17.夜会1
帝国城に到着すると、隣接している社交館の控室に案内された。
社交館は帝国貴族のイベントを行う館である為、兵の訓練場程ではないが、かなり大きな建物だった。
夜会の参加メンバーは俺、ピアニー子爵、アカシア、フルールの四人だ。カサブランカ辺境伯も後でくるだろう。
「アカシア様、ドレス姿が本当にお似合いで、とてもお美しいです」
「まあ、フルールったら。口が上手いわね。貴方もとても似合っているわ」
すっかりバカップルになっている二人に嘆息するが、事実パーティードレスに身を包んだアカシアは美しい。
アカシアは元々可愛いが、着飾ることによって妖精のような可憐さと儚さを併せ持っていた。
でも、なんでフルールは男装なんだ? まあ、護衛としてきているからドレスじゃいざという時戦えないもんな。
しかし、フルールは男の俺も見惚れてしまう程イケメンだな。
正直悔しいぜ。
「まあまあ、ローズ殿。今夜の夜会には帝国の貴族令嬢も沢山参加するから仲良くなると良い。ただし、結婚を考えるなら相手選びは慎重に行うんだぞ」
「俺はまだ十七ですし、貴族でもないので結婚は早いかと」
「実力のない男ならそうだが、ローズ殿程の男ならすぐに武功を挙げて貴族の爵位も取りそうだがな。いきなり結婚でなくとも、婚約からでも良いのだぞ」
ピアニー子爵がやたら結婚の話をしてくるが、貴族にとっての結婚は家と家の結びつきを強くする大事なことだからしょうがないか。
俺にはまだ早いと思うんだけどな。
貴族になって領地を治めるより、俺は世界に冒険や武者修行の旅に出たい。
「ローズ殿の知名度は帝国でもかなり上がっている。婚約狙いの貴族令嬢たちが放っておかんだろうから、結婚する気がないなら気を付けることだ」
「忠告感謝します」
貴族令嬢にも狙われる存在になったということか、嬉しいような怖いような……。
しかし、貴族でもない平民の俺にそんなことがあるのかな?
雑談をしていると部屋の扉がノックされた。
「失礼いたします。皆様、会場入りのお時間です。ホールまでお越しください」
警備の兵士が夜会の開始を伝えにきたようだ。俺たちは揃ってホールに向かった。
会場となる一階ホールは贅の限りを尽くした豪華な装飾が施されていて、帝国の権威を誇示している。
今夜の夜会は立食形式で、すでに大勢の王侯貴族が集まっていた。
広い会場に千人は集まっているが、なんでも三千人くらいは収容できるホールなんだとか。
立食形式の御馳走が並び、給仕がドリンクを配っている。
俺たちが会場入りするとホール内がざわめいた。
「ピアニー子爵たちがきましたよ」
「ほう、ではあれが噂の武神ローズ殿ですか。さすが凛々しい男ですな」
「アカシア嬢も更に美しくなっているな」
本当に俺たちの噂をしてるぞ。
貴族の会話のイメージは自慢話に腹の探り合いだと思っていたが、俺たちが話題にされると何だか照れ臭いな。
だが、こういったパーティーの席では爵位や影響力の高い者ほど後から会場入りするものだ。
上位貴族や王族はまだ入場していないだろうし、俺の話題が出るのも今のうちかな。
俺が考え事をしていると恰幅の良い男性貴族が話しかけてきた。
「久しぶりですなピアニー子爵。最近の活躍は聞いておりますぞ。一緒におられるそちらの男性が噂のローズ殿ですかな?」
「これはお久しぶりですイポメア男爵。辺境の領地故あまりパーティーに参加することもなかったのですが、幸運にもこちらの武神ローズ殿と知り合う機会がありましてな」
ピアニー子爵の貴族仲間かな? イポメア男爵と呼ばれた恰幅の良い男は、着飾った若い娘を連れて現れた。
おそらく、自分の娘を連れて夜会に参加しているんだろうな。
こういったパーティーは婚姻の相手を探すって役割もあるから、よく見れば娘や息子を連れた貴族がお互いに紹介し合っているな。
「初めましてローズ殿、私はイポメア男爵家当主、ポット・イポメアと申します。こちらは娘のマリィです。歳も近いようですし、仲良くしてやってください」
「初めましてローズ様。お会いできて光栄ですわ」
「あ……ああ、私もお会いできて光栄です」
なるほど、ピアニー子爵が気を付けろと言ったのはこれのことか。
俺が対応に戸惑っているとピアニー子爵とアカシアのフォローが入りなんとか切り抜けることができた。
「しっかりしてくださいローズ様。今日はこんな対応が続くのですよ」
「そうだぞ、多くの者と婚姻を結ぶのは構わんが大変なことも多いと聞くぞ」
さすが貴族、複数の者と婚姻関係を結んでも良いのか!
だが、それはピアニー子爵の話通り大変そうだな。骨の髄までしゃぶりつくされそうだ。
「皇帝陛下、皇族の皆様、御入来!」
俺が来場貴族の娘攻撃を受けていると、司会役の貴族が皇族の入場を告げた。
会場は一気に鎮まり返り、皇族の登場を待っている。
さっきまであんなに賑わっていたのに、帝国貴族は良く訓練されているな。
上層階の扉が開き、皇族が入場してきた。
グラディウス陛下の隣は皇后かな。後ろに続くのは皇子と皇女か? 皇子が二人に皇女が三人、歳は俺と近い人もいるな。
皇族を見上げる俺は、周りが頭を下げていることに気が付き、何事もなかったようにそっと頭を下げるのだった。