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1.一目惚れは突然に

魔王城と呼ばれる城。

今、魔王である男は、魔族討伐を叫んで侵入してきた聖女一行を迎え撃とうとしていた。

他のものを避難させたほどに脅威を感じる3人組だ。聖女、騎士、学者。


今回、聖女があまりにも危険だった。

魔王は自らの命と引き換えてでも聖女を殺さなくてはと決意した。


あらゆる手段を使って、騎士と学者を聖女から切り離す。そちらは側近たちが相手になる。

最大の威力を持つ聖女には魔王自らが。


こうして。

可能な限りの対策を施し、魔王エフィクトは聖女ソフィアの前に進む。


が。魔王に激しい衝撃が走った。


聖女ソフィアが、あまりにも、魔王の好みの容姿だったのだ。

つまり一瞬で惚れた。一目惚れって本当にあった。


恋に落ちた瞬間、魔王は考える間もなく、頭部を守っていた魔王の兜を外して顔面を晒した。

魔王には顔面に自信があった。イケメンだった。誰もが見惚れると周囲から言われていた。

そして、深く考えるより早く、魔王は口説いた。

「よく来てくれた! 出会える日を待っていた!」


口走ってから魔王の頭はフル回転した。


敵対の姿勢を見せる聖女ソフィア。

心を開いてもらうには。関心を持ってもらいたい。むしろ男前素敵と思って欲しい。惚れてくれ。


ちなみに、失敗したら文字通り命を落とすし、その場合、この城は聖女の手に落ちてしまうだろう。

だが惚れた女に殺されるのは・・・いや待て俺それはならん! 共に生きる幸せを勝ちとらなくてどうする俺!


というわけで、魔王はまず訴えた。

「きみたちは誤解をしているっ!」


対する聖女は、手のひらの中にまがまがしい光を集めていく。

聖なる力と呼ばれる、魔王すら殺す危険なアレである。


「話を聞いてくれ! あと時間が無いので口説くが! 惚れた! 俺と結婚してくれ!」

「・・・」

聖女の表情は変わらなかったが、手のひらに集まっていた光がフッと消えた。

魔法には集中力が必要だ。つまり動揺させた様子。


いける。呼びかけ続けろ!


「惚れた! 好きだ! 頼む! 本気だ!」

魔王の真剣さは聖女には届いたらしい。

聖女は言った。

「話だけなら、聞きましょう」

とはいえ警戒しているようだ。


「参考に聞くが、俺の顔は好みか?」

「答える必要はありますか?」

「なら、好みなんだな」

魔王は嬉しさに笑んだ。

回答を避けたなら、答えられなかった、つまり好きという事だ。


「ありがとう。まず」

魔王は名乗る事にした。

「俺の名前はエフィクトだ。そして、俺たちは魔族ではない。ネコ族の人間だ」

「ネコ族の人間ですって?」

聖女は訝し気に眉をひそめた。


「嘘。あなたたちは魔族。私たち、人族を害する存在よ!」

「嘘ではない。お前たちはこの世界の始まりを忘れているはずだ。そもそも学者がネズミ族人間とは酷い。ネズミ族の言葉を真に受けるなんて」

「失礼な! ネフィーは素晴らしい知識で私たちを導いてくれる偉大な先生よ! 私の役割も全て教えてくれたわ!」

聖女が敵対の意思を燃やしたので、魔王は慌てた。


「すまん、焦りすぎた、ただ、分かってくれ。俺も、きみも、その学者も、皆、この世界の人間は、純粋な人間ではないんだ。全てだ。良いか。学者はネズミ族。騎士はトカゲ族。きみは、トリ族。俺たちは、ネコ族だ」

魔王の話題に、聖女は眉をひそめた。何を言い始めたのだ、という顔に見える。

魔王は焦りながら訴えた。

「もともと俺たちは、創造主に飼われていた生き物だった。ネコにハムスターにインコにエリマキトカゲ! それが俺たちそれぞれの祖先で始まりだ!」


「一体、何のこと・・・? 馬鹿な事を言わないで」

聖女の手のひらにまた聖なる力が集まっていく。

「そう。私を混乱させるつもりなのね。そうやって騙して私たちの命を奪う。魔族とはそういう生き物ですもの。騙されない」


魔王は剣を床に投げ出し、両手で頭をぐしゃぐしゃかき回した。

どうすれば良い。

そしてハッと気が付いた。

「見てくれ! 俺には耳がついている。ネコ耳だ!」

「それこそが魔族の証よ!」

「きみには背中に羽がある」

「え・・・」

聖女が少し動揺した。


「きみはトリ族人間だ。だから背中に羽がある」

「どうして・・・」

聖女は驚いている。真実を知られてしまって怯えるような表情に見えた。背中に羽のついている人間はあまりいない。聖女も秘密にしていた。


「俺たちには、元の動物の特徴が現れる。騎士風のヤツにはトカゲのシッポがある。学者にも、ネズミ族の特徴がある」

「そんなの、嘘・・・」


「信じてほしい。頼む。一目惚れしたんだ。戦いたくない」

魔王の言葉に、聖女は動揺してから、ハッとした。

「だ、駄目よ! 私を騙そうだなんて!」


「証拠がある。頼む、見て欲しい。この城の裏にこの世界の真実を知る者がいる。頼む。きみじゃなかったら問答無用で戦っていた。だけど、きみには信じて欲しい」

「うっ・・・」

聖女の心がグラグラしている。

比較的信じてくれやすい気がする。そんな心根も素敵だ惚れるぜ、と魔王は思った。出会えた幸運を勝手に噛みしめた。

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