表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/22

9.大司教アスモデウス

 前に歩み出たのは不気味な男だった。黒を基調にした意匠の凝らされたローブを纏っているが、その体からは死の臭いを漂わせ不敵な笑みを浮かべている。いったい何人殺したらこんな死臭を纏うようになるんだ。


「ほう、お前が武神ローズか? 瀕死の状態でシベリアン王国を追放されたと聞いたが、なぜ帝国に味方する?」


「ピアニー子爵が俺の恩人だからだ。お前は聖国の指揮官なのか?」


「私はカトレア聖国八大司教の一人、アスモデウスだ。ピアニー子爵とアカシア嬢を差し出せば命は助けてやるぞ」


 こいつ、部隊の指揮官どころかカトレア聖国の大幹部の一人じゃねえか。こんな大物が出てくるとは、教皇はよっぽどアカシアを手に入れたいみたいだ。面倒な奴に目を付けられたようだな。


「見たところ体は癒えたようだが、邪魔するならお前は死ぬぞ」


「俺の怪我が癒えたことを知りつつその自信とはな、かかって――」


 大司教アスモデウスが掌から黒い球体を撃ってきた。俺の話を遮って攻撃してくるあたりさすが聖国の大幹部、何でもありだ。

 後ろにピアニー子爵がいるからこの黒球は躱せない。俺は拳に気を纏って黒球を弾き飛ばすと、弾かれた先にいた聖国兵に当たり爆発して肉片が飛び散った。

 爆発に巻き込まれた聖国兵を見ると、その隙をついてアスモデウスは黒球を連発で撃ってくる。

 仲間の被害はお構いなしかよ! 仲間だと思ってないところが勇者の奴を思い出しまう。

 飛来する黒球すべてを聖国兵目掛けて打ち返すとさすがにアスモデウスも攻撃を止めた。


「フハハハハハッ! なんて酷い男なんだ武神ローズ! 私の可愛い部下たちを肉片に変えてしまうとは!」


 何言ってんだこいつ、自分の攻撃で聖国兵に被害が出たんだろうが。

 いや、これも話術で隙を作るアスモデウスの戦術かもしれない。耳を貸すな。


「ローズ殿、奴の妄言など聞く必要はないぞ」


「ええ、分かってますピアニー子爵」


 どうやらピアニー子爵も同意見のようだな。搦め手を得意とする奴はただ強いだけの奴より余程厄介だ。早く倒せるなら倒した方が良い。

 俺が高笑いしているアスモデウス向かい駆け出すと、またも黒球で攻撃してきた。


「もうその攻撃は見飽きたぜ!」


 拳で跳ね返そうとすると球が変化してピアニー子爵に向かって行く。こいつ、俺が庇うしかないと分かってやってやがる。

 俺は地面を蹴り砕く程の威力で後ろに跳躍して黒球を弾き飛ばした。

 何発かはアスモデウスに向けて飛ばしてやったが、奴が掌を翳すと黒球は消えてなくなる。

 クソ! 便利な魔法だな。


「すまないローズ殿。我々が足手まといになるとは……」


「気にしないでくださいピアニー子爵。俺が勝手に恩返ししたいだけですから」


 とはいえこのままじゃまずいな。一方的に攻撃されちまう。あまり得意じゃないが遠距離攻撃を使うか。

 俺は黒球を弾きながら気を練り上げる。奴を一発で倒しきれるか分からねえがやるしかねえ。


「くらいやがれえ! ロサバレット!」


 ロサバレットは練り上げた気を拳に集約して突き出し、気を敵に向けて放つ技だ。拳に回転を加えながら放つことで放った気にスクリューのような回転が生じ、高い命中精度と貫通力が生まれる師匠直伝の遠距離攻撃だ。

 アスモデウスが腕を振り上げると自身の前方に黒い壁が浮かび上がる。

 障壁でガードするつもりか? だが、貫通力はロサバレットの真骨頂だぜ!

 ロサバレットが障壁に当たると、俺はより拳に気を込める。こんな障壁なんて撃ち抜いてやる!


「バカな……押されているだと」


「貫けええぇぇええ!」


 アスモデウスの余裕の表情が崩れると障壁も音を立てて割れ、ロサバレットが腹を貫いた。これはやったか?

 だが、アスモデウスは腹を貫かれながらも倒れず口の端を吊り上げ不気味な笑みを浮かべている。

 こいつは何者なんだ? 人間なら死んでるはずだぞ。


「フハハハハハハハッ! やるではないか武神ローズよ! さすがは魔王を倒しただけのことはある」


「魔王は勇者が倒したことになっているはずだが、なんで知ってるんだ?」


「バカにしているのか? あんな小物に魔王を倒せる力がある訳がなかろう」


 こいつ、俺が魔王を倒したことを知っていやがる。ちょっと嬉しく感じる自分が嫌だぜ。

 しかし、こいつは多分人間じゃないんだろうな。腹にでっかい風穴が開いて生きてる人間なんている訳がない。


「こんなダメージを受けたのは久しぶりだ。今日のところは引くが次はないぞ。ローズよ、覚悟しておけ」


 カトレア聖国の大司教アスモデウスはそう言い残すと闇と共に消えていた。もしかすると闇属性魔力の使い手かもしれないな。

 人間なのか魔族なのか、怪しいのは吸血鬼族だが、あの種族は女王であるユナ・ネクタリン・ポラースシュテルンが他種族に迷惑を掛ける行為を禁止している。

 先代までは強大な力に物を言わせた恐ろしい種族だったらしいが、先代を殺して女王になったユナは他種族と交易する為にそんな法を作ったと聞いたことがある。

 先代を殺しといて何を言うと思うかも知れないが、吸血鬼の王は一番強い奴がなるらしく、王への挑戦権を掛けたトーナメントが開かれたりしているそうだ。

 ユナが女王なってから吸血鬼族は国を出て悪さをするはぐれ吸血鬼を許さないと聞いたことがある。

 まあ考えても分からないか、情報が少なすぎる。

 今すべきことはこの戦を終わらせることだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