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学園のアイドルだって、ただの女子高生!?その3

「……え?」


 だけど、私の逃げる場所は何の前触れもなく忽然と消えていた。

 駆け込んだ自分の教室は、いつものように談笑で賑わっている。

 その中心に、別のクラスだったはずの真桜がいた。


「槇宮さん、おはようございます」

「ええ、おはよう」

「槇宮様……ああ、今日もお美しい」


 クラスの女子生徒たちは黄色い歓声を上げ、男子生徒たちは煌々とした眼差しを向けている。

 まるで昨日から。

 いや、正確には先週末までは席すら用意されていないはずだった。

 その予兆も、囁かれる噂も耳にしていない。

 それに学年が始まって一か月、こんな変な時期にクラス移動する生徒は今までにいないはずだ。

 ……真桜のヤツ、他にも何を私に黙ってやがるぅ~~!!

 ここ一週間、真桜を避け続けるように行動して情報すら耳にしていない。

 あげく朝から駅前で待ち伏せ、婚約者の方と真剣に向かい合うと宣言してきた。人のことを甘え下手とからかって、勇気を振り絞って一歩を踏み出して好意を告げている。

 それでも私の想いは届かなかった。

 ……ホント、お金持ちって何を考えてるのかわからないわ。


「レイ、何か聞いてたか?」

「知らないわよ。もう……」


 クラスが別で顔を合わせることもないからと、完璧に油断しきっていた。

 私が視線を逸らそうにも、熱い視線が一方的に向けてくる。


「……」

「……」

「…………」

「…………っ!」


 しつこい。

 真桜は笑みを絶やすことなく、声をかけてくる生徒たちに挨拶を返す。

 それでも視線だけは、明らかに私に向いている。

 目が合うと、嬉しさをプラスした表情へと昇華させていく。

 そんな真桜の些細な変化に、クラスの空気がどよめきだす。


「……どうすればいいのよ」


 クラス中の興味と好奇心の宿った視線が、一斉に私へと刺さってくる。

 少しずつ慣れていたはず環境は、真桜のクラス移動のせいで拍車がかかっていく。

 朝から重いため息を吐くと同時に、ホームルームの予鈴が鳴った。


「……」


 クラスが同じになって、真桜の方から声をかけてくると身構えていた。


「…………」

「レイ。お~い、移動教室だぞ」


 それなのに、真桜は常にクラスメイト達に囲まれている。

「………………」

「レイ、今日のお昼はどうする? ……お~い」


 お昼休みになっても、真桜は近づいてくる素振りも気配もない。


「沼崎、少し話がある」

「っ!? は、破島さん!!」


 その代わり、眉間にシワを寄せた破島さんに声をかけられた。

 露骨すぎるほど不機嫌で、誰一人として破島さんの近くを通ろうとしない。


「……また、屋上ですか」

「ああ」


 教室には、すでに真桜の姿はなかった。

 いつものように食堂の奥にある専用ルームに向かったに違いない。

 だから破島さんは、真桜がいないタイミングを見計らって声をかけてきた。

 要するに、そう言うことだ。

 私はタエに断りを入れて、破島さんの少し後ろをついて歩く。

 覚悟はできている。

 それでもその時を迎えようと一歩を踏み出すたびに、胃の奥が痛みだしてきた。

 誰もいない屋上へと続く踊り場。

 立ち止まった破島さんは振り向くと、腕を組んで黙り込む。

 私は遠くで小さく聞こえる喧騒を耳に気を紛らわせようとしても、胃がさらに痛みを訴えてくる。

 今すぐに逃げ出したい気持ちを我慢して、こっそりと息を大きく吸って吐いた。


「沼崎、この前の件だが――」

「はぁ、はい!!」


 あまりの緊張と胃の痛みに、変に声が裏返った。


「……はぁ」


 眉間のシワをさらに濃くさせる破島さんは、ため息をついて肩を落とす。

 そして、上着のポケットからスティック状のモノを差し出してきた。


「これを渡しておく」

「……USB?」

「先日の写真と、他にもいろいろ入っている」


 一瞬、何のことかすぐには出てこなかった。

 だけど私は、一拍遅れて中身を理解して慌ててしまう。


「その、どうしてですか?」


