7.ポーション風呂
ポーション風呂に入ることになったのでアカシア、フルールの女性陣には退室してもらい俺、カサブランカ辺境伯、ピアニー子爵の三人が残った。
「さあローズ殿! ざぶんと行ってくれ、ざぶんと!」
カサブランカ辺境伯が凄い進めてくるから、ちょっと抵抗はあるが入るしかねえか!
男は度胸だと気合を入れてポーション風呂に入る。すると、シュワシュワと音を立ててボロボロな俺の体にポーションが染み渡ってきた。これは気持ちいいや、シュワシュワが汚れと一緒に傷も洗い流してくれるみたいだ。おっと、喉をやられたままだった。大量にあるから飲んでも良いよな?
桶にたっぷり入ったポーションをゴクゴク飲んで行くと俺の喉が欲していたのか、乾いた大地に水を落としたように染み渡る。
「本当に気持ちよさそうだなローズ殿。ポーション風呂は即効性が高いからすぐに効果が出てくると思うぞ」
「これは最高ですよ。――あれっ! 声が普通に出る……」
「早速効果があって何よりだ!」
かすれたような声しか出せなかったのに治ったのか。普通のポーションにこんな回復力あったか? よく見ると色が濃いような気がするが、もしかしてハイポーションやエクスポーションを使ってるのか?
「カサブランカ辺境伯、もしかしてこの風呂は上位のポーションを使っているのでは?」
「気付いたか、さすがローズ殿。この風呂にはハイポーションとエクスポーションをミックスした物を使用している」
マジかよ! とんでもない金額になるぞ! 確かに俺はピアニー子爵令嬢を護衛したが、ここまでの報酬を貰っても良いのか?
「気にすることはないぞローズ殿。金はピアニー子爵が出してくれる」
「そうだぞ。愛する娘を救ってくれたのだから、報酬はこれでも足りないくらいだ」
俺の気持ちを察したのか、二人は気にするなと声を掛けてくれる。
これほどの報酬を貰ったのだから恩は返さねばならないだろう。俺は受けた恨みは忘れないが、受けた恩も忘れないのだ。
「この御恩はシベリアン王国と勇者パーティーとの戦争で返すことを、武神ローズの名に誓い約束いたします」
「その誓い、しかと受け取ったぞ。戦争になればシベリアン王国と近いこの領地から兵を出すことになるだろう。ローズ殿の活躍を期待している」
やばい、ここ最近の裏切りからの落差で涙が出てくる。
泣き顔を見せたくなかった俺は桶のポーションに顔を付けてゴクゴクと飲み始め、全部飲み干してしまった。
「ロ……ローズ殿、風呂のポーションを全部飲んでしまったが腹は大丈夫か?」
「美味しくて全部飲んでしまいました。もう体は大丈夫です。本当にありがとうございます」
二人とも若干引いてたし、ばれてたかもしれないがなんとか泣き顔は見せずにすんだな。この大恩は戦いで必ず返してみせる。俺は戻ってくる力を感じながら決意した。
ポーション風呂でベトベトになった俺が水浴びをして戻ってくると、アカシアとフルールも同席してカトレア聖国との戦争の会議をしていた。
「聖国の目的はわたくしの身柄でしたが、教会騎士は領都ピアニカに駐留したままです。領民の為にも一刻も早く奪還するべきです」
「分かっている、領民を守るのは貴族の使命だからな。報告によると聖国軍の兵は千だったか? それならば遠征中の二千の兵で十分だろう。ローズ殿もこの戦に参加してもらえないだろうか?」
ピアニー子爵が俺に領都奪還戦への参加を呼び掛けてきた。早速恩返しのチャンスがやってきたな。それに、教会騎士には散々追い掛け回されて襲撃された恨みがある。
俺は受けた恩も、受けた恨みも返す主義だ。
「もちろん、領都奪還戦に参加させていただきます。体を治療していただいた恩返しができる機会を与えてくださり感謝いたします」
「そう畏まらないでくれローズ殿。貴方は私の家臣ではなく客分であり、娘を助けてくれた恩人でもあるのだから」
ピアニー子爵は器のでかい人だな。シベリアン王国の貴族は高慢な人間ばかりでうんざりだったが、カサブランカ辺境伯とピアニー子爵は気さくで良い人そうだ。グラジオラス帝国の貴族全体がそうかは分からないが、俺も貴族だからみたいな偏見は改めよう。
「そしてフルール、この度はアカシアを無事送り届けてくれ感謝している。其方にはアカシア付きの護衛の任を与える。これからもアカシアを守ってくれ」
「アカシア様付き護衛の任、恐悦至極に存じます。このフルール、散って行った団長たちの為にも身命を賭してアカシア様を守り抜くことを誓います」
アカシアを大好きなフルールから並々ならぬ決意を感じる。うん、凄く嬉しそうだ。良かったなフルール、アカシアを守り抜く力を身に付けるためにも今度稽古を付けてやるか。
「それでは、明朝領都ピアニカに進軍を開始する。各自準備を怠らぬようにな」
ピアニー子爵はそう言って話を締めくくった。
今まで少人数での戦いしか経験がないから戦争となると少し緊張するな。この体の震えは恐怖なのか、武者震いなのか、取り戻した力を振るえる喜びなのか分からないが俺は戦うだけだ。