5.宿場町での戦い
クソ! 隣の部屋のアカシアとフルールに危険を伝えたいが声が出ねえ! こいつを速攻で倒して二人を連れて逃げるしかないか。
俺は力強く踏み込んで教会騎士を殴りつけるが盾でガードされてしまった。これだから盾持ちは嫌いなんだよ! だが、俺のパンチでバランスを崩したようだな。
パンチの衝撃で体がのけ反った教会騎士に下段回し蹴りからボディに下突きのコンビネーションを打ち込む。俺の得意技の一つ、クイックだ。
クイックとは蹴りを当てた反動を利用して突きに繫げるコンビネーションで、二発目を敵の意識が逸れた箇所に打ち込むことによって、より攻撃を効かせることができる。
ボディが効いた教会騎士が地面に膝を付いたところに顔面を蹴り上げて止めを刺した。
アカシアたちは無事か? 俺は部屋を飛び出るとアカシアとフルールの部屋に飛び込んだ。
割と広い部屋の中ではフルールが三人の教会騎士相手に奮戦していた。戦いに集中して俺に気付いていない教会騎士を俺は後ろから攻撃して二人を倒し、残った一人をフルールが斬り伏せた。
「二人とも……大丈夫……か?」
「御助力感謝しますローズ殿。しかし、この場所がばれるとは……」
「……バターバが裏切ったかもしれませんね。至急出発しましょう」
あの豚代官裏切りやがったか! 胡散臭いとは思ってたが案の定だ。とにかく脱出しなきゃな。
屋敷を脱出するため外に向かうと、広い玄関ホールにバターバと教会騎士が待ち構えていた。
「何処へ行かれるのですかなアカシア様? まったく、大人しく眠っていれば痛い目にあわずにすんだものを」
「黙りなさいバターバ! 貴方帝国を裏切るのですか!」
「カトレア聖国の方が待遇が良かったのでね。当然のことでしょう」
金で買収されたってことか。だが、俺の知るカトレア聖国はそんな甘い国じゃない。敵前逃亡と裏切りは絶対に死刑にすることで有名な国だ。薬で恐怖心も痛みも感じず、死に物狂いで戦うからこそ聖国の兵は強い。
バターバが余程優秀な人材でもなければ使い捨ての駒にされるだけだろう。
「聖国の教皇様がアカシア様の美貌に目をつけましてね。貴方を捉えれば私は聖国で高い地位につけるのですよ。私の出世の為に捕まってください!」
バターバが叫ぶと教会騎士が襲い掛かってきた。人数は五人、俺とフルールなら撃退できるか。
「二人とも……こっちだ」
俺は二人を連れて狭い通路まで移動して迎撃態勢を取り、フルールに作戦を伝えた。上手く嵌れば簡単に倒せるはずだ。
「囲まれないように狭い通路に陣取ったか! 貴様ら教会騎士をなめてるのか?」
バターバが上機嫌に叫んでいる。やかましい豚め、後でブヒィと泣かせてやるからな!
俺は追いついてきた教会騎士の斬撃をギリギリまで引き付けて躱し、構えた盾を蹴り上げた。
「スイッチ!」
俺は叫ぶと同時に横に飛び、後ろからフルールが教会騎士の胸に剣を突き刺す。よし! 即席だが連携が上手く決まった!
暗い館内に狭い通路なら後ろにいる敵には俺たちの連携が見えてないだろ。
俺とフルールはスイッチを繰り返して教会騎士を撃退し、バターバを追い詰めた。
「バ……バカなぁ……。教会騎士があっさりと……」
「さすがですねローズ様、フルール。……バターバ、ここまでの事をしたのです。ただで済むとは思っていませんね? 豚は屠殺しますよ」
青ざめた顔のバターバにアカシアが凄む。さすがは様々な国に喧嘩を売り、大陸統一を狙っているグラジオラス帝国の貴族令嬢だ。荒事には慣れているのだろう。
「も、申し訳ございませんアカシア様! 実はカトレア聖国に家族を人質に取られ脅されていたのです! 私の忠誠は今も偉大なるグラジオラス帝国にあるのです!」
「あら、貴方は確か、結婚もしていなければ子供もいなかったと記憶していますが」
追い詰められたバターバは見え見えの嘘を並べ始めるがアカシアには通用しないようだ。
もしかしたら隠し子がいて本当に人質に取られている可能性もあるが、こいつは明らかに自分の利益を一番に考えていそうだしな
「ぐぬぬぬ……。小娘がああああ! 調子に乗りおってええええ!」
アカシアの詰問に答えられないバターバは激昂し、懐に隠したナイフを抜き襲い掛かってきた。
「豚は屠殺だ!」
そばに控えていたフルールは襲い掛かってきたバターバの首を斬り落とした。フルールさん、それは屠殺じゃなくて斬殺ですよ。
「帝国も急激に領土を拡大したためか、残念ですが地方では甘い汁を吸いたい裏切り者が出てくるようになりましたか」
「この男のような者はまだまだいるのでしょうね。アカシア様、ここも危険ですので脱出いたしましょう」
フルールの言う通りここを離れなければすぐに追手がくるだろう。馬車乗り場は張られてるか?
馬車は危険と判断し、俺たちは徒歩で町を離れカサブランカ辺境伯領を目指す。
やっとゆっくり休めると思ったんだがもうしばらく我慢が必要だな。