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00 北へ向かう一行

馬車が進んで行っています。


北へ向かう一行



  初老の紳士は実はまだ若く、実年齢はまだ見た目に達していない。


  紳士は年端も行かない3人の子供と、小柄で年齢のわかりにくい愛らしい淑女、そして、ケガを負った兵士風の青年2人と、鉛色の獣が引く馬車の手綱を持つ老人、計8人のパーティーを引率している。

御者の老人は獣の上に直にまたがっていて、空いた馬車の御者台には紳士と淑女が並んで座っている。 荷台の前方にはさっきの子供たちがいて、間に荷物を置いて、その後方にはケガをした青年2人が乗っている。


  日が少しだけ傾きかけた頃、馬車は王都を出てから初めての関所に差し掛かっていた。


  紳士は関所の少し手前で馬車を止めて、荷台の者たちに声をかけたあと、淑女と2人だけで屯所に近づいていった。

本道を離れて、林の下草の間を気配を殺して、慎重に足を進めていく。

だがしかし、紳士たちの心配をよそに、そこにはもう警備する者たちの人影はなく、開け放たれた建物が残っているだけだった。

関所を守っていた兵士たちに王都への帰還命令が出されたのは、ずいぶんと前のことなのだろう。 中には、蜘蛛の巣が張った5人分の椅子があって、テーブルの上では、片付けられずに放置された食器が埃をかぶっていた。



  紳士たちは、この場所から南にある王都を、夜がまだ暗いうちに脱出してきた。

昨夜の緊迫した脱出劇から比べると、随分と平和な時間が流れている。 不安になるほどに何もない。 滅びゆくこの国の“最後の静けさ”なのだろう。


  一行は北に向かって進んでいる。

北の国境を抜けた先は山脈に囲まれていて、そこからは人族の住む領域の外側になる。

人族にとっての本当の未開の地はまだそのずっと先なのだが、かつてそこにあった幾つかの小国が滅びてしまっているため、今は人族の支配の及ばない領域になっている。 それでも、小さな人族の集落が細々とわずかながらに残っているらしい。


  もともとこの地域一帯は、土壌の土の層が浅く、作物の生産に向いていない。 それに加え、特に珍しい地下資源もないことから、大国は全く関心を示してこなかった。 この一帯が辺境といわれる所以だ。

  都の王政も、国が傾く以前からこちら側にかまっている余裕はなかったらしく、放置された関所の設備は生活感を残しながらもボロボロで、ほとんど廃墟だ。

紳士と淑女は崩れかけた建物の間を進んで、関所の大門の前に立った。 文字の消えた立て札がいくつかあって、閑散とした広場に木の葉の擦れる音だけが響いていた。


  大門の粗末な術式で書かれた結界印は、愛らしい淑女の手によって危なげもなく解除された。

紳士の方は、身の丈の3倍ほどもある関所の門扉を一人で開けてしまった。 それをそばで見ていた淑女が子供のようにパチパチと手をたたいてはしゃぎ、紳士は右手で頭の後ろを掻いた。

淑女は手を後ろで組むと、照れ臭そうに馬車の方へ戻る紳士のすぐ後ろについて歩いていった。



  紳士たちが戻り、危機を脱したという旨を伝えると、低い姿勢を取っていた子供たちと兵士の2人は、それぞれに深く息を吸い、体を伸ばした。

皆、疲れてはいるものの、落ち着いた表情をしていて、怪我を負った2人の青年たちからも良好な顔色が見てとれた。


  動き出した馬車は、またいくつかの林を抜け、大きな川を渡り、少しの休息をとりながらも、まだしばらく走り続けた。 そして、太陽が地平線に半分ほど隠れる頃になって、夜を明かすために大きな岩の脇に寄り、そこに止まった。



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