 受け取りたくても、何か裏があるのではと破島さんを疑ってしまった。

 たとえ中にデータが入っていたとしてもコピーはできる。こうしてUSBを渡してきた時点で、他にも保存場所はあってもおかしくない。

 それでも、今すぐにこのデータを破棄したかった。

 そうすればアルバイトの件は、破島さんが口にしない限り知られることはない。

 え、真桜とタエ? その点は信頼してるから大丈夫。


「さすがにクラス移動までされるとは思ってもみなかった。だからといって、沼崎に登校するなとは強制できない。たとえ従ってくれたとしても、強引に家にまで押しかけるに違いない……だろ?」


 実は朝に待ち伏せされて、話しましたなんて口が裂けても言えなかった。


「ま……槇宮さんのことだから、私の自宅とか簡単に調べ上げてきそうですね」

「……」

「破島さん?」


 どこか高圧的な物言いの印象がある破島さんが、私から視線を逸らした。

 謎の恐怖に、胃の痛みはまるで気のせいだったかのように消えていく。


「え、ウソでしょ?」

「一度、密かに尾行しようと口にしていた。けど、流石に止めた……だから未遂だ」

「……」


 コワッ!! え、真桜ってそういう人? いや、待ってよ。冷静に今までの言動を振り返ってみれば……可能性はなきにしもあらず? ……私、そうとは知らずに好意を告げちゃった?


「は、破島さん。槇宮さんってどういう人なんですか?」

「どうって……沼崎が想像する性格じゃないぞ」

「ホント?」

「本当だ。むしろ今まで、真桜様が他人に興味を向けたようすがないから戸惑っている」


 それって、言葉を返すと気質があるってことなのでは?


「用件はこれだけだ」


 受け取ろうとしないUSBを押し付けてくる破島さんは、その場から立ち去ろうとして足を止めた。


「ああそれと、これは個人的に言っておきたいことがある」

「あ、はい。……何でしょうか」


 無断のアルバイト、それに真桜の件は片づいた?

 それ以外で、私は破島さんとのかかわりがない。

 妙な緊張感に気を引き締めたが、振り返った破島さんの表情に見惚れてしまった。


「同級生なんだ、そんなに畏まった態度や口調はやめてくれないか」


 戸惑うような、眉間に少しシワを寄せた笑み。

 ぎこちなくも照れているようにも見えて、高圧的だった圧迫感がない。

 むしろ親しみやすいくらいに柔らかな印象で、どこか似たような人を身近で知っている。

 だから私は――、


「だったらさ、普段から接しやすい雰囲気でいてよ」


 素直な気持ちで笑い返した。


「……そんなに接しづらいか?」

「あ、やっぱり自覚なかったんだ」


 眉間にシワを濃くさせ、破島さんの表情が険しくなっていく。

 それでも、張り詰めていた空気を感じない。

 ホント、真桜といい破島さんも……それに莉々さんもか。いろいろと抱えているみたいだけど、うちの咲さんみたくとまではいかなくても肩の力抜けばいいのに。

 いつもソファでゴロゴロしていて、私より年上なのに甘えたがりで子供っぽい。

 だけどその分、私に心を開いてくれている証拠でもある。


「はい」

「……なんだその手は?」

「なんだって、友達としてよろしくの挨拶……かな?」


 私自身、どうしてこんな行動をとったかはわからない。

 ただ何となく、そうした方がいい気がした。


「なんか、改まると照れるな」

「……私も小学生っぽいかなって思ってるから、言わないで……」

「まぁ、これからも真桜様を含めて仲良くしてくれ」


 ……うん。真桜は仲良くどころか、恋人だってお姉さんに紹介されたし。それなのに婚約者の方に会うとかいって、人の首筋にキスしてくる。何を考えてるかわからないから、仲良くできるかは……不安だ。


「その、うん……」


 真桜と違って、破島さんの手は少しだけ硬い気がした。


「……どうかしたのか?」

「破島さんの手って、なんか不思議ね」

「真桜様を守るため、普段から武術を嗜んでいる」

「おお、カッコいい」


 ムニムニと破島さんの手を揉みこむように、指先で遊びたくなってしまう。


「……」

「あ、ごめんなさい」

「いや、いい。ただ……あれだ、慣れていないだけだ」

「……」

「……」


 あれ、この後どうすればいいの?

