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1.武神は勇者に裏切られた

「魔王よ! お前はここで俺と死ぬんだよ!」


「武神ローズよ! 貴様我と自爆する気か!」


 俺はローズ、勇者パーティーの武術家だが十七才にして武神なんて称号で呼ばれている。

 俺たち勇者パーティーは魔王との決戦でダメージを負い、まともに動けるのは俺だけになっていた。ここで俺が魔王を倒さなきゃ誰が倒すんだ!

 師匠に教わった最終奥義は自爆技だが、俺は刺し違えてでも魔王を倒さなければならない。

 平和になった後の世界は勇者パーティーの仲間たちに任せたぜ!


「フハハハハッ! 見事なり武神ローズよ! だが我を倒したとて、第二第三の魔王が生まれるのだあああ!」


 魔王がそう叫んだ瞬間俺は体に練り上げた気を開放し、最終奥義カミカゼを発動して大爆発した。

 爆風で宙を舞う俺は、魔王を倒した手応えを確かに感じて意識を失った。




 意識を取り戻すと俺はベットに寝かされていた。

 そばで誰かの声が聞こえるが、これは勇者パーティーのみんなの声だ。


「ローズの奴全身の筋肉がボロボロで、大事な腱も切っちまって再起不能だとよ。伝説の武神様もこうなっちまったらお終いだなあ」


 これは勇者シードの声だな。勇者パーティーの男は俺とシードだけだ。

 金色の長い髪から黄金の勇者と呼ばれる男だが、今なんて言った? 再起不能?

 俺は体に力を入れてみるが感覚がない。まるで四肢欠損でもしているかのようだ。


「あたしローズって嫌いだったのよねえ。だってエロい目で見て来るんだもの。絶対あたしの体を狙ってたわ」


 今の声は魔術師のアネモネか?

 肩で切りそろえた外ハネボブヘアのナイスバディな少女だ。

 なんか嫌われてる気はしてたが、そんな風に思ってたのかよ!


「それ分かります! この男は私を獣のような目で見ていましたもの。汚らわしい男……。私本当はずっとこの男が怖くて……。」


 この声は回復術師のアイリスの声か?

 長い銀髪の清楚な見た目で、この国の第三王女。

 確かに可愛いと思って見てたことはあるが、それは酷くないか……。


「二人に提案があるんだが……。この後王との謁見だろ? 魔王を倒したのは俺たち三人ってことにしないか? こいつは早々にやられて役立たずだったことにしてよ」


 シードの奴何言ってんだ。魔王は俺が命がけで倒したんだぞ!

 二人だってそんなバカな話に乗るわけないだろ! ……乗らないよな?


「ナイスアイディアじゃないシード! さすが勇者ね、あたしは乗ったわ。アイリスはどうする?」


「私も勿論乗ります! むしろ、口封じに殺しておいた方が良いのではないかしら?」


「それもそうだな。殺しとくか」


 乗りやがった! こいつらサイコパスかよ! ヤバイ殺される!

 死を覚悟した時、扉がノックされ人が入ってきた。


「勇者パーティーの皆様、迎えに参りました。馬車を用意していますので王城までお越しください」


「おっと、もうそんな時間か」


「続きは戻ってからね」


「この男は意識もないですし、どうせ体も動かないので逃げる心配もありませんから、先に王に報告に行きましょう」


 奴らはそう言うと、俺の意識が戻って話を聞いていたことに気付かず部屋を出て行く。

 ここにいたら殺されると思いながらも体力の限界だったのだろう、俺は意識を失ってしまった。




「起きろ! この役立たずが!」


 誰かに殴られた刺激で俺は目を覚ました。

 これはどういう状況だ? 俺は兵士と勇者パーティーに取り囲まれていた。


「元武神ローズよ! 貴様を勇者パーティーの魔王討伐妨害の罪で国外追放とする! 今から十日後にシベリアン王国で国内指名手配される! 十日後までに死刑にされなかったことを感謝して、国から出て行け!」


 兵士のリーダー格の男が俺に向かって叫ぶ。

 そうだ、俺は勇者パーティーの仲間に命を狙われて、逃げようとしたが限界で意識を失ったのか。

 いや、もう仲間じゃない。そもそも初めから仲間なんかじゃなかったんだろうな。


「わ……分かった……。出て……行く。すこ……し、準備……させて……くれ」


「貴様に持たせる物など何もない! 町の外まで連行する!」


 なんて奴らだ、こいつら着の身着のまま俺を放り出すつもりか!

 ここで真実を訴えたところで無駄だろう、アイリスは王位継承権こそ高くないがシベリアン王国の王女だ。俺の言葉など黙殺されるだけだろう。

 俺は兵士に手首と腰をロープで拘束され部屋を出て行こうとするが、怪我で上手く話せないし、気で体を強化しても動くのがやっとだった。


 チラリと勇者パーティーの方を見ると侮蔑、愉悦、軽蔑入り混じった醜悪な表情をしていた。

 俺は何のために命を懸けて魔王を倒したんだ……こんな奴らに褒美や手柄を取らせる為なんかじゃない……この国に住む人たちを守る為だ。

 俺は民の為だと自分に言い聞かせ、兵士に引きずられながら宿を出て行った。


「おい、武神ローズだぜ」


「あの勇者パーティーを妨害したって男か?」


 兵士にロープで引きずられながら町を歩いていると、俺を見た町の住人たちの声が聞こえた。

 これは嫌な予感がするぞ。


「おい、ローズ! 何が武神だ! お前なんて邪魔者の犯罪者じゃねえか!」


「国外追放なんだろ? 顔も見たくない、早く出て行けよ!」


 ちくしょう、嫌な予感が当たっちまった! 

 俺が住民に取り囲まれると、勇者パーティーの三人が人混みを掻き分けやってくる。こいつら何しにきやがったんだ。


「王都シベリアンの住民たちよ、どうかローズを許してやってくれないか? 彼は実力がないから我々勇者パーティーに寄生し、甘い汁を啜ることでしか生きて行けなかっただけなんだ!」


 何言ってんだこいつは、俺より弱かったくせに。

 そう思った俺は、シードの狡猾さに気付いていない甘ちゃんだったようだ。


「あんな寄生虫野郎を許してしまうだなんて……」


「なんて寛大な心をもっているんだ。勇者シードよ、貴方こそ勇者の中の勇者、キングオブ勇者だ!」


 クソ! すぐに俺を殺さなかったのは人気取りの為か!

 何がキングオブ勇者だよ! シードの野郎はただの卑怯者のクソ野郎じゃねえか!

 勇者パーティーの登場によって城門までの道が開けられると、俺が兵士に引きずられながら惨めに町を出て行く姿をシード、アネモネ、アイリスの三人が笑いながら見物していた。


 この国を命を懸けて守ったのに……この仕打ちは何だ!

 俺は勇者パーティーの三人を許さない。簡単に騙された国も民も同罪だ。

 俺は絶対に許さない……絶対にだ!

読んでいただきありがとうございます。


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