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18.夜会2

「皆の者、面を上げよ!」


 グラディウス陛下が顔を上げる許可を出すと貴族たちは一斉に上層階を見上げる。

 帝国貴族といっても皇帝や皇族に会う機会などそうそうないから目に焼き付けるように見ているな。


「皆の者、よくぞ集まってくれた。本日夜会を開いたのは皆に紹介したい人物がいるからだ。先日のカトレア聖国の侵攻は知っているな? そのカトレア聖国の侵攻を撃退し、ピアニー子爵家のアカシア嬢を守った英雄を紹介したい」


 あれ、これって俺のことだよな。こんな大勢の前で紹介されるなんて聞いてないぞ!


「英雄武神ローズ! 前に出てくるのだ!」


「おおおおおぉぉぉぉおおおお!」


 やっぱり俺のことか! 周りも盛り上がってるし前に出ない訳にはいかないか……。

 覚悟を決めて前に出ると俺に視線が集まってくる。


「あれが武神ローズ殿か」


「まだ若いが凛々しい方ですな」


「カトレア聖国の大司教を撃退したと噂の男か」


 俺もつくづく単純な男だ。沢山の帝国貴族に褒められると嬉しくなる。

 だが、俺の気分を良くさせて懐柔しようと考えてる可能性もある。

 腹の探り合いに自信はないが、油断大敵だ。


「カトレア聖国の大司教を撃退した英雄を平民だからと侮ることは許さんぞ。我が帝国は実力主義だ。ローズが武功を挙げるなら、爵位くらいすぐに取ってしまうだろうな。私の話は以上だ。今宵の夜会を存分に楽しむのだ」


 グラディウス陛下がそう締めると夜会が正式に始まり、注目を集めた俺のもとに貴族たちが集まってきて応対に追われた。

 助けてくれアカシア! ピアニー子爵! 慣れない貴族の応対に俺の精神がゴリゴリ音を立てて擦り減っていく!

 助けを求めてアカシアたちを見ると、向こうも他の貴族と応対に追われている。

 四面楚歌の状況だったが意外なところから助けが入った。


「ローズ、ちょっといいか? 紹介したい者がいる」


「はい! 喜んで!」


 グラディウス陛下から指名が入った。

 一国の主の応対も疲れるが、初対面の貴族に囲まれているよりは良い。


「こいつは俺の三番目の娘でコロナリアだ」


「ローズ様、お初にお目にかかります。第三皇女コロナリアと申します。噂の武神ローズ様に会えて光栄ですわ」


「これは皇女殿下、私の方こそお目にかかれて光栄です」


 グラディウス陛下も娘を紹介してきたが、そんなに俺のことを買ってくれているのか?

 帝国の皇帝は実力主義だと噂には聞いていたが、シベリアン王国の連中にも見習ってほしいものだ。

 俺はあの国では全く評価してもらえなかったからな。

 しかし、コロナリア皇女殿下か、歳は十五才前後の少女だが、こんなに美しい女性を見たのは初めてかもしれない。

 アカシアもフルールも美しいが、あの二人は一緒に逃亡劇を乗り越えた仲間って感じなんだよな。


「聞きましたよローズ様。帝国最強と謳われるアドニスと引き分けたそうですね。わたくし、強い殿方が大好きですの」


「アドニス殿との戦いは模擬戦でしたので、お互い本気で戦えば勝敗がどうなるか私にも分かりません」


 この子、見た目は麗しい少女だが小悪魔のような笑顔を見せるな。

 とんでもなく可愛いんだが、何か底知れない物を感じるぞ。

 さすが皇族といったところか。


「ローズ様は謙虚なのですね。そんなところも素敵ですよ」


「コロナリアはローズのことがお気に入りで紹介しろとうるさいのだ。親の贔屓目を抜きにしても美しい娘だと思う。私はローズであればコロナリアと婚姻関係を結んでも良いと思っているぞ」


「まあ、お父様ったら気が早いですわ。まずはローズ様が武功を挙げて爵位を持たなければ、皇族との婚姻はむずかしいのではないかしら?」


 えっ、それはつまり位の高い帝国貴族になれば、コロナリアと結婚しても良いってことか?

 コロナリア程の美少女が相手なら多少腹に一物抱えていようと、俺は清濁併せ吞む覚悟があるぞ!


「お気持ち大変嬉しく思います。もしシベリアン王国と戦をする際にはこの力存分に発揮させていただきます」


「其方とシベリアン王国の確執は聞いている。その件に関してなんだが、話があるので明日にでも城にきてくれぬか?」


「承知しました」


 なんの話があるんだろう? すでに戦の予定があったとか?

 分からないがそれは明日聞けば良いだろう。


「それでは、私は他の者とも話があるので失礼する。ローズよ、コロナリアのエスコートを頼んだぞ」


「お任せください」


 グラディウス陛下は満足そうに去って行った。

 まさか皇女殿下のエスコートを任されるとはな。


「ローズ様、よろしくお願いいたしますわ」


 俺の目を見つめて悪戯っぽく笑いかけてくるコロナリアに見惚れてしまった。

 くっそおぉぉ、可愛いな!

 なんでその歳でそんな妖艶な微笑みなんて表情ができるんだよ!

 コロナリア、恐ろしい子だ。

 考え事をしていると会場に音楽が流れ始める。


「ダンスが始まるみたいですね。ローズ様、わたくしたちも踊りましょう」


「はい、喜んで」


 ついにきたか、ダンスの時間!

 この時の為に、俺はアカシアに扱かれたんだ。

 俺は覚悟を決めてコロナリアとのダンスに挑むのだった。

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