 落としどころのない空気感を遮るように、通知音が聞こえてきた。


「すまない」


 ずっと握っていても飽きない手が離れてしまった。

 指先に残る触り慣れない感覚。

 嫌いじゃないけれど、ほぼ毎日と握ってきた手の方が好きな気がした。


「……」


 通話を終えた破島さんは、スマホをポケットにしまった。

 眉間にシワを濃くさせて、柔らかかった雰囲気が一転して張りつめていく。

 破島さんの目尻は自然と吊り上がっていき、重いため息を吐きだした。


「真桜様を早退させろとの連絡だ」

「……させろ?」

「ああ、真桜様のご両親から『今夜、婚約者に合わせる予定がある』とだけ言われた。……あれだけ拒んでいたはずなのに、どうなされたのだろうか」


 破島さんは理由を聞かされていないようだ。

 ただ、その要因は私にある。


「時間をとらせたな、また」


 颯爽と立ち去る破島さんの後ろ姿を見送り、私はその場に留まった。

 ……真桜のヤツ、だから今朝会いに来たんだ。

 だけど、今夜とは一言も口にしていない。

 避けてきた一週間、真桜の性格からして強引に押しかけてくることもできたはず。最悪、破島さんに使いに出して呼び出すことだってできる。

 それなのに、そうしてこないでいた。

 たとえそれが、避け続けてきた婚約者の気持ちを知るため。

 はたまた、婚約者の方と会う気持ちを固めるためなのか。

 それを踏まえて、婚約に対して覚悟を決めたのかもしれない。

 ……だったら、あのキスは何だったの。

 痕は残ることはなかった首筋に触れて、グルグルと思考を巡らせる。

 本当に、真桜の考えていることはまったく理解できない。

 それでも、私には関係ない。

 気づいたら、自然と体が動いていた。

 勢いよく階段を駆け下りて、すれ違った教師から飛んでくる注意を無視する。

 成績は常に学年トップを維持して、身だしなみも聖光学院の規定を守ってきた。どれもこれも教師陣からの内申点、大学への推薦状を得たいがため。

 それは、優等生を演じてきたに過ぎない。


「……真桜」


 けど今の私には、そんな繕った皮は必要としていない。


「……真桜ッ」


 お昼時で混みあう食堂を抜けて、真桜専用ルームの扉を押し開く。

 そこには真桜の姿はなく、昼食すらも用意されていなかった。

 ……いないか。……そうだよね、破島さんも聞かされてなかったみたいだし……もう学院にはいないのかもしれない。

 お昼になって真桜が教室を出たから、向かった先がここだと思い込んでいた。


「レイ? こんなところで――」

「タエ! 真桜をみなかった!?」

「見てないけど……どうかしたの?」


 不思議そうに首を傾げるタエは、一緒に昼食を食べていた友達に訪ねてくれる。

 ただ食堂には来ていないようで、誰も目にしていないようだ。

 それだけでも、真桜がもう敷地内にいない可能性が高まってきた。


「ごめん、急ぐから!」

「お、おう。頑張れよ?」


 まだお昼休みは始まったばかりで、賑わう食堂を後に私は昇降口へと急いだ。

 ……どうしてこう、真桜のことで私が慌ててるんだろう。

 いつもだったらあの場所で、手の込んだ特製ランチを真桜と食べている。他にも教室での出来事や授業のことを、互いに家で何をしていたか。連絡先を交換したんだから、通話でも話せそうなことをわざわざ持ち込んでいる。

