Ⅵ
クリス「久しぶりだね」
クリス「本当はもうここに来るつもりもなかったし、話すつもりもなかった」
クリス「これは蛇足かもしれないね」
クリス「でもここに来る人なんていないから、構わないかなあ」
クリス「と、その前に、僕は今までここにいたクリスとは違うよ」
クリス「もう一度、書き始められたのが、僕」
クリス「意地の悪さが無くなって、何もかもめちゃくちゃに自分の思うままにしようともせず、全部壊してみせようと笑うこともなく、ただうずくまって泣いて救われるだけの僕」
クリス「名前と見た目と生い立ちが同じなだけで、僕は本当にクリスと言えるのかな」
クリス「ところで、僕は主人公なんだ」
クリス「ライもソラもこの場所には立てない。と言っても、日常で話すのは僕じゃなくてソラやリズが多いみたいだけどね」
クリス「唯一無二で、どれだけの物語を作ろうと1番後ろにいるのが僕。もう一度、厨二病みたいに──実際厨二病だったのかもね。全員を対立させていたのを終わらせて、全員を優しくして、救おうとした」
クリス「何を言ってるのか分からない?話があちこちに飛びすぎてる?」
クリス「…ごめんね、僕もとってもそう思うよ」
クリス「そう、で、何だっけ…ああそうだ、僕は主人公なんだよ」
クリス「僕のこの場所は一生誰に譲られることは無いだろうね。この先どれだけ物語を紡いだとしても、物語といえばと聞かれて真っ先に思い浮かぶ」
クリス「僕を幸せにしない限り、物語を終わらせない限り、僕はずっとずっと話してるよ」
クリス「…ある意味、それはいいのかもしれないね」
クリス「何年か経ってから自分の話を見返すと、辛かったこととか嬉しかったこととか理想で構成されてるんだ」
クリス「自由に書いていたつもりだったのにね。目で見て、感じて、話して、そうやって体験したことしか書けないんだ。記憶力は悪いくせにね」
クリス「……今更なんだけどさ、僕、いや僕じゃない、そう、書いてる僕だ、僕には創作の才能が無いのだと思う」
クリス「登場人物はどこか薄っぺらで、1面しか見ることが出来ない。深みが無い。1話目で話に引き込ませることなんて出来ない。誰か一人がブックマークをしてくれて、それに喜ぶだけ。書いているうちにあれもこれもと詰め込んで、単純な面白さがない」
クリス「人を書きすぎてしまう。名前なんて覚えてられないだろうにね」
クリス「せめて才能があれば良かったのに!辛くてどうしようもなくて逃げたくて、創作に耽って、それで…それが評価されたなら、まだ幾分かマシだっただろうにね」
クリス「僕は僕しか書けない。僕から遠く離れた人間を書けない。僕しか書けない。想像力が足りない」
クリス「結局これも、ただの独り言にしかならない」
クリス「あれからね、マシになったと思ってたんだよ」
クリス「それなりに頭は良くて、進学校に入って、言葉が通じないからって理由で嫌な思いをすることもなくて、ホルモンに踊らされて何もかも腹が立つ、なんてことも無くなって」
クリス「でも努力が出来ない人間だったみたいでね」
クリス「なんと言えばいいんだろう。キャパオーバー?中学まではどうにかなったけど、高校に入ってから覚えなくてはならないことが多すぎて」
クリス「人の顔は覚えられないし、友達はいるけどたくさんは出来ないし、同じような人にしか受け入れてもらえないからキラキラしてる同じクラスの子に話しかけると、拒絶されてるわけじゃないけども、あー…みたいな反応で」
クリス「なんだろうね、頭にもやがかかる感じで、何も覚えられなくて、いや違う頑張れば覚えていられるはずなんだ」
クリス「こんな小さな板にずっと目を落としていなければ、なんも面白いことなどないのにずっとTwitterをスクロールしていなければ」
