俳句初心者のボヤき──『季語』って難しいっ!
※ひだまりのねこ様主催『集まれエッセイ企画』参加作品です。
公式企画『俳人・歌人になろう!2023』が始まりました。参加作品は200を超え、1作に複数の作品を書いている方もいるので、なかなか盛況なようです。
この企画で、初めて俳句や短歌に挑戦してみた、という方も少なくないのではないでしょうか。
さて、自分も『〇レバト』の俳句コーナーに触発されてちょっと齧っただけの初心者です。
同じ『5・7・5』の川柳だと、音数以外に制限がないのでかなり自由に書けますが、俳句は『季語』を入れなければいけないので、少し難易度が上がりますよね。
──『季語って、何か適当に季節感のある言葉を入れればいいんでしょ?』
ところが、ですね。
俳句をちょっと真面目にやってみようと思うと、何度となく『季語』に関して『えー、それはないわー』という事態に出会うことになるのです。
・ 一見、季節に関係なさそうなものが特定の季節の季語になっている。
・ 逆に、もう季節の風物詩になっているものが、まだ季語になっていない。
・ 使い方に独自ルールがあるものもある、等々──。
これは、自分がかなり始めの頃に作ったボツ俳句の例ですが。
【天高く煙ひとすじ芋旨し】
季語は『天高し』(秋)。まあ、焼き芋の光景ですね。
視点が高いところから徐々に降りてくる感じとか、視覚情報から味覚に変わるところとか、まずまずの出来なんじゃないかと思ってました。
でも、後で気づいたんですが──実は俳句では『芋』といえば里芋のことで、秋の季語なのです。これだと、一句に季語がふたつある『季重なり』になってしまい、あまり好ましくありません。
「えっ、そんなご無体な!? 『芋』なんて総称やん、何種類もあるやん! スーパーで年中売ってるやん!」とも思いましたが、そういうルールなので仕方ないんです。
ということで、この句はあえなくボツとなりました。
もっとポピュラーなところでは『月』。
月なんていつも空にあるのに、俳句で単に『月』といえば秋の季語になってしまいます。
他の季節の月のことを詠みたければ『月朧』(春)、『夏の月』(夏)などの季語を使わなければいけないですし、そうなると他の季語を使う余地がなくなります。
あと、俳句で単に『花』といえば、『桜』(春)の意味になります。
まあ、こういう独特のルールは『月』『花』のケースくらいを覚えておけばいいでしょう。でも、他にも「え、何でそれがその季節の季語なの?」と思うようなものもたくさんあります。
ごく一部の例を挙げてみると──。
『春の季語』 : ぶらんこ・風船・しゃぼん玉・囀り(鳥の鳴き声)
『夏の季語』 : ハンカチ・髪洗う・登山・甘酒
『秋の季語』 : 夜食・墓参り・踊・虫
『冬の季語』 : 布団・絨毯・沢庵漬・今川焼
──ね? こんなの覚えられないでしょ?
プロの俳人の先生だって、季語をすべて覚えるなんて無理なんです。
ちゃんと俳句をやろうとするなら、使おうとしている単語を『歳時記』(季語を集めた本)やネットで調べて、他の季節の季語になっていないかなどを確かめた方がいいでしょう。
──面倒くさいですよね。
でもそもそも、季語って誰がどのように決めているのでしょう。
これは──実は『何となく』です。特に『季語選定委員会』のような公の機関があるわけではありません。
『歳時記』はいくつかの会社から出版されていますが、それぞれが改定のたびに収録した季語を見直しています。
近年詠まれている俳句を見て、季語ではないけど多くの人が季語のように扱っている語句などを新しい季語として収録します。
つまり、『歳時記』によって載っている季語はまちまちなんです。
今はまだ季語とみなされていない言葉も、皆が使っているうちに、いずれ季語と認められるかもしれません。そういう言葉はどんどん使っても構わないと思いますよ。
ええと、ちょっと思いつくところでは『日本シリーズ』とか『恵方巻』とか、ですね。
逆に、時とともに消えていく季語もあります。長いあいだ、ほとんど誰も使わなくなってしまったような季語ですね。
『マスク』(冬)なんかは、だいぶ季節感も薄れてしまったので、遠い将来に歳時記から消えてしまうかもしれません。
このように、季語の扱いってなかなか一筋縄ではいきません。
何となく俳句を始めて、最初はただ『楽しいなぁ』と思っていた方が、ある程度経験を積んでくると『季語って難しいっ!』と悩むようになります。(自分もまだこの辺りです)
ところが、そこをさらに超えると『季語って難しいっ! ──だがそこがいい』となるんだそうですよ。
歳時記の中から他の人があまり使わないような季語を見つけ出し、それがばっちり決まるような一句を詠んでみたくなる。──『〇レバト』でも、梅沢富男永世名人なんかは時々かなり珍しい季語にチャレンジしてますし。
そこまでいくと、もう完全に『俳人』の仲間入りですね。
まあ、そこまでディープにハマるかどうかはともかく。
皆さんも一度、軽い気持ちで俳句にチャレンジしてみてはどうでしょう。
音数や季語という制限のあるなかで、言葉のニュアンスを使ってより多くの情報を読者に伝える──これは、間違いなく文章力を上げることに繋がりますよ。
ちょっと齧ってみたいだけの方も、よりディープに探究したい方も、それぞれがその人なりに楽しめる。──それが俳句の最大の魅力なんです。