 そんな取り留めのない話でも真桜は聞いてくれるし、色々と話してくれた。

 それがずっと続けばいいと思い、甘えていたのかもしれない。


「真桜ッ!!」


 叫んだところで私の声が届くわけもなく、お昼休みで賑わう校内を走った。

 真桜の下駄箱を確認しても履き替えられた上履きだけが置かれ、勢いのままに私は校門前へと急いだ。

 真っ直ぐな一本道。

 ついさっき別れた破島さんと、車に乗り込もうとする真桜の姿があった。

 けど、私の足が間に合うことなく車は走りだしていく。

 ほんの一瞬だけ、真桜と目が合った気がした。

 追いかけようとする私の片腕を掴んでくる破島さん。普段から鍛えているだけあって、そう簡単に振りほどけそうになかった。


「沼崎」

「離して破島さん!」

「追いかけても無駄だ。……諦めろ」

「真桜……」


 遠ざかる車は見えなくなり、私はその場にしゃがみ込んでしまった。

 もしも食堂に寄り道をせず、破島さんの言葉を信じてここに来ていれば真桜と話せたのかもしれない。

 そうすれば、真桜のことを引き留めることだってできただろう。

 これが、どれだけたちの悪いイタズラでもいい。私はそれで怒らないし、好きにからかってくれてもいいから、真桜に留まって欲しかった。


「どうして追いかけてきたんだ?」


 破島さんにとっては、私は真桜の友達としか映っていないだろう。

 体調不良ではないけれど、早退するというだけで心配するにしては大袈裟かもしれない。

 驚いた様子の破島さんが差し伸べてくる手を、私は力強く握りしめた。


「破島さん、真桜はどこに行ったの?」


 真桜の早退させる話は、破島さんも聞かされていない。

 それに真桜が『婚約者と会う』ことへの、急な心変わりをした理由も気にしていた。

 だから、何かしら訪ねている可能性に縋ってしまう。


「……さすがの私でも、行き先まで聞かされていない」

「そ、そっか……」

「取りあえず立ったらどうだ?」


 破島さんに力強く腕を引っ張られて立たされる。

 しかも私の代わりに手でスカートの裾を払ってくれて、取り出したハンカチで汗を拭ってくれた。


「その、そこまでしてもらわなくても」

「……悪い、ついクセでな」


 破島さんは無意識だったのか、甲斐甲斐しくも動かしていた手を止めた。

 けどひと呼吸おくと額から頬、そして首筋へと手を回してくれる。


「は、破島さん?」

「さっきも言っただろ、そんな堅苦しい口調はやめろ」

「そうだけど……ちょっと、意外だったから」


 まるで人が変わったかのような険のない優しさ。

 すぐに受け入れろと言われても、なかなかに難しいものがある。


「これくらいでいいだろう」

「あ、ありがとう。……それ、洗って返すよ」


 そんな私の申し出を無視するように、破島さんはハンカチをポケットにしまってしまう。

 そして、何事もなかったかのように昇降口へと踵を返す。


「じゃ、教室に戻ろうか」

「……それでいいの?」

「……何がだ?」

「だって、破島さん。真桜の心変わりした理由を知らないんだよね? 知ろうとか、思わないの?」


 私はスマホを取り出して、一週間ぶりに真桜とのトーク画面を開いた。

 一方的な真桜からの連絡。

 初めて真桜とQRを交換してから、私からの返信は指折りで数えきれるくらい。

 それもその筈だ。

 どう返信すればいいか分からずに、無難に相槌を打つような返事かスタンプばかりを選んでいる。

 私が客観的に見ても素っ気ないだろう。

 どんな会話をしてるか見られたくはなかったけど、気にせず破島さんにスマホを押し付けた。


「ほら、これで電話して聞くとか――」

「必要か?」


 その一言はどこか冷たくて無機質で、本当に付き合いが長いのか疑ってしまった。

「破島さんは、真桜の付き人なんだよね?」

「幼少期からだな。私の父が秘書を務めていてな、その繋がりで関わるようになった」

「……何それ」


 どこまでも事務的で、まったく感情のようなモノが見られない。

