20.勇者パーティーの終わり
夜会の翌日、俺はグラディウス陛下と会う為帝国城を訪れる。
応接き室に通されしばらく待つとグラディウス陛下が入ってきた。
「待たせたな。早速だがローズ、お前宛にシベリアン王国から書状が届いている」
「王国からですか? 追放した私に何用でしょうか?」
「国外追放の罪を解くから戻ってこいと言うことだが、どうする?」
自分たちでゴミのよう放り出しておいて、今更なんの冗談だよ。
そんな書状で俺がホイホイ戻ってくるとでも思ったのか? どこまでも俺のことをバカにした国だな。
「もちろん戻りませんよ。あの国と勇者シードに復讐することは、私の悲願の一つです」
「そうか、なら戦だな。ローズ、我が軍に加わってくれるか?」
「喜んで!」
「では、書状の返事をもって宣戦布告としよう。ローズ、働きに期待しているぞ」
さすが大陸に覇を唱えるグラディウス陛下だ。話が早い。
勇者よシベリアン王国よ。決着をつけてやる! 今更戻ってきてくれと言っても、もう遅い! 首を洗って待っていやがれ!
◇◇◇
時が流れグラジオラス帝国から宣戦布告の書状を受け取ったシベリアン王国では戦に向け緊急会議が開かれていた。
書状には、我が盟友ローズの恨みを晴らすと記載されていた。
「どうするのだ宰相? 帝国に勝てる見込みはあるのか?」
「シベリアン王国だけでは難しいでしょうな。帝国と敵対している友好国に助力を願うべきかと」
「そうか、こんな時ローズがいれば皇帝の暗殺でも頼めたかもしれんのにな。まさか敵国につくとは……」
ローズが戻ってくるどころか敵に回ったことを嘆く国王に、宰相と勇者シードは顔を引きつらせる。
この国の実権を狙っていた二人だが、帝国に敗れれば王国はなくなり自分たちの身もどうなるか分からない。
「籠城して時間を稼ぎ、援軍を待つのです。すぐに各国へ書状を送りましょう」
「そうか、任せるぞ宰相」
「お任せください」
こんな時でも人任せな国王に呆れるが、口を出されても面倒なだけだと二人は気持ちを切り替える。
「父上、策はあるのですか?」
「カトレア聖国に助力を求めるしかあるまい。グラジオラス帝国に対抗できるとすればあの国だけだ」
「しかし、あの国に助けを求めるとなると何を要求されるか……」
カトレア聖国は報酬次第で傭兵稼業も請け負う国であるが、絶大な力を持つ国なだけにその報酬は高い。
金であったり労働力であったり報酬は何でも受け取るが、特に女性を好む国である。
それも、若く器量が良いほど高く買い取る国だ。
勇者シードはフェミニストである為、そんなカトレア聖国を嫌っているが背に腹は代えられない。
頼れるところに頼らなければこの国は終わりだ。
自身の野望の為には我慢するしかなかった。
「クソッ! ローズの奴が皇帝に取り入ってこの国を裏切ったばかりに!」
「これはお前がローズを取り逃がしたことにも責任があるのだぞ。この戦を乗り越えたら責任は取ってもらうぞ」
「そんな……父上……」
怒りを爆発させるシードに宰相ザートは冷たく言い放った。
自分の地位を脅かす息子の力を削ぐ為でもあり、八つ当たりでもある。
とにかく、グラジオラス帝国が攻めてくるのは時間の問題である為、戦の準備を急がなければならないのであった。
「おかえりシード。会議はどうだった?」
「お父様のことです。どうせたいしたことではないと思いますが」
「ああ、ローズの奴が王国を裏切って帝国についた。これから帝国と戦争になるそうだ」
忌々しそうに説明するシードに、アネモネとアイリスは眉間に皺を寄せ顔を顰める。
グラジオラス帝国と戦をするということは、この国の終わりを意味すると二人には分かっていたのだ。
「帝国と戦争して王国が勝てる訳ないじゃない!」
「まず負けるでしょうね。帝国は占領した国の王侯貴族は皆殺しにすると聞きます……」
絶対に負けると絶望する二人に、シードはまだ手はあると語りかける。
「大丈夫だ。父上がカトレア聖国に救援要請を出す。強大な帝国と言えど聖国相手には簡単には行かないだろう」
「シード! あんた、聖国が助けた国にどんな要求してくるか分かってんの?」
「聖国に助力を求めれば、例え勝てたとしても全てを奪われるでしょうね」
「そ……そんなバカなことが」
カトレア聖国は強欲な国だ。弱みを見せれば全てを奪って行く悪魔の国である。
聖国が特に重要視する若く器量の良い女性に当てはまるアネモネとアイリスは自身の未来を想像して顔を青くした。
「あたしは酷い目に遭う前にこの国を出て行くわ。命が惜しいもの!」
「わたくしは王家の隠れ家に避難させていただきます。アネモネ、良ければ一緒にどうかしら?」
「いいの? やったあ! アイリス好き好き好き!」
「ま……待ってくれ。勇者パーティーを抜けると言うのか?」
シードは国を捨て逃げようとする二人に縋るが、国より自分の命が大事な二人は待つ訳がなかった。
「勇者パーティー? そんなものはもう終わりよ」
「シード、貴方の国盗り物語も終わりなのよ」
冷たく言い放ち去って行く二人を見送りながらシードは考えていた。
「誰のせいでこうなった? そうだ……ローズだ! あいつが悪い、全部あいつのせいなんだ!」
全ての罪はローズにあると考えたシードは決意する。
あいつだけは、ローズだけは許さないと。