3歳児の日常 〜バーバと一緒編〜
3歳児生活 3部目
ここで初日の生活編終わらせたかった・・・
一所懸命に、書き方練習帳に向かう〝世良〟を
マリアはしばらく見ていたが、
大人しく勉強している息子の邪魔をしてはいけないと
静かに居間を出て、昼食の準備に向かった。
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50文字のひらがな練習を終えると、
「フゥ」とマルズは小さな椅子の背に、もたれ掛かった。
3歳児の手で〝えんぴつ〟を使い続けるのは結構、面倒くさい。
持ちやすい様に工夫された筆記具でコレである。
マリアが学習補助の為に持って来ていた、大人用の〝えんぴつ〟を
鑑定する。
表示は〝鉛筆〟
一方、自分の使っていた物は〝幼児用えんぴつ〟と
表示される。
マルズには前世の記憶があり、日常的なモノに【鑑定】は
必要無いはずなのだが、生活基盤が違いすぎて、〝世良〟の
記憶との併用、擦り合わせが必須なのだ。
ふと、手元を見ると小さな手には赤いマメが出来ている。
強くえんぴつを握り続けてしまったのと、長時間同じ物を持ち続けた所為だ。
3歳児の体は、ままならない・・・
【ヒール】
と、小さく唱え、マルズは〝血まめ〟を治しておく、
〝世良〟は運動は好きなのだが、血まめを作るほど文字の勉強には
熱心では無かった。
〝世良〟と〝マルズ〟の整合性の為と、魔法の確認も兼ねて
マルズは【ヒール】を試してみたのだ。
【鑑定】と同じく【ヒール】も無事発動、
キレイに治った手を見て、「よちっ」と小さくガッツポーズ
〝さしすせそ〟の発音が〝たちつてと〟になってしまっているのは、
3歳児仕様なので仕方がないのだ。
【ヒール】の成功に上機嫌で、自分の勉強道具を箱に片していた時、
チャイムが鳴る。
『リーンゴーン』
重めのチャイムの音は、来客を知らせる玄関チャイムだ。
〝世良〟は誰が来たのかが分かって、急いで玄関へダッシュする。
マルズ的には、その〝客〟とは初対面だが、熱前の〝世良〟の大好きな人物だ。
自然と体が動いてしまう。
玄関の鍵を背伸びで外し、扉を押しあける。
「バーバ いらっしゃい」
開いた扉を支え、大きく開けると、アメリアが
〝世良〟を抱き上げる。
「ハーイ 天使ちゃん お熱はもう下がったの?」
「うん もう平気」
抱き上げた〝世良〟の両頬にアメリアが「チュッチュ」と軽くキスをする。
「マリア 荷物出し手伝ってくれる?」
いつのまにか玄関に来ていたマリアが
「OK」
と軽く返事をして、アメリアから車のキーを受け取りガレージに向かう。
「世良ちゃんは、バーバとダイニングに行きましょか?」
〝世良〟はブンブンと頭を振ってアメリアの申し出を断った。
「おかたじゅけちゅう なの」
「あら、偉いわね じゃリビングに行けばいいのね」
抱っこのまま移動しようとするとアメリアに〝世良〟は
「じぶんでいくの」
と、言って腕から降ろしてもらい、テコテコと自力で居間に向かう。
アメリアは、チョロチョロ動く幼児の動きに、ちょっとニヤケながら
後に続いて居間に向かう。
「今日は何のお勉強してたの?」
「ひあがなのかきとり」
さっき道具箱に片した練習帳や、えんぴつをもう一度
ローテーブルに出して、今日の勉強の成果をアメリアに
報告する。
練習帳を手に取ってアメリアは次々とページをめくって行く
「!!凄い!! 全部終わってるじゃない!」
褒められて〝世良〟は鼻、高々で思い切り胸を反らす。
頭が重すぎて反らした後、少しヨタったのは、ご愛嬌だ。
なぜ、こんなに〝世良〟がアメリアに懐いているのかと言えば、この道具箱の
中の勉強道具をプレゼントしてくれたのが、この祖母だからだ。
