オーバーテクノロジーの利点と弊害
【第二の変 バカ息子とドラ息子】
~遡ること一月前~
トウキョウ・ホワイトハウス。
「やめろおおおおおおおお!はなせええええええええ!」
松平秀喜は手術台に鉄格子で手足身体を拘束され、改造手術室に連行された。
その様子を蜘蛛のような四足歩行のロボットの上に上半身を固定した徳川家康Ver・999・0がガラス越しの別室で眺める。ロボットは小さな電子音と共に胴体の一部を点滅させている。
「HIDEKI、時は満ちた。お前の身体は成熟し、改造手術を施す時が」
「いやだあああああああ!話を聞けパパヤロウ!」
身体は身動き取れないが、かろうじて動かせる頭や手足の先をどうにかバタつかせる。
「……何故お前は改造手術を頑なに拒否する?」
「おかしいよ、こんな世の中!記憶とか計算、情報処理、状況判断、運動移動を機械に任せてるなら、それは機械が本体であって人間は必要ない!」
「仕方がないだろう?人間より機械の方が優秀なのは疑いようがない。それとも、お前は機械に勝てるのか?」
「勝ち負けじゃない!もっと大切なことがあるハズなんだ!」
松平は力強い声で、父でもあり、令和末にサイタマに移った首都を奪還し、東日本の総大将として応仁の乱で東軍を指揮し、東日本の頂点に君臨する家康に食らいつく。
東日本は効率、生産性を追求し続け、理想値を叩き出すAIと機械が人間を管理する、極端に人間の自由が制限された社会となっていた。
その過程で「伝統や文化が科学の発展に必要ない。歴史を守る意味がない」という結論に至るのは当然のことである。
例えば食事は人間の理想の栄養価を含んだゼリー飲料を三食。食事時間は十秒。料理の概念は東京湾と共に埋め立てられた。
男女の恋愛は優秀な子孫を繁栄させるため遺伝子から理想のパートナーをAIが選び、強制的にカップルを成立させている。拒否すれば西日本送り。東日本では西日本は野蛮な国という認識のため、拒否する人間は滅多にいない。
身体の一部、又は全てを改造手術でサイボーグ化させるのは当然であり常識。そのタイミングは個人差はあるが、十八歳まで完全な生身の松平は相当珍しい。
家康は息子の意思を尊重し続けてきたが、世間体もあり遂に問答無用で改造手術を施す決断したのだ。
松平HIDEKIは、そんな現在の東日本にうんざりしている。機械・AIが人類を支配しているようだが、松平からすれば人類が機械・AIに支配されにいっているような感覚なのだ。考えることを放棄し、個性は無くなり、全て機械任せ。果たして人間が存在する意味があるのだろうか?と。
さらに立場上、松平に施されるであろう改造手術は最高性能の機械を導入することになる。自分の父と同じ造形か、はたまたさらに奇怪な機械か分かったものじゃない。彼はそれも嫌なのだ。
そんな中、応仁の乱で焼け野原になったNAGOYAが令和仕様で復興している情報が入ってきた。長い間争ってきた伝統と科学が見事に調和し、人々は自らの意思で行動し助け合って暮らしている。それを知った松平はすぐに令和NAGOYAに夢中になり、歴史と伝統について残っているデータの端くれを集め始めた。
データとして残っている最古の時代、令和。それを解析・解読・調査していくうちに令和人が人間が有るべき姿で生活していたのが分かってきたのだ。理想郷を見つけた松平だったが、それを理解してくれる人は東日本にはいない。