6.カサブランカ辺境伯領
「もうじきカサブランカ辺境伯領、領都オリエンタルに着きますよ」
俺たちはバターバ代官邸を出て街道を進んでいたところ、運良く朝方通りかかった商人の馬車に乗せてもらい目的地であるカサブランカ辺境伯領、領都オリエンタルの近くまでやってきていた。
オリエンタルに到着すると商人にお礼の金貨を渡して別れ、領主邸に向かう。
辺境とはいえ領都だけにオリエンタルはかなり栄えてるな。俺が追い出されたシベリアン王国の王都程ではないが、高い城壁に囲まれた大きな町だ。住民に活気もあるし良い政治をしているんだろうな。
「ここがカサブランカ辺境伯邸です。やっと辿り着きましたね」
「――アカシア様ではないですか！ よくぞご無事で」
俺たちに気付いた門番が領主に知らせてくると館に走って行ったが、あの門番涙ぐんでたな。アカシアは臣下に凄く人気があるようだ。
「アカシア様、これで私たちの逃亡生活も終わりですね。厳しい旅でしたが、アカシア様と一緒にいられる時間が減ると思うと少し残念な気もします……」
「まあ、フルールったら。フルール、ローズ様ここまでわたくしを護衛していただきありがとうございます。領都オリエンタルには腕の良い回復術師も質の高いポーションもございますので、ローズ様の治療のお役に立てると思います」
「それは……助かる……」
フルールもアカシアのことを慕っているんだな。二人の背景に花が見えるぜ。
腕の良い回復術師と質の高いポーションはありがたい。シベリアン王国のヤブ医者には再起不能なんて診断されたが、俺は治ると信じてるからな。
その後、俺たちは使用人に案内され応接室に通される。過度な装飾のない質実剛健な屋敷は俺好みだな。
応接室で出されたお茶を飲みつつ待っていると壮年の男が二人やってきた。
「待たせてすまない。ピアニー子爵邸が襲撃された報告は聞いていたが、無事で良かった」
「フルール、よくぞアカシアを守りここまで連れてきてくれた」
「カサブランカ辺境伯、お父様またお会いすることができ嬉しく思います。私はこちらの武神ローズ様とフルールに守られねば命はなかったことでしょう。二人には十分な褒賞をお願い致します」
この二人がカサブランカ辺境伯とピアニー子爵か、二人ともナイスミドルだ。ピアニー子爵家は良好な親子関係のようだな。
「貴方が武神ローズ殿ですか！ 娘を助けていただき感謝いたします！ しかし、見れば酷い怪我をされているようですが、何があったか聞いてもよろしいですかな？」
俺はアカシアたちと会う前の話をした。魔王と相打ちになったが生き延びて、勇者パーティーとシベリアン王国に裏切られたことだ。
アカシアの護衛の報酬がもらえるなら体を治すこと。そして、できるなら勇者パーティーとシベリアン王国への復讐の手伝いを頼んだ。
「治療はできる限り手を尽くそう。復讐については簡単だ。帝国は戦争で大きくなった国だぞ。シベリアン王国との戦争にローズ殿も参加すればいい」
「シベリアン王国もバカな国ですね。餓狼と呼ばれ恐れられるグラジオラス帝国の隣国にいながらローズ様程の武人を切り捨てるだなんて」
アカシアが好戦的な笑みを見せる。美人はこういう顔も絵になるが正直怖い。
戦争に参加するのはありだな。戦争なら勇者パーティーと国の両方に復讐できて一石二鳥じゃないか。
「その話……謹んで……お受け……いたします」
「よし、決まりだ！ 後は喧嘩を売ってきたカトレア聖国についてだが、しっかりと報復してやらねばならんな」
「その件なのですが、途中立ち寄った宿場町の代官バターバが裏切り、聖国側につきました。その場で教会騎士共々粛清したのですが、聖国の教皇がわたくしを見初めて奪おうとしたことが原因らしいのです……」
「何い！ あの腐れ宗教家がああ！ 私の娘をあんなイカれた男になどやらんぞ！」
カトレア聖国の目的を聞いてピアニー子爵がブチ切れた。アカシアがなんとか鎮めるが、このおっさん娘を溺愛してるみたいだな。美しく聡明な少女だし無理もないか。
宿場町には新しい代官を派遣することになった。
「ローズ殿、治療の話なんだが帝国貴族の間でポーション風呂というものが流行っていてな。凄い効き目なんだが、ちょっと試してみないか？ 火傷、打撲、切り傷何にでも効くぞ」
ポーション風呂だと！ ポーションは安くても一瓶金貨一枚はするなかなかの高級品だぞ！ さすが貴族、金持ってるな。ちょっと気持ちよさそうだし是非ともやってみたい。
「それは……是非……やりたい……ですね」
「よし！ では準備させよう。しばし待たれよ」
カサブランカ辺境伯が使用人を呼びポーション風呂の準備をするよう命じると、大きな桶に大量のポーションの入った瓶が用意された。大きな桶にポーションをジャブジャブ入れて行くと、俺には大量の金貨の風呂に見えてきたぜ。武神なんて呼ばれていても、名声はあったが金はなかったから貧乏性なんだよな。
大きな桶にポーションがたっぷりと入り、見た目が濃い青色でちょっと入るのに抵抗がある……。有害な物が入ってるわけじゃないんだし、覚悟を決めて入るか！
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