01 ハンナの母
ハンナの母
正確には、ハンナは貴族の妾の娘だった。
彼女の母親はハーフエルフで、人族とエルフの混血だった。 エルフと人族はDNAレベルで近しいためか、稀に混血が生まれることがある。
しかし、同族である人族に対してすら差別意識の強いこの国では、滅多なことでは奴隷であっても、異種族であるエルフの入国は認められてこなかった。 彼女がこの国の厳しい入国審査から漏れたのは、人との混血種だったことでエルフの特徴が薄かったせいだろう。 そして、彼女もまた奴隷だった。
類稀な美声の持ち主だったハンナの母親は、歌う奴隷として都の酒場の主人に買われた。 そこで、貴族であるハンナの父親に見初められ、身請けされたのだった。
ハンナの父親は、自民族優越主義の濃いこの国においては、一風変わった趣向を持つ人物だったのだろう。
斯くしてハンナは、幸の薄い母親から1/4のエルフの血を受け継いで貴族街に生まれ落ちた。
ハンナの不幸は、その母親の死からはじまった。
ハンナの物心がつかない内に、ハンナの母親は不慮の事故で亡くなってしまい、小さな彼女は母親の死すら理解することができないまま、養女として実父の住まう屋敷へ引き取られることになった。