13.帝都観光
「フルール、良かったら訓練に付き合ってくれないか?」
「すみませんローズ殿、これからアカシア様と買い物に行くんです」
「あら、よろしければローズ様もご一緒にいかがですか?」
「いや、止めておこう。俺も町を観光してくるよ」
ピアニー子爵の屋敷に到着して、夕食まで時間が空いたから一緒に訓練しようかと思ったんだが振られてしまった。
アカシアが一緒に行かないかと誘ってくれるが、隣にいるフルールに凄い顔で睨まれたので断るしかない。「来るなよ!」って顔に書いてあるよ。怖い怖い。
時間を持て余した俺は一人で町を観光することにした。
貴族街を出て町の中央に位置する目抜き通りを歩く。シベリアン王国とは街並みが結構違うんだな。しっかりと区画整理されて迷いにくいし、何より住民に活気があるのが良い。皇帝の政治が上手く行ってるってことかな。
帝国は戦争で大きくなった国だが住民を徴兵しないで兵はみんな職業軍人らしいし、民は戦争に参加しないから平和そうにしてるってことか?
俺が帝国を考察しながら歩いていると曲がり角で誰かにぶつかってしまった。
「すまない、大丈夫か?」
「こちらこそすまない。私は大丈夫だ」
歳は二十代前後で茶髪。着ている鎧は帝国正規兵の物に近いが、色は黒く意匠が凝らされた業物に見える。通常の帝国兵の鎧はデザインは同じだが銀色だ。
強いなこの男。強者の匂いがぷんぷんしやがる。そもそも俺がちょっと考え事をしてたくらいで人とぶつかる訳がないんだ。同じ方向に避けてしまったか?
俺は訝し気に男を見るが、特に気にした様子もなく男は立ち去って行った。
世界は広い、あんなに強い男が普通に町を歩いているとはな。勇者シードなんかよりよっぽど強いはずだ。
ちょっと良い鎧を装備してたし、まだ若かったが帝国軍の幹部なのかもしれない。明日城で会ったりするかもな。
気を取り直して観光を楽しもう。明日から帝国の偉い人たちに会ったりで気疲れするのは確定なんだからな。
町の散策を再開すると今度はアカシアとフルールの姿を見かけた。広い町だがここは一番栄えてる中央部分だからばったり会ったりもするか。って、あの二人手を繋いですっごい幸せそうな顔で歩いてるな! なんか俺の中で何かが芽生えそう。この気持ちは何? これが……尊いってことか!
これは二人の邪魔をするわけにはいかないな。
そう言えば昔……あれは勇者パーティーにいた頃だったな。
魔術師のアネモネと第三王女のアイリスが同じように手を繋いで歩いてたんだよ。俺は仲が良いなと思って見てたんだ。そしたら俺に気付いた二人が何したと思う? ゴミを見るような目で俺のことを見てくるんだよ! 「このゴミ虫が、薄汚い目で私たちを見ないでくれる?」その時俺にはそう幻聴が聞こえたんだ。
もちろんアカシアとフルールはそんなこと言わないのは分かっているさ。あの二人は良い人間だからな。
だが、人には声を掛けてはいけない瞬間ってものがあるんだよ。何でも邪魔をすると馬に蹴られると聞いたことがある。
さて、大通りは一通り見て回ったんだが大事なことを忘れていた。俺は金を持っていないのだ。
着の身着のまま国を追放されて、その後は逃亡生活だったのだから無理もない。
ピアニー子爵は客分だと言ってくれて食べる物も用意してくれるが、仕事をしてないのに金をくれとは言えないもんな。そんなことを言ったら恥ずかしくて自殺してしまうかもしれない。
そうだ! 明日褒賞がもらえるんだからお金をもらおう! これで文無し問題は解決だ!
本当は土産の一つくらい買ってみんなに感謝を伝えたかったが、明日金をもらってから買いにくるとしよう。
明日からの予定を決めた俺は観光を切り上げてピアニー子爵の屋敷に帰ることにした。
「おかえりローズ殿、帝都はどうでしたかな?」
「初めてきましたが良い町ですね。人間と他種族が共存しているなんてシベリアン王国では考えられませんから」
「我々にとっては当たり前のことだが、あの国は他種族を捕まえて奴隷にしているのだったな。奴隷制度自体は悪いとは思わんが、捕まえて無理やり奴隷にするやり方には虫唾が走る」
屋敷に帰りピアニー子爵に挨拶するが、シベリアン王国の奴隷の話になると子爵は眉間に皺を寄せ唇を噛み締める。
奴隷は隷属紋を刻まれることで主人に逆らうことはできないが、犯罪の強要など無理な要求を断ることができるし、睡眠や食事なども保証される。給金も出るので金が溜まれば自分を買い戻すことも可能だ。
もちろん決まりを守らない主人もいるが、全ての奴隷が不幸な訳でもない。一人で生きて行けないから奴隷になるしかない者もいるのだ。
「まあ、あの国には近いうちに借りを返してやりますよ」
「そうだな、戦になれば一番近い私の領が戦いに出るだろうからな」
ピアニー子爵はそう言って朗らかに笑うのだった。
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