとめていると。

「あっ……あのっ」

うしろの席の女子さんがオレに何か言いたそうにしている……けど言い出せないでいる。オレは自然と優しい気持ちになって言葉を待ったけど、女子さんの顔が暗くなってきた。っていうか涙目では……。オレから言葉をかけるタイミングかな……オレは今まで言いたくて言えなかったことを言うことにした。

「いつもありがとう。プリントを受けとるときとかさ、いつも『ありがとう』って言ってくれるじゃん。オレ、それがめっちゃ嬉しくてさ~」

オレがそう言うと、女子さんは顔を真っ赤にして言った。

「こ……こちらこそいつもありがとうございますっ!」

えっ? 何この反応? どきんどきん。自分の胸が高鳴っているのを感じる。ここは……一歩……踏み出していい……ッ! 勇気をふりしぼれオレ!

「えっと……○○さん、よかったらSNSのアカウント……」


なんということだ。

女子さんとSNSでつながってしまった……。

そしてSNS上で挨拶までしてしまった……。


そのあとはお別れしてお互いに部活。オレは剣道部、女子さんは手芸部。


そして帰宅して、宿題をしたり食事したり勉強したりして、夜九時ほどになったら女子さんからメッセージが届いた。

『いつも笑顔をありがとうございます。今日もありがとうございました。もう寝ます。おやすみなさい』

オレは返信をした。

『こちらこそいつもありがとうございます。オレももう寝ます。おやすみなさい』

そして女子さんのメッセージにイイネをした。

女子さんはオレのメッセージにイイネをしてくれた。

顔がほてっている。胸が熱い。そして股間が固い。そうか、オレは発情しているのか。恋愛の先に結婚があるかもしれないのは認識していたけど、そうしたら色々あるのだろうけど、恋愛未満の今からこんなに早く体が反応し始めるとは。恋愛というのはこういうものなのだろうか……なんだか我ながら嫌だなぁ。こういうのはいけないと教わって生きてきたから。

オレは悶々としながら寝ることとなった。


翌朝、目を覚まして朝食を食べ、着がえて七時半に家を出て歩きで駅をめざす。

その途中でスマフォに通知が来た。忘れ物でもしたかな? と思ったら女子さんだった。

『おはようございます。いま電車です。△△さんと学校でお会いできるのが楽しみです』

オレは心底嬉しくなった。そして、次の瞬間、暗い気持ちになった。このささやかな嬉しいできごとに、ささやかに股間が反応していることを感じ取ったからだ。なんだか股間が気持ちいい……そして幸せだ……素敵なことが起きているという体感と、こういうのはいけないという理性が矛盾を起こしている。どちらが正しいのだろう?

そう悩んでいると、ギギギッとものすごく大きなブレーキ音が聞こえた。しまった! あの角を不用心に通ってしまった! オレにオッサンのチャリが激突する。倒れる……あっ、スマフォ落とさないように……そう思って手を握りしめた瞬間、後頭部に激しい衝撃が走った気がした。


『リンカーネイション・システム、状況終了』

そんな優しい声が聞こえたような気がした。たくさんの蓮の花が咲いている綺麗な景色の中にオレはいた。

オレは蓮の葉に横たわっていた。起きると、目の前に仏像みたいな人がいた。

「いやまさか、平和な国の平和な時代の『観察者』を観ていたはずなのに、こんなにあっさり非業の終わりをとげるとは……諸行無常。いやー、最後のアレは痛かった……あっ、申し訳ありませんオレさん、あなたはもう命がありません」

えっ? マジ? つか、アンタ誰?

「私はボサツ1794673591と申します。ニョライになるための修行として、色々な『観察者』の生涯を観ています。私がオレさんの魂で、オレさんは肉体や心などでしたが、いまは『純粋情報』になっています。あなたの最後、リプレイしてみましょうか」

目の前で男子高校生がチャリのオッサンにひかれて、後生大事にスマフォを手に抱えたまま後頭部を歩道の縁石に激突させ、色々な液を大量に流して白目をむいているのを見た。そいつは鏡の中の俺に似ていた。コイツがオレなのか……マジで俺はチャリにひかれただけで終わったのか。なんという情けない終わりかた……終わるときはめっちゃ簡単に終わるのだなぁ……

女子さんと恋人になるのかなーと夢と希望に満ちていたのに、それも叶わずに終わるのか。マジで終わりなの? 人生再プレイとかないの?

「そういうのはありません」

ああああー! マジか。マジなのか。納得いかない……

オレは蓮の葉の上にバッタリと倒れこんだ。

ああ、青い空が美しい……白い雲が流れていく……

「あなたがいまいるこの極楽も仮想世界ですし、あなたが生きていた世界も仮想世界なのですよ。私が生きている世界にとっては」

そうか、じゃぁ……何もかもがどうでもよかったのかな……何もかもどうでもいいなぁ……

「いいえ、そんなことはありません。私が生きている世界も、上の世界にとっては仮想世界なのです。ありとあらゆる世界は別の世界にとっての仮想世界です。根源となる唯一の世界があるのかもしれませんが、私の世界にいるニョライでさえその世界を見いだしていません。というよりは、全ては幻であって根源などないというのがニョライの結論です」

じゃぁマジでどこもかしこもどうでもいいんじゃん……

「そう考えることもできますし、オレさんがそう考えることを私は否定しません。でも逆に、どこもかしこもが大切で、生きるに値する素敵な場所なのだと考えることもできます。『観察者』は仮想世界に生きることが当たり前なので、いま生きている仮想世界を大切に思って生きることが大切なのだと思いますよ、私は。そして私もまた仮想世界を生きる『観察者』にすぎません……この考えかたを押しつけるつもりはありません。まずはこの『極楽』で修行して悟りを得ることを目標にしてください。大丈夫です! まず求められるのは大悟ではなく小悟レベルです!」

さ……悟り……修行……

よく分かんないけど、もっとこう……恋人とキャッキャウフフしたりしたかった……

極楽にいるって言われても悟りとか修行とか押しつけられたくない……

「そうですね。あなたのように若くして亡くなられたかたは、みなそのように仰います。よくあることです。では、私の『次の世界』についてきますか? あくまで心や体に干渉はできない『傍観者』ですが、自分が経験しているかのように『観察者』の人生を体験できますよ」

そんなこと言って、次の世界もロクでもないんでしょう、もしかしたら。

「そうですね。ふつうに我々が輪廻転生したらそうなる可能性があります。では、転生ではなく再生にしましょうか」

どういうことです?

「過去に作られ、すでに終了した仮想世界の中で、幸運に満ちた素晴らしい人生を歩んだ『観察者』がたくさんいます。全てはライブラリに記録が残っています。私たちはその素晴らしい人生を再生しましょう」

うーん。傍観者じゃ面白くないような……

「そんなことはありませんよ、きっと。うーん……じゃぁ、あなたが生前好きだった『剣と魔法の世界』の人物を再生するというのはどうでしょうか」

えっ……マジでそんなことできんの?

「できますよ」

おっ。面白そう。それならいいかも。それに悟りとか修行よりはずっとマシな気がする……

「悟りをめざす修行のほうが素晴らしいと私は思いますが、感性の問題ですから、個人によって違いがあって当然です。特にあなたのような幼い人にとっては……では、あなたの嗜好を条件にしてライブラリー・システムを検索します……妥当な世界の妥当な人物を見つけました。では開始しますよ……ライブラリー・システム、状況開始」

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