12.魔導船空の旅
「帝国は五隻の魔導船を保有しているのですが、この魔導は帝都と帝国の端にある辺境を繋ぐ足として貴族だけではなく、平民も乗れる定期便を月に一度出しています。結構高いので馬車を使うかたが多いのですが」
「今日は陛下からの呼び出しだからな。我々とカサブランカ辺境伯だけが乗船予定の特別便だぞ」
魔導船を見上げて感動する俺にアカシアとピアニー子爵が説明してくれた。
今回帝都に行くのは俺、ピアニー子爵、アカシア、フルールの四人にカサブランカ辺境伯だ。
こっちの護衛は俺とフルールだけだが辺境伯はもう少し連れてくるだろう。それでもこの大きな魔導船に乗るには少なすぎる人数なんだが魔導船を出してくれるとは実に気前がいい。
「お待ちしておりましたピアニー子爵。辺境伯は既に乗船されておりますのでどうぞお乗りください」
カサブランカ辺境伯は先に到着して乗っていたようだな。俺たちも行くとするか。
魔導船の発着陸はある程度の水深がないとできないため、湖に停泊する魔導船までは渡し船で移動する。
魔導船に乗り込むとカサブランカ辺境伯が俺たちを出迎えてくれた。本来なら俺たちから挨拶に行かなければならないんだが、そういう人柄が人気の秘密なんだろうな。
「よくきてくれたローズ殿。今回の召集の主役はローズ殿だから連れて行けなければ陛下の機嫌を損ねてしまうところだった」
「やっぱり怖い人なんですかね?」
「敵に対しては悪魔のようになるが、優秀な味方には正当な評価をする方だぞ」
どうやら皇帝はシベリアン王とは全然違うタイプみたいだな。シベリアン王は人任せで仕事をしないし部下も見ないような人だった。そんなだから傀儡の王なんて呼ばれてたもんな。あの王国はもうじき宰相に乗っ取られるんじゃないか?
「それでは出発します。離陸時は揺れますので席に着いてお待ちください」
発着陸時は揺れるので席に着くよう促された俺たちは指示通り席に着く。
窓から外が見える席に座ってしばらく待つと魔導船が揺れ始めゆっくりと宙に浮く不思議な感覚がしてきた。
おお、浮いてる浮いてる! 窓際の席だから湖から飛び立つところが良く見えるな。
高度が上がり安定飛行に入ると席を立っても良いとのことだが、甲板は危険なので出れないらしく残念だ。
「ローズ殿、空の旅はどうですかな?」
「凄いですね。 初めてなので少し興奮していますよ」
ピアニー子爵が感想を尋ねてきたので正直な気持ちを答えた。魔導船には男心をくすぐる浪漫があるよ。
なんか後ろの席が騒がしいが、何かあったか?
「見てくださいアカシア様! 空を飛んでますよ! 人があんなに小さく、もう見えなくなった!」
「もう、フルールったら。はしたないですよ」
フルールが騒いでたのか、俺と同じで初めて魔導船に乗るんだろうな。分かるぞその気持ち。
しかしこの二人は仲が良いな。背景に花が見えるがこれは多分幻視だと思う。危うく何かに目覚めるところだったぜ。
魔導船に乗って数刻するともうすぐ目的地に到着するとの報告が入った。空の旅も終わりか、馬車だと十日は掛かるから帰りも魔導船に乗って帰りたいな。
帝都から一番近い湖に着水してここからは馬車で移動することになる。
じゃあな魔導船。帰りもよろしくな。
「ローズ殿、帝都の城壁が見えてきましたぞ」
ピアニー子爵の言葉に外を見ると、背の高い城壁が曲線を描き連なっていた。円形の都市をぐるっと城壁で囲んでいるようだな。
城門で検問を行っているが貴族と一緒なので簡単に抜けることができた。どこの国でも貴族は強いのだ。
ここが帝都か、想像してたより人間が多いが噂通り差別なく他種族と共存できているようだな。割合は人間七割、他種族三割といったところか。獣人、エルフ、ドワーフなどの他種族も人間と同じでそれぞれ種族同士集まって国を作っているから人間の国にはそれほどいないな。
帝都を観光したいところだが、俺たちは貴族街のピアニー子爵邸に向かった。帝都にも家があるなんてさすが貴族。
「ローズ殿、この程度たいしたことではないですぞ。貴族の屋敷は城から近い程に価値が高いのです。この辺りの家は男爵上位から伯爵下位の貴族の家ですよ」
「私からしたら家を二つ持ってる時点ですごいですよ」
カサブランカ辺境伯とは途中で別れピアニー子爵帝都邸に到着した。
自領にある屋敷と比べると小さいが、平民の俺から見ればどちらも豪邸に見える。謁見と夜会は明日なので今日の用事は終了だ。
明日のことを考えると少し不安だが楽しみでもある。褒美がもらえるらしいしな。皇帝の機嫌を損ねないよう注意して頑張ろう。