 真桜も言っていたように、ここまで露骨に一歩引かれると口論になるだろう。

 それが分かっただけでも私の中で冷めていく感情と、フツフツと湧き上がってくる怒りに拳を握り締めた。


「じゃあ、破島さんのお父さんが『関わるのを止めろ』とでも言ったらどうするの?」

「……」


 黙り込む破島さんは、短く息を吐いて肩を落とした。


「私にはどうすることもできない」

「それでも友達でしょ!? だったら真桜の気持ちを汲んで――」

「汲んださ。……だから、こうして見送ることしかできないんだ」


 破島さんの表情に変化はない。

 ただ、降ろしていた両手は拳を握り締めていた。


「真桜は……どうしたいの?」

「私にわかるわけがない。……もしも、こんな時に莉々さんがいてくれたらな……」

 今にも消えてしまいそうな破島さんの弱音。顔を合わせるたび、高圧的な印象が強かったため驚きを隠せなかった。

 だから、しっかりと耳にしたその名前。


「……今、莉々さんって言った?」


 これが他人の空似だったなら諦めもつく。

 ただそれでも、破島さんが放つ圧はどこか似たモノを感じていた。


「ああ、真桜様のお姉さんだ。……それがどうかしたか?」


 訪ねた私に、破島さんは瞼を少しだけ大きく見開いた。

 これで真桜の行き先がわかるかもしれない!

 微かに細い糸を手繰り寄せるように、私はスマホを再び手にした。


「……沼崎?」

「ありがとうはし――彩華」


 真っ直ぐと破島さん。もとい、彩華を見つめた。


「彩華は、真桜のことが……えっと、大事なんだよね」


 どこか険があって張り詰めた雰囲気は苦手だったけど、結んでいた糸の玉が一つだけほどけた気がした。

 あえて『好きなのか』とは訪ねない。

 意味は似ていても、私と彩華の間ではたぶん違う。

 少し考えるように腕を組んで、彩華は眉を顰めた。

 眉間のシワは濃くなるけれど、相手を威嚇する圧を感じない。


「真桜様とは幼い頃からの付き合いだ。成長していく上で立場も変わって、私も守るように言われてきた。それでも真桜様は……いや、真桜は私の中で友達。それ以上の関係だと思っている」


 目じりを下げて、人優しい笑みを浮かべた。

 その表情に、少しだけ嫉妬してしまう。

 確かに私と真桜は出逢ってまだ一か月。

 正確には、聖光学院の中等部に入学した時点で槇宮真桜という学院のアイドルは知っていた。一方的だけれど私としては4年、同じ学院に通う誰よりも人目を引く同級生。一生関わり合うことのない人種だと、遠巻きに眺めるだけだった。

 だけどこの一か月は、誰よりも真桜の側にいたはずだ。

 真桜自身も、友達と呼べる間からの生徒がいないと言っていた。

 その一歩先、勝手だったけれど私は真桜の恋人だ。

 そんな自覚は私にはないし、並び立つほど容姿が良いわけでもない。強いてあげるならただ勉強ができるだけ。

 それ以外の取り柄は思いつかない。

 ……自分で言ってて泣けてきたな。

 そこのどこに惹かれたのか、真桜に気に入られた。

 面と向かって好きだとも言われてる。

 私も振り回されるけど、一緒にいて嫌じゃない。

 だから――、


「真桜のことは私に任せてくれない」


 真桜の隣を誰にも譲りたくない。

 こんなワガママを真桜が知ったら、子供っぽいって笑うかな? 

 それとも、婚約者の方と会う覚悟を決めた後だから遅いって怒る?

 たとえそうでも、私がしたいようにさせてもらうだけだ。

 真桜ばかりから好意を貰い続けるのは、フェアじゃない。

 遅くなったかもだけど、私からも真桜に想いを告げよう。

 そこから、改めて関係をスタートさせたい。


「沼崎……いや、麗良には勝算があるのか?」


 呆れたような、挑発する彩華の視線に笑って応えた。


「もち」

 手にしていたスマホが震え、私は笑顔でピースサインを掲げた。

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