他にも、自室にある〝図鑑〟や〝絵本〟など、幼児用の品物の
殆どが、祖母からのプレゼント。
母、マリアは、おっとり天然系で、幼児の教育にはあまり熱心で無く、
洋服などの日用品には関心が高いが、幼児用勉強道具などは全て、
この祖母に任せていた。
祖母は私立幼稚園の園長先生だ。
褒めて伸ばすのはお手の物。
そんなアメリアに、〝世良〟は懐きまくっている。
「あぁ また、ママと世良ちゃんがイチャイチャしてる〜」
祖母の買って来てくれた、買い物の荷物を運び終えたのか、
マリアが居間に入って来た。
アメリアは丁度、ソファに抱き上げた〝世良〟を撫で回しているところだ。
「ちょっと マリア これ見てみて」
〝世良〟を撫でるのをやめた、アメリアが、マリアに〝書き方練習帳〟を
手渡す。
「凄い 全部終わってる・・・」
「熱前には、2・3枚しか進んで無かったわよね?」
「今日は何か熱心に、取り組んでたとは思ったケド・・・」
二人の驚愕の表情に、マルズは自分の失敗にようやく気がついた。
・・・やり過ぎた・・・
早く文字が書けるようになりたいと、血まめが出来るほど集中して
練習帳を終わらせてしまったのだ。
3歳児の出来うる範疇は軽く越しているだろう。
恐る恐る母と祖母を見ると、
「やっぱり 世良ちゃんは、天才だわ」
「そうね、天使ちゃんは天才だわ」
この親にしてこの子有り。
幼児教育に詳しい筈の祖母も、マルズの異常な行動を〝天才〟で片ずけてしまう。
弁解の必要も無かった事に、マルズは心の中でホッとした。
「ママも、お昼食べて行くでしょ?」
「もちろん ご相伴に預かりますとも」
「バーバ お昼 いっしょだね〜」
アメリアが一緒なのが嬉しくて、
満面の笑顔を向ける〝世良〟
「う〜ん 天使ちゃんは ホント食べちゃいたい位、可愛いわ」
〝世良〟の両頬を両手で、もにもにしながらアメリアが怖いことを言う。
もちろん〝世良〟にはその言葉が比喩的表現だとゆう事は分かっているが、
実際に、マルズはヒト種を捕食する〝魔族〟がいる世界からの転生者だ。
一瞬、顔が強張ってしまった。
「世良ちゃんったら 本当に食べたりしないわよ
ま、ママはちょ〜っと魔女っぽいからね〜」
マリアの方がヒドイ。
「まじょいるの?」
熱前に読んで貰っていた童話〝ヘンゼルとグレーテル〟には、
確か魔女が出ていたはずだ。
魔女が居るなら魔術も有るのでは?と
単純に聞き返してみる。
「う〜ん ママの知り合いには居ないと思うわ」
マリアはちょっとだけ考えるフリをして、〝世良〟への返答に
お茶を濁した。
相手は3歳児、サンタクロースも信じるお年頃なのだ。
キラキラした目を向ける我が子の夢をブチ壊す気にはなれなかったのだ。
この事が後々、尾を引いて来るとは思うまい。
3人はダイニングへ移動し、昼食をとる事にした。
メニューは 〝カルボナーラうどん〟
〝世良〟用の小さなボールーどんぶりには、食べ易く
小さく切ったうどん。
マリアとアメリアのどんぶりには、普通のうどんが入っている。
3人が席に着き、朝食の時と同じ様に
「「「頂きます」」」と言って、食べ始める。
只の黄色い麺にやや期待を裏切られた気分のマルズだったが、
一口、フォークで掬って口へ運ぶと
「おいちい!」
と、パクパク食べた。
黄色のソースは何を使っているのかさっぱり分からなかったが、
とにかく、濃厚で複雑な味わいだ。
ほんのちょっぴり入ったベーコンがソースに絡み
凄く良いアクセントになっている。
「慌てて食べるからよ〜」
気がつくと、どんぶりの中は空に、口の周りと手がベタベタになってしまった。
笑いながらマリアが〝世良〟の手と、口を拭いてくれる。
