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10.勇者side

 これは武神ローズがカトレア聖国八大司教アスモデウスを撃退した後の話である。

 シベリアン王国では緊急会議が開かれていた。

 復活した武神ローズがグラジオラス帝国に味方し、カトレア聖国の部隊を撃退したと諜報部隊から報告があったためだ。


「まさかローズの体が治り、大陸を荒らす帝国の蛮族共と手を組むとはな。我々への報復があるのではないか?」


 報復の心配をしているのはフロリダ・シベリアン。シベリアン王国の王である。

 悪い噂は聞かないが、勇者や宰相の意見を聞きすぎる傾向があり自分の意思をあまり持たないため一部では傀儡の王などと揶揄されていた。


「王が気に病むことではありません。この勇者シードがいる限り、ローズごときが復活したところで何の問題もありません」


「帝国に書状を送ってはいかがですかな? 国外追放の刑を解くので戻ってくるようにと。平民とはいえ、体が治ればまだ使い道がありますから」


 勇者シードはローズが報復に出ようが問題ないと宣言し、宰相ザート・スペルマは国に戻して使い潰そうと提案する。

 実はこの二人、勇者シードと宰相ザートは親子である。

 シードは平民でありながら勇者である自分よりも強いローズを嫌っていて、ザートは息子を活躍させて勇者シードの人気を高めることでシベリアン王国の実権を握ろうとしていた。


「二人がそう言うのならばローズに帰還せよと書状を送ろう。ではザート、後は任せるぞ」


 シベリアン王はこの件を宰相ザートに任せると会議室を出て行った。

 面倒ごとは宰相に任せておけば良いように処理してくれる。王はいつもこのように政務を行っているので傀儡の王などと揶揄されるのだが、本人の耳に届くことはなかった。


「ローズの復活か。シード、本当に大丈夫なのか?」


「問題ありません父上。何しろ私は奴のボロボロな姿を見ていますからね。医者も再起不能と診断しています。多少治ったところで全盛期の力は戻りませんよ」


 この国でローズの本当の強さを知るのは勇者パーティーと宰相ザートだけだ。冷遇していたローズが他国で武功を上げて戻ってきた時の自分の立場をザートは心配している。そんな父の姿に無様に追放されたローズを知るシードは、今なら自分の方が強いと鼻で笑いながら答えた。


「勇者であるお前の見立てならば間違いあるまい。戻ってきたところで時期を見計らって殺してしまってもかまわんぞ」


「実は奴を追放してすぐに暗殺者を放ったのですが失敗しまして。まったく、雑草のようにしぶとい男ですよ」


「今度はしくじるなよ。この国を支配するのは我らスペルマ公爵家なのだからな。ところで、なぜお前はそこまでローズを嫌うのだ?」


「あの不吉な黒髪が気に入らないのですよ。それに奴が死ねば私がこの国で最強の男になる」


 シードはシベリアン王国で不吉の象徴とされる色を持つローズの髪が気に入らなかった。

 王を傀儡とし、シベリアン王国の支配を目論む親子はローズを使い潰して殺すつもりでいる。すべてはスペルマ公爵家の為に。

 一度は失敗した暗殺だが次はしくじるなと念を押し、二人は楽しそうに笑うのであった。




 会議が終わり勇者パーティと合流したシードは、ローズが他国で武功を上げたので戻るように書状を出すことになったと情報を共有する。

 話を聞いたアネモネとアイリスは忌々しそうに眉根を寄せた。


「あの男が戻ってくるの? またエロい目であたしを視姦する気よ! ああ悍ましい」


「その時は俺が守ってやるさ。あの男が君を見るなら奴の目を潰してあげよう」


「それは素敵なプレゼントだわ。武神の眼球があれば研究が捗るかも」


 勇者パーティーの魔術師アネモネは自身のナイスバディを抱くようにして震える。

 そんなアネモネを見かねたシードは罰としてローズの目をくり抜いてやると慰めた。

 生き物の眼球は魔術の触媒に使われるアイテムであり、武神の眼球ともなればその価値は計り知れないだろう。


「シード、あの男は必ず私のことも飢えた獣のような目で見てきます。罰を与えるべきではないかしら? 放っておけば私に何をしてくるか分かりません……」


 シベリアン王国第三王女であるアイリスは、自分もローズにいかがわしい目で見られていると嘆いて罰を与えるべきだと主張した。

 身震いしながら怯えるアイリスにシードは怒りを露わにする。


「クソッ! ローズの奴、王女であるアイリスのこともそんな汚らわしい目で見てくるのか? じゃあ、もう片方の目もくり抜いてしまおう。目がなくなればあの男も君たちをいやらしい目で見れないだろう? アイリスも奴の眼球が欲しいかい?」


「そんな汚い物いりませんわ。欲しかったらアネモネに上げますよ」


「えーっ! いいの? やったー! ありがとうアイリス!」


 二人の為に両目をくり抜いてやると鼻息を荒くして宣言するシードだがアイリスは回復術師であり、魔術の媒体にならない眼球はアネモネあげることにする。

 眼球が両目とも手に入ることにアネモネは飛び上がって喜び、アイリスに抱き着いて感謝を伝えた。


「もう、アネモネったら。そんなに強く抱きしめられたら苦しいですよ」


「ありがとうアイリス! 好き好き好きー!」


「君たちは本当に仲が良いな。そうだ、どうせ後で殺すんだし体はアネモネにプレゼントしようじゃないか。アイリスには俺が王になったら正妃の座をプレゼントしよう」


「私たちの国盗りも大詰めが近いわね。楽しみだわ」


「ああ、父上になどこの国は渡さないさ」


 勇者パーティーの目標はシベリアン王国を奪うことだった。その目的の為にシードは王や宰相である父に従順な振りをし、自分よりも強く邪魔者になりそうなローズを消そうとしたのだ。

 勇者パーティーの国盗りがどうなるのかは、もう少し先のお話である。

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