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4.世界がいつか滅ぶのだと決まっていても

「例え世界がいつか滅ぶのだと決まっていても、俺は今この時に出会えたことに、創造主に感謝する。頼む、惚れた、結婚を、無理なら交際を前提とした友人から、頼む」

「・・・なに、それ」

聖女が茫然としている。


「できれば、どうか」

「ほかに、いう、ことは? ・・・だれか、ねぇ、私と一緒に来た仲間は? エリントティとネフィーよ!」

聖女が仲間の事を思い出してハッと意識を取り戻した。


どうしてもそういう話になってしまうのか。

魔王は苦悩に眉をしかめた。

差し出していた手はまた宙ぶらりんのままだ。

ネコ耳をぺったり伏せさせて、魔王は腕を元に戻した。


「・・・俺の側近たちが相手をしている」

「彼らに何かしたら許さないから!」

「こちらを殺しに来ておいて良く言う・・・」

「そう、だけどっ!」


告白失敗のようだ。

魔王は凹んだ。顔を覆って座り込んで拗ねたい。みっともないのでするわけはないが。


「一目惚れしたんだ・・・」

ポツリと呟いてしまったが、聖女からの返事はない。


魔王はトボトボと、広場から城へと戻った。後ろ、聖女がついてくる。


戻った途端。


「エフィクトさまっ!!」

「探してましたっ!」

聖女の仲間2人を任せた側近たちが走ってきた。


魔王は顔を上げた。


側近の後ろに、トカゲ族人間の騎士風のゴツイ男と、ネズミ族人間の小さいひょろっとした男が小走りでついてくる。


「ん?」

「無事ねっ!?」

疑問に声を上げた魔王の後ろ、仲間の無事な姿に聖女が喜びの声を上げた。


***


「エフィクトさまっ! この人と結婚します! 側近今日で辞めますねっ!」

「はっ!?」

「あたくしも、この、素敵な殿方と暮らしますわ。ごめんなさい、エフィクトさま。あたくし、この城に住んでもいいけど、側近は、無理かも、しれません」

「はぁ!?」

青筋を立てる魔王の向こう、聖女の仲間も聖女に訴えている。


「種族を超えた真実の愛に気が付いた。魔族と共存する暮らしがあるはずだ! 頼む、分かってくれ。俺は地位より名誉より、彼女と共に生きていきたい」

「えっ?」

「申し訳ない、聖女のきみを導くのが僕の役割だというのに。でも、どうしても、駄目なんだ。僕は僕の唯一の宝石を見つけてしまったんだ。ごめん、理解してもらおうとは思っていない。だけど、どうしても伝えたかった。この世にあんな女性がいるなんて」

「えぇ?」

聖女がしかめっ面になっていく。


そして、魔王と聖女を残して、それぞれ想う相手の手を取り合い、抱きしめ、頬を寄せ、愛を囁き、そしてニッコリと魔王と聖女に笑ってきた。

「共存していきましょうよ」


「お前ら、自分たちだけ良い感じに・・・。俺だって」

悔しそうに呟き、魔王はチラリと聖女を見た。

「嘘。私だけそんなの駄目だって思ったのに、そんな」

聖女がチラリと魔王を見たので、バッチリ視線があった。

途端、聖女の顔が動揺しパァと顔を赤く染めた。


側近の一人がそそっと寄ってきて魔王の耳に囁いた。

「押し時ですわ。今!」


そうか!?


魔王は驚き側近を見た。騎士といちゃついているクール系ネコ族人間だ。側近がグッと親指を立ててくる。幸運を祈る、というジェスチャーだ。


「あの、だな」

勇気を出して魔王は聖女に声をかけた。

聖女が驚いたように魔王を見た。どうも仲間の方を見ていた様子。

ちょっと勇気がぐらついたが魔王は自らを鼓舞した。

「どうか、俺と一緒に生きてくれないか?」


よくできました、というように、学者といちゃついているグラマラス系ネコ人間が微笑み頷いたのが視界の端で見えた。


「わ、わたし・・・」

聖女がプルプルしている。

助けを求めるように仲間を見やり、それから涙目になっていく。


「俺が、嫌いじゃないのなら、その、できれば、いや、むしろ・・・」

魔王がゴニョゴニョ言い出した時に、聖女が小さくつぶやいた。

「・・・て」


ん。

皆が口を閉じ、言葉を聞こうとした。シーンと静まり返った。


皆が見守り、引っ込みがつかなくなった聖女が叫んだ。

「私だって、一目惚れしたのー!!」

「えっ、俺に!?」

「そうよ!」

うわぁああん、と真っ赤な顔で座り込んでしまった聖女に合わせて、魔王も座り込む。

ネコ耳がピクピク動く。

「両想いか!? そうなんだな!」

「そうよ! だってそんなネコ耳、ズルすぎるわよー!!」


「分かる。俺も激しく同感だ」

「僕も分かるよ、その通りだと思う」

勇者の仲間が深く共感を示している。どうやら彼らはネコ耳の魅力にやられたらしい。


あぶない、他のものを避難させておいて良かった。

この一行が初めて目にしたネコ耳が、自分たちで良かった。


魔王たちは事実を察して少し血の気が引きかけたが、結果オーライなので気にしないべきだと即座に判断を下した。


魔王は膝をついた態勢で、顔を覆ったまま座り込んでいる聖女に尋ねた。

「名前を、教えてくれないか」

情報として知っているが、本人からの名乗りは受けていない。


「ソフィア、よ」

「これからソフィアと呼んでも良いか?」


「早いー!!」

「俺は呼んで欲しい。エフィクト。そう呼んで欲しい」


「甘いー!!!」

「駄目か?」

顔を覆ったまま耐えかねるように叫ぶ聖女に、魔王はしょんぼりした。先ほどまで嬉しそうに動いていたネコ耳がペタリと伏せる。


静かになった事で聖女が指の隙間から魔王を確認し、動揺した。

「つ、付き合ったら、ネコ耳、触らせてくれる?」

「つきあってくれたら、良いが」

「ネコ耳つけて上目遣いとかもう無理―! ダメ―! 私、聖女ー! 世界を救いにここまで来たのー!」

「共存では駄目か?」

「もうそれで! それで良いー! でも、皆、納得して、くれるかなぁ・・・」

聖女がついに本音を吐いた。

泣きそうな真っ赤な顔で魔王を見上げた。可愛すぎて鼻血出そうで魔王は鼻を思わず押さえた。大丈夫だった。

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