クリス「ずっとこうやって言い訳したかったのかもしれないね」
クリス「ここはもう完結だよと、そう言ったのにね」
クリス「数学は1Aまでしかできない。理系だよ?化学も基礎までしか出来ない。あんなに嫌で嫌で仕方がなかった外国に行ってたことによる英語しか頼れない」
クリス「発音が全然綺麗じゃない。英語が好きで綺麗な発音になりたくて、と言う人がネイティブだと勘違いされて、でも僕には何にも言われない、こんな惨めなことってあるだろうか」
クリス「そのくせ医者なんて目指そうとしてる。楽観視だけはお得意だね」
クリス「ああ、クリスにこんなことは言わせたくないのに。前の僕みたいなことを」
クリス「もう受験生なんだ、あと2ヶ月?3ヶ月?」
クリス「本気でこれだけしか学力がない。僕は本当は何の才能も無いのではないか?」
クリス「物語に頼って生きてきた。10歳の時から18歳の今までずっとね」
クリス「でも評価されない。評価されるために書いてるわけではないのに」
クリス「絵をね、描けるようになったんだ。二次創作でしかないけど。いいねを貰えるのは楽しかったな。でも現実で友達の人のいいね数に苦しくなったりして」
クリス「そうだ、僕は承認欲求の塊なんだ」
クリス「綺麗で高尚な顔して自分を救うためって言いながら、心のどこかでバズらないだろうか、誰かに見て貰えないかってずっと思ってる」
クリス「人に好かれる物語は書けないくせに」
クリス「言葉を書いてる場合じゃない。明日…もう時間が変わってるな、今日、今日模試があるんだ」
クリス「怖いんだ、全部」
クリス「そうだ僕は怖いんだ。失敗するのが」
クリス「期待されてる。それが怖い。スマホを触り続けてしまう自分が嫌い。現実から目を逸らし続けている自分が嫌い。もう全然時間は無いんだ。分かってる?分かってるのに、何でだろう」
クリス「ここで吐き出させてほしい」
クリス「…どうせ誰も見ないんだから、構わないよね」
クリス「昔はもっともっと頭が回っていたような気がする。言葉がどんどん出てきて、計算のひらめきも速くて、何かを聞かれればすぐにアイディアが湧いた」
クリス「今はもう落ちこぼれなんだ。足掻きもしてない」
クリス「どうすればいい?どうすれば僕は胸を張れる人生を送れるんだ?」
クリス「結局人間ができていないダメなやつなんだろうか。どうか誰か助けて欲しい」
クリス「そうだ、これからはスマホはここにしか来られないようにしよう」
クリス「文字を綴ってる方が幾分かマシかな」
クリス「そもそもスマホを手放せばいいのにね。中毒になってるのかな。きっとそうだろうな。ああ辛くて仕方がない」
クリス「…でも死にたいって思えないんだ」
クリス「書こうとも思えない。Twitterにでも言えばいいのに、言葉に出来ない。思うことが出来ない」
クリス「これで失敗したらそう思うようになるかな。どうなんだろう」
クリス「あーあ、何か尖ってるものがあれば良かったのに。才能があればよかった。中途半端じゃなくて、もっと頭が良ければよかった」
クリス「どうすればいいんだろうね」
クリス「ねえ、きっと僕はまた来るよ」
クリス「きれいに終わらせていたのにね。自分への祈りで終わらせていたのにね」
クリス「でもここでしか僕の1番汚いところを書けない」
クリス「書いて初めて僕は自分の恥を見られるんだ」
クリス「ああ死にたくない!」
クリス「恥を晒したくない。失敗なんてしたくない、完璧な自分でありたい」
クリス「完璧ってなんだろう。頭のいい大学に入ること?それが本当に完璧?でもそこから外れたらと思うと怖いんだ」
クリス「そろそろこの辺にしておこうかな、今日は徹夜をして、頭に叩き込まなきゃ」
クリス「じゃあ、またね」




