1 ヘッドショットならぬヘアーショット
毎日朝にはただ学校に行って、日が暮れれば家に帰る。
途中で本屋やれ、コンビニ、たまにラーメン屋で飯でも食って来ることはあるが、寄り道もそれくらいのもの。
友人は……いないことはないが誇れはしない。
勉強、運動はテキトーで部活には、入っていないつもり。
そんなどこにでいるようなただの高校生のつもりだった。
…だからこんな出来事はできればご遠慮申し上げたい。
桜舞い散る夜空。
普通の日常における、ちょっとしたスパイスのつもりか目の前で登る血柱に、慟哭すらあげる事なく灰になる男。
そして、血に濡れた刀をこちらへと突きつけてくる金髪美少女。
普羅永人は見開いた目を一度閉じると、笑顔になり片手をヒラヒラとして告げる。
「ねぇ、そこの美少女。提案なんだけど、お互い見なかったことにしない?」
―
受験戦争。それは血で血を洗う骨肉の争い。
誰もが睡眠を削り、指にペンだこができるほどに手を動かし腱鞘炎になり、知恵熱という赤ちゃんくらいの子供しかならない熱を出したと錯覚する。
そんな中、目の下にはクマを作りもせず、ペンも握らずにのんびりと外を見ている高校三年生が一人。
「…桜か…。」
「なに黄昏てんの、あんた?」
「いやただ…花開き散るさまが俺たちみたいって…。」
すると隣の席の女子生徒七科はじめはカリカリと動かしていた手を止めると、うへぇと女の子?にあるまじき行いをする。
「花の学生生活ってこと?行っておくけど、似合わないわよ、あんたには。」
「…いや違うけど。」
「じゃあなに?」
「…言っても怒らない?」
「?…たぶん?」
すると、メガネをクイッと上げ、再びシャープペンシルから芯を出して、開かれたノートに書き出した。
「…俺たちも今年で三年。まるで受験生のようだ。今年の一年が勝負。桜のように花開き…。」
「…。」
「…そして散る。」
ガリッ!
ガクンと崩れ落ちるはじめ。シャープペンシルの芯がへし折れ、滑るように、ノートに穴を開けた。
「あんたね…今頑張ってる私の前でそれ言う!?」
「…はぁ…なんて儚い。」
「あんたね…っ!!」
同じく机に向かっていたクラスメイトたちの怒りの視線を一心に受けていると、入り口のあたりで歓声が湧き、その視線はその方向へと集中した。
現れたのは一人の美少女。
キラリと輝く金の髪に、スラリと長い手脚、胸は大きすぎず小さ過ぎない程よい大きさ、落ち着いた雰囲気はまるで聖女のようで…本当に隣の席のこいつとは大違いだった。
キッ!と睨むはじめにニコっと微笑んでやると、シャープペンシルが脳天に向かって放たれ…
「……あっ…ヤバッ!!」
…儚くもそれは開けられた窓の向こう側へと渡って、放物線を描き、偶然にもカツラ疑惑の先生の頭を掠めた。
「…今なにか当たったような…。」
それが落ちた途端、生徒たちは吹き出し、クスリクスリと笑いが起こり、そんな異常に気づいた彼は、まず頭に手を当てた。
「…な…い?ない!!俺の髪が!!誰だ!誰がやりやがった!!」
先生は自分の一部とそれを剥ぎ取ったであろうシャーペンを見つけ、恨めしそうに犯人を探し始める。
「なに避けてんの、あんた!私のシャーペン…って…あっ…。」
そして、ちょうどベランダへと出て下を見たはじめはしっかりと目が合い…。
「七科はじめ〜っ!!また貴様かっ!!赦さんっ!!今すぐおりてこいっ!!」
「ゲッ…。」
逃亡を図ろうとするはじめだったが、ここは学校、家に逃げたところで身元は割れている。
トボトボと歩いていくはじめに、永人は少し毛色の違う元気が出る言葉をプレゼントした。
「…あの葉が落ちたらお前は…。」
キッとこちらを睨むと、廊下を走る音が聞こえてきた。
どうやらはじめは普段の元気を取り戻したらしい。




