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3.出会い

 山に入って一時間程すると、山に不釣り合いな剣戟音が聞こえてきた。この辺りの魔物は四足歩行の獣型が多いから魔物同士の戦いじゃないな、見に行ってみるか。

 剣戟音のする方へ様子を見に行ってみると、鎧を装備した一団と、ローブを纏った一団が殺し合っていた。鎧の方はグラジオラス帝国の騎士だな、ローブの方はカトレア聖国の教会騎士か。こいつらこんな場所で何やってるんだ?


「フルール! アカシア様を連れて逃げるんだ! 異論は認めん、これは命令だ!」


「くっ……了解しました」


 壮年の騎士が女騎士に少女を連れて逃げるよう言ってるってことは、教会騎士に追われてるってことか? 帝国と聖国は戦争中だからな――って、こっちにきやがった! 俺には俺の戦争があるから関わってる場合じゃないんだが。


「ちっ! ここにもいたか教会騎士め!」


 少女を連れた女騎士が俺を見つけると問答無用で斬りかかってきやがった!

 バックステップでなんとか躱すが、重要人物の護衛を任されるだけあってこの女騎士かなりの手練れだな。


「止めろ……俺は……敵じゃ……ない」


「止まりなさいフルール。この方はローブも着ていませんし、教会騎士ではないでしょう」


 少女が命令すると、フルールと呼ばれた女騎士はピタリと攻撃を止めた。良く訓練された、忠誠心のある騎士のようだな。


「俺は……ローズ。……帝国に……向かって……いる」


「ローズ……その身のこなし、貴方もしや武神ローズ様ではないかしら?」


「そうだ……俺を……知ってるのか?」


 会ったことはないはずだが、俺もなかなか有名になったもんだ。

 良く見れば二人ともとんでもない美人じゃねえか。俺を攻撃してきた騎士の少女は精悍な顔をした美人だし、護衛対象の少女は長い金色の髪に幼い顔立ちの美少女だ。

 面倒ごとに巻き込まれたくはないが、美人から認知されてるのは素直に嬉しいもんだな。


「貴方は有名ですからね。わたくしはグラジオラス帝国ピアニー子爵家長女、アカシア・ピアニーと申します。貴方がここで何をしているのかは存じませんが、わたくしたちを助けてもらえないでしょうか? 貴方の怪我や恰好を見れば深い事情があることと思いますが、何卒お願いいたします……」


 貴族令嬢が頭を下げて頼んでくるとはな……。これは断るべきか? だが、帝国貴族の後ろ盾ができるかもしれない。グラジオラス帝国伯爵家の庇護下に入れば、シードの奴もそうそう手出しはできねえだろう。戦争になっちまうからな。

 それに、俺が加勢しなければこの二人は死ぬかもしれない。女の子が死ぬところは見たくないな……。よし、話しに乗ってやろうじゃねえか!


「分かった……協力……しよう」


「ありがとうございます。噂に高い武神が味方に付けば百人力です」


 喜ぶアカシアの背後から二人の教会騎士が迫ってきた。

 俺がフルールに視線を送ると頷きを返してくる。アイコンタクトを交わした俺たちは左右に分かれて教会騎士の迎撃に向かった。


 フルールと教会騎士が激しく斬り結ぶ様子を見ると、ややフルールが押しているようだ。基本に忠実な剣術は高いレベルに達していて気の扱いもできるようだし、任せても大丈夫だろう。

 俺の相手は盾を前、剣を後ろに構えた防御重視スタイル。相手に攻撃させた隙を突く厄介な戦術だが、俺に通用すると思うなよ!


 俺は相手の盾の外側へと回り込む。常に盾の外側のポジションをキープすることで、相手が剣による攻撃をしにくくなるのに対して俺は盾でカバーしきれないポイントを攻撃できる。戦いは如何に相手の嫌がることをやり続けるかが重要になるんだ。

 俺は教会騎士の周りをサークリングしながらローキックで攻撃していくが、こいつなかなか隙を見せやがらねえ! 剣を振らせた隙を突きたいんだが……。これならどうだ?


 俺がノーガードになり顔をフリフリ舌をベローと出して教会騎士をおちょくってやると「貴様ー!」と激昂して斬りかかってきた。

 こいつ凄え短気! だがな、命のやり取りの最中に切れるなんて愚の骨頂だぜ!


 俺は大振りに振り回した教会騎士の剣をギリギリまで引き付けて躱すと、体勢を崩した隙をついて腕を絡め取りへし折った。悲鳴を上げる教会騎士の首を捻り折って黙らせる。

 こっちは片付いたが、フルールの方は?


「せりゃああ!」


 フルールを見ると教会騎士の攻撃を掻い潜り抜き胴を決めていた。教会騎士は(はらわた)を撒き散らしながらも戦いを止めず、鬼の形相でフルールに斬りかかる。


「なんて奴だ……。しつこい男は嫌われるぞ!」


「フルール……教会騎士は……薬で……恐怖心と……痛みを……麻痺させて……いるぞ」


「誠かローズ殿? それならば!」


 フルールは傷だらけで動きの悪くなった教会騎士の剣を弾き飛ばし、返す剣で首を斬り落とした。

 激戦だったのだろう、肩で息をするフルールは呼吸を整えてから剣を鞘に納める。


「フルール、怪我はありませんか?」


「私は大丈夫です。それよりもすぐに追手がきます。ここは危険ですので早く離れましょう。時間を稼いでくれている団長たちの思いを無駄にしてはなりません!」


 フルールの言葉にアカシアは唇を噛みしめている。きっと逃げることしかできない自分が悔しいのだろう。今の俺の状況と似ているな。他人ごとに思えなくなってきたぜ。


「行く……あては……あるのか?」


「わたくしの父、ピアニー子爵がカサブランカ辺境伯の下に遠征中ですので、カサブランカ辺境伯領へ向かう予定です」


「では……道中……事情を……聴かせて……くれ」


 辺境伯なら俺の傷を治せるようなポーションや回復術師にあてがあるかもしれないな。

 俺たちはカサブランカ辺境伯の下へ急ぐことにした。

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