母も祖母も既に食べ終わっていて、懸命にうどんと格闘する〝世良〟を
見守っていたのだ。
「うぅ〜」
少し強めに口周りを拭かれて、〝世良〟の口から呻き声が出る。
「お洋服にも付いてるし、シャワーの方が早いんじゃない?」
「そうね・・・」
口元を拭く手を止め、改めてマリアが〝世良〟を見る。
服には勿論、何故か髪にまでカルボナーラのソースが飛んでいる。
マリアは子供用の椅子から〝世良〟を降ろすと、テーブル周りだけ拭いて
「ママ 片付け頼んでいい?」
「OK」
軽くアメリアに声をかけ、〝世良〟の後ろから両脇を支えて、
そのままバスルームに連れて行った。
「ハイ バンザーイ」
朝と同じ掛け声に、〝世良〟が両手を挙げ、上着が脱がされる。
今度はちゃんと、下着は着たままだ。
なので、マリアがもう一度、「バンザーイ」と言って、下着も脱がす。
下は自分で脱いで、洗濯カゴに入れる。
風呂前の行動も〝世良〟の記憶にちゃんと有る。
ガラガラと曇りガラスの引き戸を開け、マリアがズボンの裾をまくって浴室に入る。
〝世良〟は裸でシャワーの前に待機だ。
マリアがカランを動かし、シャワーから出るお湯の温度を確かめる。
「うん 大丈夫 ハ〜イかけますよ〜」
声とともに、〝世良〟は両手で顔をさえ、ギュッと眼をつぶる。
すると、お湯が頭の上から降り注ぐ
雨粒のように体に当たる暖かい水、熱前の記憶でも、お風呂や
シャワーは使っているのに、やっぱり体感すると驚かずには居られない。
シャワーの仕組みが気になり、思わずシャワーの方へ目を向けてしまった。
「ぶへぇっ エフッエフッ」
思い切りシャワーのお湯を飲み、咽せてしまう。
「ほら〜 お顔に手 お目々はつぶって って何時も言ってるでしょ〜」
髪に着いたソースを落としながら、半笑いでマリアが声を掛ける。
分かっていたのに・・・〝世良〟の記憶でも同じような痛い目に合っている。
それも、一度や二度では無い
シャワーの前に立って、自然に顔を覆う動作が出来るくらいに、だ。
興味を引く物に我慢が効かないのは
幼児の所為なのか、マルズの好奇心の所為なのか・・・・
多分、両方だろう・・・・
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シャワーを終え、着替えて居間に来ると祖母 アメリアはTVを付け、
ソファで寛いでいた。
二人が居間に来ると、
「ホラ 世良 バーバが髪、乾かしてあげる」
ドライヤーを構えて、自分の元に〝世良〟を呼ぶ。
〝世良〟はトコトコとアメリアの前に行くと、ストンと足の間にしゃがみ込んだ。
カチッ ブオォという音がして、温風が髪に当たる。
アメリアも慣れた手つきで、〝世良〟の柔らかい金髪を乾かしていく。
昼間、シャワーを浴びるのは、大体祖母 アメリアが来ている時だ。
普段は夜に、母 マリアとお風呂に入っているが、〝世良〟はあまり
お風呂が好きでは無いらしく、ジタバタする〝世良〟を入浴させると、マリアは疲れてしまい、
ドライヤーは父の仕事になっている。
しかし、父は大雑把なのか、幼児の絡みやすい細く柔らかい髪を乾かすのが下手くそなのだ。
その点、祖母は3児の母だ。幼児の髪も手馴れたもので、スイスイと手櫛で、
器用にで乾かしていく。
ふと、マルズはエンデバイヤに残してきた〝ギルズ〟を
思い出していた。
漆黒の闇のような綺麗な毛並み、〝ギルズ〟も風呂が嫌いだったが、
洗った後の魔法の風には、満更でもない顔をしていたな・・・と
つまり、今、正に自分がグルーミングされている気分なのだ。
心地の良い風に、〝世良〟は又、眠りについた。
初日編まだ続きます。
父の影が薄いのではなく、夜編が書けていないのです。
次話はパパも出てきます(^_^)