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竜の爪あと  作者: ASD(芦田直人)
第7章
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第7章(その1)

 村に残っていた探索隊の残る一行は、やがて王都への帰途に着いた。

 アドニスと赤子については、彼女の申し出通りにその地に残ることとなった。彼女らの件については兵士達と現地の村人たちには、竜の亡骸を調査するためにベオナードとともに廃墟へ赴き、そのまま彼女だけ戻って来なかった事にしておくように、と固く言い含めるしかなかった。

 村人にはアドニスと赤子の面倒も任せて来た形になるが、兵士達が竜と対峙し、そして悪鬼の襲撃を受け満身創痍であったのを目の当たりにしていた事もあって、村の者たちからは強く拒む意見も出なかった。一足先に帰途についた兵士達にしても、糧食はすでに尽きかけ、部隊はただただ疲弊していたがために、そういったベオナードらの判断に表立って異論を申し立てる者もいなかった。

 無事に黒竜を退治したのに、誰の心も沸き立つことはなかった。失意のまま王都に戻り、ベオナードはアドニスが現地に残ることになった経緯も含めて、ヘンドリクス卿には全てをありのままに報告した。

「なんとも、後味の悪い話だな」

 そう言って老いた貴族はただただ深くため息をついた。

「私は出来うる事なら黒竜など見つからず、先の調査団は単に道に迷って迷子になっていただけで、オルガノフも含め一同が皆無事戻ってきてくれるのが一番だと勝手に期待していた。そんな風に笑い話で済めばそれで越したことはないと思っていたのだが……実際は全く逆だな。結局、オルガノフを煙たがる連中の願った通りの結末だったかも知れん」

「申し訳有りません」

「よい、ベオナードよ。そなたが謝罪することでもあるまい。オルガノフが王太子殿下の信任厚かったその理由の一つは、あやつの予言の的中率の高さゆえだった。正式に予言者として認定されていたわけでは無いにもかかわらず、年齢も若いのにそのように重用されて、魔道士の塔では相当に目の敵にされていたという話だった。……最初に調査団に抜擢された折にいったんは固辞したのも、こうなると自分でも分かっていたのかも知れん」

「……我々は、黒竜を討つべきではなかったのでしょうか?」

「魔道士の塔の連中にしてみれば、竜を見つけてこいと厄介払いをして、手ぶらで帰って来れば来たで左遷の口実にしたかったのであろう。それが実際に竜を見つけたとあれば……しかも竜と接触して力を得たとあれば、ますます厄介者であるし、逆に竜に取り込まれて王国の敵となれば、送り出した者の責任は強く問われかねない。……見つけたら逃げて帰れというわたしの命令には背いた格好になってしまったが、結果として竜が力をつけるのを未然に防いだ形にはなったという事ではなかろうか」

「……」

「ともあれ……こちらの諸々の思惑に合わぬからと言って黒竜が暴れるに任せておくなど、そういうわけにも行かなかったであろう。竜を倒したのも半ば成り行きに近い事でもあるし、幸運も重なったとはいえいずれにせよそなたらは最大限に善処してくれた」

 よくやった、と労いの言葉をかけられはしたものの、ベオナードの気は晴れなかった。

 そのヘンドリクス卿から念押しされたのは……マーカスたち犠牲者が辿った末路について、詳細を他言しないように、というものだった。

「竜と精一杯に戦って命を落としたのだ。仲間を傷つけたなど、そんな話など知りたくもないという者の方が多かろう」

 無論、アドニスと赤子の件についても、兵士達に口止めしたのと同様に砂漠で行方不明になったことにしておくようにとヘンドリクス卿からも重ねて念押しされたのであった。そういった気が滅入るような諸々は、ひたすらに無かった事にされてしまったのだった。

 一方で、彼ら探索隊が、竜の爪やうろこといった、竜がいたという証左を持ち帰ったのもまた事実だった。廃城に残された竜の亡骸を調べるための新たな調査団が王命により魔導士の塔の魔導士らによってすぐさま現地に送られたのだったが、彼らがたどり着いたころには亡骸はかき消えてしまっていたという。ただそこに血だまりがあったどす黒い跡だけが残されていたという話であったし、先に持ち帰った爪やうろこをことさら作り物だと疑っても仕方がない。ただただ竜が存在した、それを退治したという勝利の知らせのみに、人々は沸き立った。

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